ビジネスでもプライベートでも利用することの多いホテル。そこで、あなたはどのように振る舞っていますか?

接客業に携わる人のなかでも、おもてなしのスペシャリストといえるホテリエ(ホテルスタッフの総称)たちは、日頃ゲストの様子をよくよく観察しています。そんな彼らの目から見て、各界で活躍するハイクラスな人たちの言動や対応には、「さすが!」と思わせるスマートさがあるのだとか。

今回は、国内外のホテルで世界のVIPを接客してきた池田里香子さんから、できる人はやっているホテルでの一流の振る舞いについて、教えていただきました。

できる人はやっている!ホテルでの「一流の振る舞い」6選

■1:自分の要望を「事前に」できるだけ具体的にホテル側に伝える

オンライン予約だけで満足せず自分の要望を具体的に伝える
オンライン予約だけで満足せず自分の要望を具体的に伝える

最近では、ホテルの予約をオンラインで済ませる人が多いですが、実際にお部屋に入ってみて、「なんか思っていたのと違った」とガッカリすることはありませんか? そのような行き違いがないように、一流の人は自分の要望を事前にできるだけ具体的にホテル側に伝えるとのことです。

「ホテリエとしては、お客様が少しでも快適に素敵な時間を過ごせるよう、精一杯お手伝いをさせていただきたいのですが、お客様の要望は千差万別。たとえば、客室からの眺望にプライオリティを置くのか、それとも景色は二の次で、ベッドでの寝心地を重視するのかなどは、お客様のほうから働きかけがない限り、ホテル側がうかがい知ることができません。

この点、一流のお客様の場合、ご自分が何を求めているのかが明確で、予約段階で具体的な要望を伝えてくださいます。

たとえば、東京タワーの見えるお部屋、キングサイズのベッドなど、事前にリクエストしていただけたら、ホテル側は『3,000円の追加料金で、お客様ご希望のお部屋を提供できますがいかがでしょうか』といった建設的な提案ができるわけです。

お部屋からの眺めやベッドサイズのような一般的な要望だけでなく、こだわりを大切にされているお客様からは、より特別なリクエストをいただくこともあります。たとえば『ルームサービスのメニューにはないけれど、私は食事制限の必要があるので、こういう料理の提供は可能ですか』、『特別な記念日を祝いたいのでお部屋にバラを飾ってもらえませんか』などですね。

こうした公式ページには案内のないサービスであっても、理由と要望をはっきりと伝えてくだされば、ホテル側としては、可能な限り期待に添えるように尽力します。

もちろん、そのときの状況によって、必ずしもお客様の要望に応えられるとは限りません。ただ、お客様のほうから積極的にコミュニケーションをとってくださることで、ホテル側はサービス向上に勤め、お客様の満足度は高まるというように、win-winな関係を構築できるのではないでしょうか」(池田さん)

自分の要望を伝えることは決してわがままではありません。もちろん、言い分を一方的に通そうとするのはNGですが、「私は~~したいのでお願いできますか?」と丁寧に交渉するのは、ビジネスにおいて重要なスキル。さらに、相手の成長を促す効果もあります。

自分の意思を明確にせず、「こんなはずじゃなかった」と後から不平不満を言うよりも、よほどスマートだといえそうです。

■2:チェックイン時に笑顔で挨拶する

チェックイン時の第一印象は重要
チェックイン時の第一印象は重要

チェックイン時の振る舞いにおいても、一流の人は一味違います。ゲストの多くは淡々と、あるいは慌ただしく手続きを済ませようとするばかりですが、一流の人はチャーミングな振る舞いでホテリエの心をわしづかみにするとのことです。

「一流の方は、何と言っても笑顔が素敵です。チェックイン時にもアイコンタクトをとりながら、にこやかに挨拶してくださいます。

皆様たくさんのお仕事を抱えていたり、長旅で疲れていたりなど、さまざまな事情はおありかと思いますが、そんなものは全く感じさせません。相手をほっと和ませるお客様の笑顔を見ると、『この方が素晴らしいひとときを過ごせるように、我々はより上質なサービスを提供せねば』と身の引き締まる思いがします」(池田さん)

