日本が史上初の決勝トーナメント進出を果たした「ラグビーワールドカップ」は記憶に新しいところ。同大会にて、日本は格上のアイルランド、スコットランドを撃破するという金星をあげましたが、スポーツに限らずビジネスの世界でも、ラグビー日本代表のような、驚異的な勝負強さを示す人はいるものです。

難関といわれる試験を突破したり、不利な状況でのプレゼンを成功させたりなど、本番で実力以上の成果をあげられる人には、どんな秘密があるのでしょうか。

五輪メダリストなどのメンタルコーチを務める飯山晄朗さんによれば、実は、日々のちょっとしたトレーニングの積み重ねによって、誰でも圧倒的な勝負強さを身につけることは可能なのだそう。

今回は、飯山さんから「勝負強い人がやっている良習慣」を教えていただきます。

五輪メダリストなどのメンタルコーチに教わる、勝負強い人がやっている「メンタルトレーニング」5選

■1:寝る前の3分に、成功する自分を繰り返しイメージする

寝る直前の3分はメンタルトレーニングのゴールデンタイム
寝る直前の3分はメンタルトレーニングのゴールデンタイム

一日の終わり、寝る直前において、あなたはベッドでどんなことを考えていますか? 飯山さんによれば、寝る前3分に成功する自分を繰り返しイメージすることで、どんどん勝負強くなれるとのことです。

「就寝前の3分間は、イメージトレーニングのゴールデンタイムというべき時間。

寝る直前というのは脳がリラックスした状態なので、潜在意識にイメージが記憶されやすいのです。また、脳は1日の最後を強く記憶するので、寝る直前に自分の成功した姿をイメージすると、眠っている間中にも、脳のなかでそれが繰り返し再生され、自己肯定感が高まります。

アスリートは、大事な試合や大会に向けて、こうしたイメージトレーニングを行いますが、ただ本番直前の夜だけやっても、試験前の一夜漬けの勉強のようなもので、あまり効果は期待できません。毎晩、繰り返し行ってこそ、どんどんメンタルが強化されていきます。

逆に言えば、寝る直前にネガティブな考え事をするのは、おすすめできません。寝る直前に自分の失敗などを思い浮かべると、マイナスのイメージトレーニングになってしまいます。

ですから、もし仕事で大きな失敗をするなどショックな出来事があった場合、ベッドの中ではそれについて気に病まないこと。リカバリーのきくミスであれば、挽回した自分の姿を強くイメージするほうがいいですし、取り返しのつかないことであれば、まったく別の楽しいことを考えるべきでしょう」(飯山さん)

■2:最悪を想定して最善をイメージする

最悪を想定して最善をイメージ
最悪を想定して最善をイメージ

勝負強い人は、どんな逆境におかれても「自分はまだやれる」とポジティブ思考で立ち向かうことができますが、ここでいうポジティブ思考とは「自分にとって都合のいいことしか考えない」という意味ではありません。

飯山さんによれば、真の勝負強さは、常に最悪を想定することによって支えられているとのこと。

「スポーツの世界でもビジネスの世界でも、ここ一番の勝負どころでは、アクシデントがつきものです。

スポーツでいえば、試合中にケガをしたり、ビジネスでいえば、順調に進んでいた交渉が相手の都合で突然ひっくり返されたりすることがあります。また、試合や仕事が始まる前にも、会場につくまでに事故にあったり、会場で必要な道具がそろっていなかったり、上司からモチベーションを下げるようなことを言われたりなど、何かとトラブルに見舞われて調子を崩すことは少なくありません。

そうした想定外のケースに直面しても、落ち着いて対処するためには、起こり得るあらゆる事態を想定しておく危機管理が不可欠です。最悪の事態を想定し、それをどう乗り切るのか最善をイメージしておけば、感情にゆすぶられることなく、実力を発揮することができます。

もちろん、どれだけ心の準備をしても、その予測をはるかに超えることが起こってしまうことはあるでしょう。それに備えて、ピンチの自分を落ち着かせるポーズを決めておくのもおすすめです。

たとえば、“目を閉じて胸に手をあてながら深呼吸する”などいかがでしょうか? そのポーズをとって、冷静に対処する自分をイメージしておけば、いかなるアクシデントも恐れるに足りません。

感情をコントロールすることができれば、どんなピンチでも突破口は見えてきます。最悪を想定して最善をイメージする真のポジティブ思考で、あらゆる事態を乗り切りましょう」(飯山さん)

■3:ここぞという勝負どころでの、自分の「ルーティーン」を決めておく

心を整えるルーティンのある人は強い
心を整えるルーティンのある人は強い

さきほどピンチの自分を落ち着かせるポーズを紹介しましたが、一流のアスリートには、自分の心を整えるルーティーンを決めている人物が少なくありません。たとえば、メジャーリーグのイチロー選手がバッターボックスで行う動作や、フィギュアスケートの羽生結弦選手の演技に入る前の動作などは有名ですよね。

「競技や仕事に集中してベスト・パフォーマンスを出すうえで、自分のルーティーンを決めておくことは大変有効だといえるでしょう。

ただ、ここで1つ注意しておきたいのは、ルーティーンと似て非なるものとして、ゲン担ぎがあることとです。

ゲン担ぎとは、たとえば、“右足から出るとうまくいく”とか“このスーツを着たときにはプレゼンが成功する”など、何かをしたらたまたま良い結果が出たから、それを続けているということですが、もし結果が伴わないと、スランプに陥るおそれがあります。

