海外では当たり前のように根付いている「レディーファースト」。
日本での生活しか経験がないと、海外でレディーファーストの対応をされたのにもかかわらず、見過ごしたり、NGなふるまいをしてしまって、恥をかいてしまうことも…。
そんなレディーファーストの受け方について、今さら聞けないスマートな対応の基本を確認しておきましょう。マナー界のカリスマであり、現・マナーコンサルタントで美道家の西出ひろ子さんに、その基本を教わります。
西出さんは、30代で英国に語学留学し、現地でビジネスパートナーと会社を設立。日常生活のなかにある英国のマナーに大きな影響を受け、帰国後、マナー講師として幅広く活躍されています。英国に根付く本場のレディーファーストのマナーとは?
レディーファーストのよくあるシーン6つの正しい対応・NG対応
西出さんによると、階級社会である英国では、レディーファーストが身についている男性と、そうでない男性がいるそうです。そして上級のアッパークラスとアッパーミドルクラスの男性は、必ず次のようなレディーファーストを、当たり前のように実践するようです。
1.女性が車に乗る際には、男性がドアを開閉する。
2.エレベーターに乗る順番は、女性が優先。
3.扉を開けるときはドアマンのように男性がドアを押さえてくれる。
4.レストランでのオーダーは男性が行い、女性のメニューを先に伝える。
5.レストランでナプキンがある場合は、隣の男性が女性のひざにナプキンをかける。
6.道では男性が女性の荷物を持つ。
これらのレディーファーストが実践される主な6つのシーンについて、西出さんに女性の正しい対応とNG対応を教えていただきました。
「もちろん、相手や環境によって、すべての男性がレディーファーストを行うというわけではありませんが、もし、そういう接し方をされたら、恥ずかしがらず、遠慮せず、感謝しながら受けることが、女性として愛される秘訣です」
■1:車に乗る際に、男性にドアを開閉してもらったら「にっこり」がポイント
「男性が先周りして、車のドアを開けてくれます。このとき、車に乗り込む前に一度動作を止め、にっこりして男性へアイコンタクトをとり『ありがとう』とお礼を言います。日本人の場合、会釈も加えるといいですね。海外の方に会釈は必要ありません。『Thank you』とにっこりしながら言います。
何も言わなかったり、無表情だったりするのはNG。さらに『ありがとう』と言いながら乗り込むのもNG。先日イギリスでエリザベス女王が車に乗り込むシーンを実際に拝見しましたが、その際にも、立ち止まってにっこり挨拶をされていらっしゃいました」
■2:エレベーターに乗るときに優先してくれたら、素直に従う!
「恋人や夫婦の場合、エレベーターなどに乗る直前に、男性は女性の半歩後ろに立ち、腰に手を当てます。そしてエレベーターに乗る際には、軽くポンと腰を前に押してくれ、エレベーターに先に乗るよう促してくれるのです。
私の夫は日本人ですが、英国とアメリカでの海外生活が長く、日本でもレディーファーストのふるまい全般を行います。ですから、エレベーターでもそうしてくれます。また、男性は女性を守るために後ろから支えてくれています。それはエスカレーターも同じです。ちなみにこのときは『ありがとう』とは言わなくていいです。恋人や夫婦ではない場合は、触れずに後ろからどうぞ、と促されるでしょう。
NGなのは、男性にどうぞとすすめられたのにもかかわらず、女性が『いえいえ、どうぞお先に』と言って、男性を先にエレベーターへ乗るように促すことです。
日本人の女性は奥ゆかしいため、遠慮してこのようなことを行いがちですが、レディーファーストの国では先に乗り込むのが正解。それを『どうぞ』と言って遠慮するのはNG。男性からしてみれば、逆に迷惑で、男性もあとから早く乗り込まないといけないのに、と感じてしまうそうです」
■3:扉を開けるときにドアを押さえてもらったら…周りにも注意して!
