リストランテ「ドゥオモ」は南シチリア、ラグーサ・イブラという街にある。ラグーサ、モディカ、ノートと続く、ノート渓谷はユネスコ世界遺産にも認定されたバロック建築が有名な土地だ。

ラグーサ・イブラは中でもある種独特な景観を誇っており、旅行者の人気が高い。ラグーサ新市街から続くつづら折りの坂道を降りてゆくと、やがて谷間に浮かぶ空中都市のような姿が見えてくる。

周囲の谷から隔絶したような石造りの町は紀元前1000年にはすでに存在したと言われている。シチリアの語源となったシクリ人が築いたこの町は、ギリシャ人でもフェニキア人でもなくイタリア人が築いたという意味ではシチリアで最も古い町のひとつなのだ。

ミシュラン2つ星「ドゥオモ」で最高のシチリア料理を味わう

周囲の谷から隔絶したような石造りの町南シチリア、ラグーサ・イブラ

1693年に町を襲った地震のあと、ラグーサ・イブラは現在我々がみるような姿に修復された。世界中からこの町を訪れる旅行者はあとをたたないが、ラグーサ・イブラといえば美食の世界においてもその名は広く知られている。21世紀最高のシチリア・レストランといわれる「ドゥオモ」があるからだ。

「ドゥオモ」シェフ、チッチョ・スルターノ

「ドゥオモ」シェフ、チッチョ・スルターノは13才で料理の仕事をはじめ、ニューヨークなどで料理のキャリアを重ねたあと故郷のシチリアに戻った。自分の店を開く場所を探してラグーサ・イブラを歩いていたところ、ドゥオモ(大聖堂)の裏手にある小さな場所を見つけた。

こここそが自分が料理を思い切り表現できる場所だと確信したチッチョは、2000年5月にリストランテ「ドゥオモ」をオープンする。当時まだ一部のレストラン以外は伝統料理一辺倒だったシチリアにおいて、チッチョの作る料理は革新的すぎて「ラグーサ・イブラのような田舎では成功しない」といわれたこともあったが、2004年にミシュラン1つ星を獲得して話題になり、さらに2006年に2つ星を獲得して以降名声は不動のものとなった。今回シチリアの旅では「ドゥオモ」にてチッチョ最新の料理を味わってきた。

頭と心を満たすチッチョ最新の料理

左、前菜カタツムリと生のエビを組み合わせた「パッセッジャータ・ディ・ルマーケ」。右、温かいスープパスタ「ウニのニョッケッティのピッツゥリアーティ」。

前菜の中からいくつか紹介すると左の写真は「パッセッジャータ・ディ・ルマーケ=カタツムリの散歩」という料理。上からパン粉を炒めたモッリーカ、生のエビ、リコッタ・クリーム、一番下にオレガノとトマトソースで煮たカタツムリ。

カタツムリもシチリアではよく食べられる食材だ。スプーンの上には生の手長海老とサボテンの実 Fichi d’Indiaの甘いソース、これは一口で食べる。海と山の異なる食感の組み合わせ。

右の料理は「ウニのニョッケッティのピッツゥリアーティ」ピッツゥリアーティ とはカボチャを使ったラグーサ伝統のミネストラのこと。これに2種類のパスタを加えてスープパスタにしてある。添えられキャビアの下に隠れているのはエビとハタのほほ肉のタルタル、ヨーグルトを使ったアラブ風ソース。シチリア料理は昔も今もアラブの影響が強い。

「ヒメジ、シチリア統治、アピシウス風」はローマ時代に書かれたアピシウスのレシピ集に着想をえた。

ローマ時代のレシピ本、アピシウスの料理書とシチリア統治の歴史にインスピレーションを得た料理。アピシウスはヒメジに目がなく、大枚をはたいてもヒメジを購入していたという。ヒメジは炭火で直にグリルし、魚のブロード、野生のセロリ、コラトゥーラ・ディ・アリーチ(ガルム)のソースにシチリアの希少小麦ティミリアで粘度を加えたもの。中央にはヒメジの卵とレバー。もう一種類のソースは甘口ワイン、パッシートとコリアンダーシード。甘味とガルムの塩味というコントラストはシチリアの強い日差しからできる光と影を連想させる。

「イワシと野生のフェンネルのパスタ」イワシのパスタもシチリアを代表する味だが、これには野生のフェンネルのソースをプラスしてシチリアの荒野でイワシのパスタを立ち食いしているかのような錯覚にとらわれる、強烈な芳香。
左「シチリア産黒トリュフのジェラート」右「シチリア産骨つき黒豚ロースのファルチート」

一口サイズの口直しに登場したのは、なんとシチリア産黒トリュフと甘口ワイン、ズィビッボの冷たいジェラート。なんと南の島シチリアでもトリュフはとれるのだ。乳製品とトリュフの相性の良さが心地よい。

メインの肉料理は「シチリア産骨つき黒豚ロースのファルチート」豚のファルチート(詰め物)と聞くとピンとくるかたもいるかもしれない。一口食べた時「む?」と感じたが、これはラグーサ近郊にある豚肉料理が有名なレストラン「マヨーレ」のスペシャリティに敬意を評した料理。

中にはアックア・ディ・ポモドーロ、モッリーカ、ファルマッジョ・ラグサーノ、豚ひき肉で作った詰め物を仕込んでローストし最後に再びシチリア産黒トリュフをトッピング。

小菓子、左「ミニ・カッサータ」右「ンパナティッギ、クレーマ・ピスタチオなど」

「ドゥオモ」では最後の小菓子まで徹頭徹尾シチリアである。一口サイズのミニ・カッサータはスポンジケーキをマジパンで包んだシチリア伝統菓子。もうひとつ一口サイズのンパナティッギは牛肉をさまざまなスパイスとともに煮込み、詰め物にした南シチリアの菓子。

「ドゥオモ」の食卓にはシチリア以外の料理、ドルチェは一切登場しない。シチリアマニアならば狂喜乱舞するような食材と歴史に満ちた料理の連続で、例え難解でも家に帰ってから料理の意味などを調べて見ると「そうだったのか!」と思うであろうこと必死。

胃を満たすためだけではなく(もちろん満たすが)、頭と心を満たしてくれるチッチョの料理は、シチリア料理愛好家たちをさらに奥深いシチリア料理の世界へと誘ってくれるはずだ。

Ristorante Duomo

  • Ristorante Duomo TEL:0932-651265
  • Via Capitano Bocchieri, 31, Ragusa Ibla(RG)
この記事の執筆者
1998年よりフィレンツェ在住、イタリア国立ジャーナリスト協会会員。旅、料理、ワインの取材、撮影を多く手がけ「シチリア美食の王国へ」「ローマ美食散歩」「フィレンツェ美食散歩」など著書多数。イタリアで行われた「ジロトンノ」「クスクスフェスタ」などの国際イタリア料理コンテストで日本人として初めて審査員を務める。2017年5月、日本におけるイタリア食文化発展に貢献した「レポーター・デル・グスト賞」受賞。イタリアを味わうWEBマガジン「サポリタ」主宰。2017年11月には「世界一のレストラン、オステリア・フランチェスカーナ」を刊行。