企業や遺産相続で「違法なお金のやり取り」があったら、税金でどんなペナルティがある?プロが2つの実例をもとに解説!
遺産相続のプロ、税理士の尾上千晶さんが、実際にクライアントから持ちかけられた相続案件をもとに、資産のある家庭の遺産相続をどうすべきか?について、解き明かしていく連載企画です。
第4回目は、「違法なお金のやり取り」が企業や相続で発生したとき、税制面でどのようなペナルティがあるか?を2つのエピソードから学びます。

「尾上千晶税理士事務所の尾上です。病院や医師の方を中心に、税の相談を長年続けてまいりました。
会社の存続や土地の取引にはもちろんルールが大切なことは、みなさんご存知だと思います。でも、意外と落とし穴が潜んでいることもあるのです。
今回は、私が担当していたあるクリニックのエピソードと、浅草の遺産相続から発生した土地問題のエピソードから、違法なお金のやり取りが発生した際の、税理士としてのアドバイスをご紹介します。
1つ目のエピソードは、私がお仕事の関わりを辞めさせていただいた、とあるクリニックのケースからご紹介します」
■1:医院から4人の看護師が一斉退職。いじめ?引き抜き?と思っていたら…
「今日で辞めます」
勤務している看護師4名がある日突然、一斉に言い出したそうです。そのまま同時に退職。
クライアントである医院は派遣会社さんから、派遣の看護師を手当てをし、人数が足りないながらも、なんとかクリニックの診療を続けていました。このお話を伺ったときは、よくある看護師同士のいじめや、外からの引き抜きだと思っていました。

それから2か月後。会計の集計をしていると、なんだか、ある数値が異常なことを発見しました。通常の月の3倍くらいの数値に上がっており、異常値としては、超異常値。
医療の場合、売上に対しての経費の割合は、一定の割合で生じるため、売上の上下動で、経費率は変動するのが当たり前。しかし、ある数値が異常に高くなっていたのです。あれあれ? なぜ、この数値が高い?
内容を、よくよく見ていくと…特殊な経費です。しかも、一件あたりも高額です。
クリニックの事務長さんから、詳しく話を聞くと・・・(公の場所では言えないので割愛)・・・診療ではなく「知的な興味を追求する」ために使ったとのこと。もちろん、許されるはずもありません。
診療するのがクリニックの仕事ですが、勝手に知的な興味を追求することが良いことであるわけもなく、それを請求に乗せてしまうのは、詐欺行為に近いことなのです。
そして、その重大性を察知した看護師さんたちは、「私たちは、そんなことをするところで働くわけにはいきません」と一斉に退職したということが判明したのです! 慄然といたしました。
本来、病気を治すことを依頼されるのが「診療行為」です。
その患者からの信頼をもとに、自分の知的興味を追求するというのは、患者の信頼を裏切っております。当然、違法行為に当たります。露見した場合には、相当なペナルティがあります。最悪、クリニックの存続だけではなく、医師免許の停止・取消となります。
これは関わってはいられないと、速やかにこちらとの取引は終了させていただきました。
■2:父親から継承した土地の相続手続きをしていたら…所有者が父じゃない!?

次にご紹介するのは、実際に相続処理を担当させていただいた、とあるご家族の遺産相続についてです。ある日、その一族の長であるお父様がなくなりました。
お宅があったのは浅草。今でこそ、銀座・新宿・渋谷に比べて、流行発信地としては出遅れている感もありますが、戦前は間違いなく浅草が花形でした。
亡くなったお父様はそんな場所に広大な土地を所有しており、跡を継いだご家族が相続の手続きのために、土地を精査したところ「土地の名義がA夫とはまったく違う第三者」になっていることを発見したのです。
しかも、裁判所の命令もついており、建物を建てたり、売ったりと、あらゆることについて禁止されている土地という扱いになっていました。そう、そこは違法取引で取得した土地だったのです。
先代が戦争中のどさくさに、『取得したもん勝ち』として勝手にそこに建物を建設して、大きく商売を続けていたのでした。ご家族の方はこの事実に、びっくりしておりました。
「そういえば、昔、この話を聞いたことがある。子供の頃の話で、大人の人が揉めていた記憶があったけれど、まさか自分の父の土地の話とは思わなかった」と。
土地の所有者は、行方知れず。戦後のどさくさのお話であり、土地の所有者も、当然亡くなっていると思われます。正直、どうしようもない。というのが現実でした。
そもそも、相続以前に、お父様の所有でもない土地のことで、相続の相談をするのもおかしなことです。
所有しているわけではない土地の上に、勝手に建物を建てていたわけですから、相続が発生したところで、一族がその土地を引き継げるわけもありません。結果、この土地を除く形で、財産の分割を行うことになりました。
係争の内容について、先代がなくなった今になっては、主張することもできませんし、相続人の方々も、筋の悪い話に付き合いたいとは思わなかったようです。元々の所有者が不明&存命していない以上、権利について争うことすらできません。
建物を取り壊し、すべて財産を移転して、このお話は終了となりました。残された土地はどうなったかって?
このようなケースの場合、最後には土地は国所有となり、競売に出されることが多く、今回もそのような決着を見ました。
違法なお金のやり取りには「税金によるペナルティ」が発生する可能性があります
以上、2つのケースを見てきましたが、いずれも「税金によるペナルティ」が有り得るケースです。

税金の世界では、ふたつの考え方があります。
ひとつは、申告しなかったときに課されるペナルティ「無申告加算税」が課されること。もうひとつは、ごまかしたとか、支払わなかったときに課されるペナルティです。ただし、この病院の事例は刑事罰なので、もはや税金の世界とは違っているのでご注意を。
一般的に、過少申告加算税・不納付加算税・重加算税・延滞税など税額に対して5%~40%の割合を乗じて計算した金額となります。もちろん支払った金額はペナルティなので、経費計上はされません。あくまでも、税務的なルールに沿って対応していない、ということに対するペナルティです。
ときどき「お金さえ払えば文句ないだろう」と言われたりしますが、いえいえ…金額も高額で悪質となると、刑事事件となることもあります。場合によっては、事件としてマスコミ報道をされることもあります。
今回のふたつの例では、■1の病院の件は、刑事罰になるほどの違法行為。
また、雇用されている側であれば、もし知らずにこういったところに勤めていれば、罪に加担したと言われることもあります。
このクリニックの事例においては、違法に気づいた雇用者が次々に辞めるという代償も支払っているのに、雇用側はそのことに気がついていません。すでに見えないところで崩壊は始まっているのです。
次の世代に、事業を引き継ごうと思うときには、税的に問題がないことも大事ですが、遵法精神も守られていることが重要です。
また、引き継ぐ側も、引き継いだ後に解決し難い問題が出てきて困らないように、生前話し合ってきちんと調べておくことも必要なことだと思います。ご注意ください。
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