ビジネスにおいては出会い頭の第一印象が命だとよくいわれますが、一流の人たちはその鉄則を常に念頭において行動しているのかもしれませんね。

■3:歩き方や座り方が美しい

ロビーでの立ち居振る舞いも見られている
ロビーでの立ち居振る舞いも見られている

笑顔以外にもう1つ、見た目において優れている点として、一流の人は立ち居振る舞いが美しいとのことです。

「歩くときは姿勢を伸ばして、まっすぐ前方を見据える。そして、座るときには、女性の場合、ロイヤルファミリーのように、両膝をそろえて膝下を斜めに傾けるとエレガントです。

ロビーなどパブリックなスペースで姿勢がだらしなかったり、居眠りされていたりすると、どんな美人なかたでもちょっと残念な感じがします。とりわけグレードの高いホテルであれば、場にそぐわない振る舞いかもしれません。

他方で、凛とした姿を崩さないお客様というのは、単に自分をよく見せるためにそうしているのではなく、自分の振る舞いがその場のステータスを高め、同伴者やまわりの人たちも心地よくさせることに気づいていらっしゃるのではないでしょうか。

そんな気配りのできるかたを見ると、ホテリエとしては心から敬意を払いたくなります」(池田さん)

自分をよく見せることは、周りの人に対する気配りというのは至言。ホテルでくつろぐのは自分の部屋に入ってからにして、パブリックスペースでは品格ある佇まいを心がけましょう。

■4:客室に入ったらまずは部屋の機能を一通りチェックする

客室に入って真っ先にやることは?
客室に入って真っ先にやることは?

チェックイン後、お部屋に入ったら、まずあなたは何をしますか? とりあえず、荷物をほどき、ルームウェアなどに着替えて、ベッドにダイビング!……というのは、残念ながら一流の人からほど遠い振る舞いかもしれません。

「一流の方では、客室に入ったら、宿泊するのに何か不都合はないか、部屋の機能を一通りチェックされる方が多いのではないでしょうか。たとえば、電灯は切れていないか、備品はちゃんと使えるか、アメニティに不足はないかなどです。そこで、もし何か問題があれば、すぐにフロントに連絡をくださいます。

たとえば、以前こんなことがありました。あるVIPのかたがチェックイン後、お部屋に入られてほんの10分ほどで、セーフティーボックスが機能しない旨の電話がありました。すぐにスタッフが客室におうかがいし確認したところ、たしかに鍵がかからない状態になっていました。

その場で修理できるような状態ではなかったので、お詫びのうえ、お部屋を交換させていただくことになったのですが、そのお客様はまったくご自分の荷物をほどいていなかったので、実にスムーズに物事が運んだのです。

これがもしもセーフティーボックスを利用する段階で初めて不具合に気づいたということでしたら、お部屋替えのためにお客様は荷物をまとめなければならず、ホテル側は客室の清掃などを行わなければならず、双方にとって手間がかかったことでしょう。

一流の方というのは、自分のためにも相手のためにも、段取りよく行動されるのだな…と学ばせていただいた出来事です」(池田さん)

成功者は、常に先を見通して、可能な限りトラブルに備えようとするといいます。自分も相手も気持ちよく過ごせるように、ちょっとした気配りをするという姿勢はぜひ見習いたいものですね。

■5:クレームがあるときは事実を理路整然と伝える

クレームの伝え方しだいで相手とよりよい関係が築ける
クレームの伝え方しだいで相手とよりよい関係が築ける

さきほどのセーフティーボックスの件もそうですが、ホテル側に何かクレームがあるときに、一流の人はどんな伝え方をするのでしょうか?