「恋人や夫婦の場合、男性が先にドアを開けてくれ、エレベーターのときと同じように後ろから腰をポンと押してくれます。ドアマンがいるときは、ドアマンがドアを押さえていてくれます。そのときは、ドアマンに『ありがとう』や『Thank you』と言いましょう。
ここでの注意点は、レディーファーストだからといって、当たり前のようにずんずん入っていけばいいわけではない、ということです。必ず『ありがとう』と言ってその厚意を受けるなど、一緒にいる男性やドアマンなどへの感謝はもちろん、周りに対する配慮もとても大切です。
例えば、杖をついている老人の方やお子様、車いすの方が同じタイミングで入るような場面では、そちらの方を優先します。レディーファーストだからといって、自分が真っ先に1番に入れるというわけではなく、状況に応じて変わってくるということを、心得ておいてください。
そしてレディーファーストをきちんと受けるためには、周りをしっかり見ていないとできません。周りを見ていないということは、『自分ファースト/自己中』です。マナーというのは『相手ファースト』であるということです。レディーファーストもマナーのひとつであり、相手ファーストが前提なのです」
■4:レストランでのオーダーは男性に行ってもらう
「レストランのオーダーは、男女一緒の場合、男性が『何にしますか?』と女性のオーダーを聞いてくれます。そして男性が女性の分もオーダーし、女性のメニューのほうを、先に店員さんに伝えてくれるのが通例です。
また気の利く男性は、テーブルにおしぼりがあるときは、自分のおしぼりの袋を開けて、袋の部分を持って、中身だけ女性へと渡してくれます」
■5:レストランで見知らぬ隣の男性がナプキンをかけてくれても、驚かないで!
「レストランの席に着席したら、男性がナプキンを女性の膝にかけてくれることもあります。例えば、長テーブルが用意されている晩餐会などの場合は、男女交互に座ることになりますが、左側にいる男性が、右側にいる女性をエスコートする決まりになっています。
それは知り合いかそうでないかに関わらず、です。つまり左側にいる男性が、自分にナプキンの膝にかけてくれるというわけです。びっくりしないようにしてくださいね。一般のレストランなどでも、お店の方がかけてくれることもありますね。いずれにせよ、かけてもらったら驚かずに、にっこりして『ありがとう』と感謝の気持ちをお伝えしましょう」
■6:道で男性が荷物を持ってくれようとした!自分で持ちたい場合は断ってもOK
「男性は女性の荷物を持つ慣習があります。『持ちましょうか』と言われたら、持ってもらいたいときは『ありがとう』と言って持ってもらいましょう。もし、大事なものが入っているなど、自分で持っていたい事情などがある場合には、無理に持ってもらう必要はありません。これまでご説明してきたレディーファーストと違って、これは断ってもOKです。
またハンドバッグやセカンドバッグなどの場合はケースバイケースです。例えば、パーティーなどでは、バッグは女性にとって欠かせないアイテムですから、このときは男性はバッグを持ちません。
一方で、スリには注意してください。例えば、海外旅行に行ったときに『キャリーバッグ、お持ちしましょうか』と、見知らぬ男性が言ってくる場合もあります。レディーファーストの行為だと思って渡してしまった相手が、スリだったというケースもあるためです」
そして西出さんは、これらのレディーファースト全般におけるNG対応について、次のように話します。
「男性からレディーファーストで接してもらったら、素直に『ありがとう』と言って受ければOK。『いいです、結構です』と言ってしまうと、その場がスムーズではなくなってしまいます。マナーはその場をスムーズにするコミュニケーション。にっこりして『ありがとう』と言うと男性はハッピーになり、そのハッピーは自身にも返ってきます」
日本でレディーファーストの行為を受けたら…?
ところで、日本でもレディーファーストの行為をされることがあるでしょう。その際、どのように応対すればいいのでしょうか?
「基本、何かをしてもらったら『ありがとう』と言って、にっこりするのがよいでしょう。もちろん、荷物を持つ・持たないについては断ってもいいです。
注意したいのは、日本人の社長や男性の上司などとエレベーターに一緒に乗るシーンで、『お先にどうぞ』と言われたときです。
この場合は、日本におけるビジネスマナーを優先させて、そのまま受けるのではなく、いったん『社長どうぞ』『部長どうぞ』と言ったほうが無難ですね。それでも相手から『レディーファーストだから、お先にどうぞ』という感じで言われたら『それでは、お言葉に甘えて、失礼いたします』『恐れ入ります』などと言って、先に乗るとよいでしょう。
ただ、相手が外国人なら、ビジネスの場であっても相手に対して一旦『お先にどうぞ』とは言わず、即『ありがとうございます』と言って乗ってよいでしょう。相手はレディーファーストの習慣がある国の方である、と思われるためです。
相手がビジネスの関係であれば、日本において、レディーファーストは『TPPPO』によって対応方法が変わります。TPPPOとは、『Time(時)、Place(場所)、Person(人)、Position(立場)、Occasion(場合)』の頭文字。時と場所とシーンのほか、相手がどんな方なのか、そして相手と自分の立場を考慮して、ふさわしい対応をすることがポイントです」
レディーファーストに慣れていない日本人女性にとって、海外でレディーファーストの行為を受けたら、びっくりしてしまうかもしれません。恥ずかしい姿を見せないためにも、相手の厚意をきちんと受けるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
レディーファーストの正しい対応を身につけながら、マナー全般についても学んでいきたいですね。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 石原亜香利
- EDIT :
- 安念美和子、榊原淳