毛利元就と三人の息子の「三本の矢」のエピソード、日本中に知られていのに、作り話かも!?

アベノミクスにも引用される、有名な逸話ですね。

戦国時代の安芸国(現在の広島県周辺)の大名・毛利元就が息子たちに教えたとされる「三本の矢」のエピソード、大変有名ですよね?

晩年の元就が病床に伏していたある日、3人の息子を前に「矢は1本なら簡単に折れるが、3本まとめるととても強靭で、そう簡単に折れるものではない」と示し、息子たちに「心をひとつにして、毛利家を守るように」と告げ、息子たちは父の教えに従うことを誓った…というものです。

サッカー・Jリーグの『サンフレッチェ広島』のチーム名は、このエピソードにちなんでいますし(日本語の「三」とイタリア語の「矢(フレッチェ)」)、安倍晋三首相がアベノミクスの主軸として「三本の矢」を掲げていることからも、日本人の間にいかにこのエピソードが浸透しているか?がよくわかりますよね。

しかし、歴史や毛利元就関連の資料を紐解くと、なんと、「三本の矢」のエピソードは現実ではなかった確率が高そうなのです…。

え?「三本の矢」のエピソードが実在しないかも!?

「三本の矢の教訓」は実在しないうえ、長男は父の教えに感動するどころか、たてついた?

「三本の矢」と似たような内容で、元就の直筆とされる「三子教訓状」という書状は現存しており、重要文化財として山口県の毛利博物館に収蔵されています。

「三子教訓状」は、元就が60歳の頃に3人の息子に向けて書き送った書状で、内容は、今後の毛利家をいかに盛り立てていくか?という、元就の政治的構想を著しています。その一環として「兄弟が結束して毛利家の維持に努めることの重要性」を説いてはいますが、「三本の矢」のような象徴的なアイテムは出て来ず、更に書面で送っているので、息子たちの前で矢を折って実演…的な状況も存在していません。

さらに、元就がわざわざこの書面を送った背景には、3兄弟の仲がさほど良くなく、それが毛利家の今後に影響するのでは?と、元就が憂慮していたからだと言われています。

長男の毛利隆元はこの書面を受け取ったあと、父・元就にすぐ返信したようで、その返信に対する元就の返信だけが現存しているのですが、その中で「当家のことをよかれと思うものは、他国はもとより、当国にもいない」「兄弟の仲が悪くなれば滅亡すると思うように」などと苦言を呈しており、長男は弟たちに関する苦情などを返信したのではないか?と推察されています。

しかしこの長男はその後、父・元就より先に他界してしまい、結果として長男の子・毛利輝元を、他家に養子に出た叔父たち(元就の次男と三男)が結束して支え続けました。その後も、元就の結束の教えは遵守され、毛利家は幕末まで続く息の長い家系となった…と言われています。

毛利元就が崇敬した厳島神社(広島県)

それにしても「三本の矢」はどこから登場したのでしょうか?

「三本の矢+毛利元就親子」エピソードは、戦前の教科書に掲載されて広まった? しかしネタ元が日本か外国かも特定できない!

毛利元就が子供たちに三本の矢で教訓を与えた、という逸話にについては、明治~昭和初期ごろの小学校の教科書に、現在知られているのと同じような内容が載っていた、という情報が散見されます。教科書に載っていたなら、広く知られるようになったのもうなずけますよね。

しかし教科書以前の情報ソースは、江戸時代に書かれた写本からとった、毛利家のエピソードとして書かれたものである、という説や、海外の似た逸話をアレンジした、という説などさまざま。現在に至っても、正確な情報は突き止められていないようです。

ちなみに、海外には「三本の矢」と本当にそっくりなお話が複数存在しています。

モンゴル史の英雄、チンギス・ハーン関連の逸話に、仲の悪い兄弟と5本の矢の教訓譚があり、こちらは教えたのが母親、矢の数が5本、と言うところ以外は「三本の矢」と同じ展開です。

また、イソップ寓話にも『三本の棒』の物語があり、こちらは矢と棒というアイテムの違いだけで、父親と3兄弟、という関係性も同じです。

どこから来た話なのか? また事実かどうか定かでなくても、智将・毛利元就と息子たち、という設定は、日本人にとっては大変入りやすいですよね。

しかし入りやすさと反比例して、歴史上の人物を「太郎さんは」「花子さんは」のような気軽さで教科書に使用してしまったものだったら、それはどうかしら?という懸念も残ります。大人の女性のちょっとした豆知識として、心にお留め置きくだいね。

毛利元就が崇敬した厳島神社(広島県)
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