「決して感情的にならず、客観的な事実と自分の要望を簡潔に伝える方が多い、という印象です。

たとえば、客室の掃除がお客様にとって満足のいくものではなかった場合、『洗面台の鏡に水滴が残っています(=客観的事実)。ちょっと見てもらえないでしょうか(=要望)』という伝え方をされます。

同じ状況において、『部屋が汚い!』とか『おたくは掃除もまともにできないのか』などと、感情的に責め立てるような言い方はどうでしょうか。どのように汚いのか、掃除ができていないのか、改善点が明確ではありません。

特に、困ってしまうのは『実はここが気に入らなかった』という、苦情の後出しです。ホテル側としては、お客様に不快な思いをさせてしまったことに対して、ひたすらお詫びするしかありません。

客観的な事実と自分の要望を簡潔に伝えていただければ、ホテル側はできる限りサービス向上に努めます。そのほうが、お互いによい関係が築けるのではないでしょうか」(池田さん)

不満をためこんだり、後出ししたりするのは、客側・ホテル側の双方にとって損にしかなりません。“客観的事実+要望”という伝え方をぜひマスターしましょう。

■6:部屋で自分の荷物をきちんとまとめておく

気配りできる人は客室を散らかさない
気配りできる人は客室を散らかさない

客室の使い方について池田さんに尋ねたところ、「特に連泊時にその人の品格がよく現れる」との回答が。一体どういうことかというと……?

「お客様の外出中などにスタッフが掃除に入った際、お客様がご自分の持ち物を広げた状態で、室内が散らかっていることがあります。お客様の荷物を動かしながら掃除しなければならないと、スタッフは細心の注意を払わなければなりません。

この点、一流のお客様は、たとえばアクセサリーはポーチにまとめておくなど、荷物をすっきりと片付けていらっしゃるので、とても掃除がしやすいです。スタッフに対する気配りがここにも表れていると思います」(池田さん)

自分の荷物を出しっぱなしにしておくのはだらしがなく、品格ある大人の女性にふさわしくありません。キメ細やかに掃除してくれるスタッフのためにも、荷物はきちんとまとめておきましょう。

最後に、池田さんから一言アドバイスです。

「マザー・テレサの有名な言葉に、『思考はいつか言葉になり、言葉はいつか行動になり、行動はいつか習慣になり、習慣はいつか性格になり、性格はいつか運命になる』というものがあります。

ホテルでの何気ない振る舞い1つが、習慣、性格、そして運命をも変える可能性があるという点は、心にとどめておくといいのではないでしょうか」(池田さん)

今回ご紹介した6つの振る舞いは、いずれも特別な能力や才能を要するものではなく、誰でもちょっとした心がけで実践できるものばかりです。次回、ホテルを利用する際、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか? ホテルスタッフの対応もあなたの運命も変わるかもしれませんよ。

池田里香子さん
池田里香子さん
ホスピタリティ、コンシェルジュサービスのコンサルタント
(いけだ りかこ)有限会社マリテーム代表取締役。フェリス女学院大学卒業後、ホテルニューオータニ東京、ホテル西洋銀座にてコンシェルジュ、横浜ベイシェラトンホテル&タワーズのチーフ・コンシェルジュを歴任。ホテル勤務中、昭和天皇大喪の礼、その後平成の即位の礼、迎賓館での接遇を通し世界のVIPを接客。レ・クレドールインターナショナル国際正会員としても承認。フランスの一流ホテルにて研修・勤務後、パーク・ハイアット東京、チーフ・コンシェルジュに就任。現在は、マリテーム代表として、コンシェルジュ、おもてなし、国際マナーの研修・講演を行うと共に、大学講師として教鞭をとる。又フランスの旅のコーディネート、文化・伝統を紹介。フランス語通訳・翻訳家としても活動中。主な著書に『LE HALL―読み継がれるコンシェルジュのバイブル』、『スイートルームに泊まる人のたった1つの習慣』、『お客さまが心を開く「おもてなしの鍵」』がある。 
http://www.maritaime.co.jp/
この記事の執筆者
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WRITING :
中田綾美