もう30年が過ぎた。1989年、駆け出しのファッションエディターだったが、私はイタリアにいた。インポートブランドが隆盛を極め、タイアップの撮影がとんでもない量の時代。倉庫の屋上、廃止された路線など、面白そうな撮影場所はどこへでも行った。海外ロケも頻繁にあり、当時、勢いのあったファッション大国、イタリアで撮影したのだ。
フォトグラファーは、なんとアルド・ファライ。ジョルジオ アルマーニ(以下アルマーニ)の広告写真、雑誌『ルウォモヴォーグ』でのファッション撮影で大活躍していた超売れっ子との豪華な仕事。見るからにアルマーニで身を包んだファライがロケ地に登場したとき、震えるような思いだった。
当時のスタイルは熱かった!
1980年代を振り返る!
アルマーニが’80年代のメンズファッションに与えた衝撃は、あまりにも大きかった。まず、ジャケットの概念を根本的に変えた。’75年にブランドが誕生した頃は、クラシックな仕立てを感じさせたが、あるときから、芯地が薄くなり、あるいは芯地を省き、一方で肩パッドは厚みを増した。隆々とした肩のラインに対し、ジャケットのすそがすぼまる逆三角形のスタイル。
それをよりエレガントに見せたのが、それまでのウーステッド(一般的なスーツ地、梳毛のこと)が中心だったメンズのテーラードとはまったく違う素材使いだ。
何種類もの素材を混紡・交織した生地を選び、なかにはレディース用の繊細な生地にも着目し、ドレープが豊かなスタイルを確立した。ロングシルエットのジャケットや、流れるようなパンツは、’80年代を象徴するメンズファッションそのものだった。アルマーニと共に「3G」と呼ばれた、ジャンフランコ フェレもジャンニ ヴェルサーチもタイプは違っていても、ゆったりとしたシルエットの服をつくり上げた。ソフトな服にだれもが熱中していたのである。
この’80年代のスタイルを、近年、強烈なイメージで復活させたデザイナーが、2009年に登場したウミット・ベナンではないか。ビッグショルダーでラペルを低く設定したそのジャケットは、今日のクラシックなスタイルに変化を及ぼす先駆けとなった。
当時はデザインが先走りすぎたかもしれないが、あれから10年経った今はどうだろう。体にジャケットをまとわせる大きなシルエットや、太いパンツへと移行し、くつろいだ雰囲気こそが今の気分を表す。
アルマーニやヴェリーを着てきた私にとって、今季は、’80年代の面影を残しながら、つくりや素材で進化した新しいテイストの服に目が向く。それゆえ、往時と今の服と比べて思い出を振り返るのが、実に痛快なのだ。(文・矢部克已(本誌エグゼクティブファッションエディター))
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- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
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