右足からでダメなら左足から。このスーツでダメなら別のスーツに……と結果にとらわれてゲン担ぎを続けていくと、心が落ち着かず、かえってパフォーマンスが落ちることにもなりかねません。

ルーティーンの目的は、あくまで、自分の心を整えること。ルーティーンとゲン担ぎをきちんと区別して、前者を活用できれば、大事な局面で心を落ち着けることで、勝負強さを発揮しやすくなるでしょう」(飯山さん)

■4:他人を褒めたり、目の前の出来事をプラスにとらえたりする

他人を褒めることで自己肯定感は高まる
他人を褒めることで自己肯定感は高まる

勝負強い人というのは、「自分には絶対にできる」という自信、自己肯定感をもっています。

では、そうした自信をつけたり、自己肯定感を高めたりするにはどうすればいいのかというと、実はメンタルトレーニングによって可能とのことです。

「あらゆる事象のマイナス面ではなく、プラス面に意識的をフォーカスしましょう。

自信をつける、自己肯定感を高める方法は、自分を褒めたり、自分の長所を探したりすることだけではありません。自分のいいところがなかなか見つからない場合、まずは、他人を褒めたり、目の前の出来事をプラスに捉えようとしたりするトレーニングもおすすめです。

というのも、『どうせ自分にはできない』というネガティブな感情にとらわれている人は、自分にばかり意識が向いて、視野が狭くなっている傾向があります。

その視野を広げるためにも、他者や外の世界に目を向けて、プラスの意味付けをしてみるのです。

たとえば、通勤中に人身事故が起こると『不吉だ』『電車が遅れて迷惑だ』などとネガティブな感情が起こるのはごく自然でしょう。しかし、ただそれだけで終わらせるのではなく、『何に気づけということなのだろう?』『これには一体どういう意味があるのだろう』と問いかけてみると、『命を与えられて、これから仕事に行ける自分は幸せだ』などと思えるわけです。

そのように、何事も肯定的に受け入れる習慣を意識的に取り入れると、自身のこともプラスに捉えやすくなるので、結果として自信をつけたり、自己肯定感を高めたりすることにつながります」(飯山さん)

■5:心がワクワクすることに日々、挑戦する

日々のワクワク感が心を強くする
日々のワクワク感が心を強くする

あなたは最近、心がワクワクする体験をしているでしょうか? 一見すると無関係のようですが、飯山さんによれば、日常生活で小さな感動を味わうことが、勝負強さを培うとのことです。

「脳科学的に、感動して流す涙には、ストレスを軽減する作用がありますので、ストレスに強くなるには情動の涙を流すことがおすすめです。

情動の涙を流すには、読書をしたり映画を見たりするという手段もありますが、より日常的に情動の涙を流すのと同じような感覚を得る方法があります。それは日々、小さなボランティアをすることです。

ボランティアといっても、わざわざ遠くまで出かけて、何か特別な活動をする必要はありません。要は、身近で困っている人をちょっと手助けしたり、普段当たり前のように接している人に『ありがとう』を伝えたりするのも一種のボランティアです。

ボランティアには、ちょっとした恥ずかしさや勇気が伴うので、やってみるだけでワクワク感が味わえますし、それに対して相手から感謝されたり喜ばれたりすれば、なおさら大きな感動が得られます。

もちろん、ボランティアをやってみても、相手から感謝されなかったり、むしろネガティブな反応が返ってきたりすることもありますが、ボランティアでは相手の見返りを期待しないこと。

人から感謝されたいという動機はあってもいいのですが、相手の反応は二の次で、あくまで自分がワクワクするため、というスタンスで取り組むといいでしょう。

ちなみに、私がメンタルコーチとして関わっている星稜高校野球部(2019年・夏の甲子園準優勝校)では、ゴミ拾いのボランティアを実践しています。

ゴミ拾いは照れくさいですし、またゴミを捨てた人から感謝されることもありません。それでも、感動力を高めることにはつながっていますし、さらには、ゴミに気づいて拾うという習慣の積み重ねが、物の見方にも影響して、試合展開を読む力を強化されているようです」(飯山さん)

いずれも、一流アスリートたちが実践しているものとのことですが、我々の普段の生活に取り入れられるものばかりですよね。圧倒的な勝負強さを身につけたい人は、ぜひ今日からメンタルトレーニングを始めてみてはいかがでしょうか?

飯山晄朗さん
メンタルコーチ・人財教育家
(いいやま じろう)中小企業診断士(経済産業省登録)。銀座コーチングスクール認定プロフェッショナルコーチ。JADA(日本能力開発分析)協会認定SBTマスターコーチ。金沢大学非常勤講師。富山県高岡市出身。石川県金沢市にオフィスを構え、全国で活動している。商工団体の経営指導員としての11年間で、中小企業の経営、財務、労務相談を5,000件以上こなす。独立後は中小企業の人財教育に携わり、2つのコーチングスクールの運営、オリンピック選手や高校野球部を始めとするアスリートたちのメンタルサポートを行い、ビジネスやスポーツの両分野で圧倒的な結果を残している。
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EDIT&WRITING :
中田綾美