インバウンドが好調の日本ですが、来る2020年は東京オリンピック開催もあり、訪日外国人数は4,000万人にものぼるとの見方もあります。みなさんは、彼らをお迎えする心の準備ができているでしょうか?
外国人観光客が日本に対してどんなイメージを抱くかは、私たち1人1人の対応次第、といっては過言ではありません。接客業に携わる人はもちろんのこと、そうでない人も、何か困りごとを抱えた外国人から急に話しかけられるなど、一期一会の関係で、彼らと接触する機会を持つ可能性は十二分にあります。
そんなとき、知らず知らずのうちに外国人観光客に失礼なふるまいをして、「日本は残念な国」「もう2度と訪れたくない」と失望されるような事態は、避けたいですよね。
そこで、国内外のホテルで世界のVIPを接客してきた池田里香子さんから、外国人観光客に対するNGマナーについて教えていただきました。
外国人観光客に対するNGマナー5選
■1:英語が苦手だからといって逃げてしまうのはNG
日本人は、中学・高校としっかり英語を学んできたはずなのに、“聞く・話す”ことに苦手意識を持っている人が少なくありません。
そのため、見知らぬ外国人から急に何か尋ねられるようなことがあると、「自分ではお役に立てない」と謙遜して、“Sorry!”などと言いながら逃げてしまう傾向もあります。
しかし、池田さんによれば、たとえ外国語が苦手であっても、自信をもって対応したほうがいいとのことです。
「外国人観光客をガイドする際、英語をかっこよく上手に話す必要はありません。片言の英語でも意外と通じますし、日本語でもこちらのメッセージは伝わります。
まずは、相手をよく観察することです。たとえば、駅の券売機付近で立ち往生している外国人の方であれば、切符の買い方がわからなくて困っているということではないでしょうか。その場合、身振り手振りや指さしなどで、相手を助けることは可能です。
もちろん、とても急いでいるときなど、状況によっては、相手の力になりたくてもなれないことはあるでしょう。そうしたときは、簡単な英語で“I have no time.”と、協力できない旨を伝えればよいかと思います」(池田さん)
はじめから、「自分には無理!」と尻込みするのではなく、自分のできる範囲で、困っている外国人観光客に手を差し伸べてみてはいかがでしょうか?
もし、逆の立場で、自分が外国を訪れた場合を考えてみましょう。知らん顔されるよりも、言葉が通じなくても親身に対応してくれるほうが、その国に対する印象はよくなりますよね。
■2:アイコンタクトや笑顔がないのはNG
外国人から何か助けを求められた際、協力するにせよ断るにせよ、気をつけるべき点があります。それは、相手の目を見て笑顔で接すること。
「日本にはアイコンタクトが苦手という方が、少なくないのではないでしょうか。しかし、外国人観光客とコミュニケーションをとる際、相手と目を合わさないと、そっけなく見えてしまうおそれがあります。
アイコンタクトとスマイルは、“今、私はあなたと会話しています”と相手を受け入れるメッセージ。外国人観光客に安心感を与えることができます。恥ずかしがらずに、ニコッと微笑みかけてみましょう」(池田さん)
異国の地を訪れた観光客はただでさえ不安を抱えているもの。道に迷うなどアクシデントに見舞われたときは、なおさらです。そんな彼らに対して、アイコンタクトも笑顔もなしで接すると、たとえ正しい道順を流量な英語で伝えることができたとしても、不親切な印象を与えてしまうかもしれません。
英語をうまく話せるかどうかにこだわるよりも、まずはアイコンタクトと笑顔を心がけましょう。
■3:会話の最中に相槌を打ちすぎるのはNG
会話の最中、「きちんとあなたの話を聞いていますよ」という合図を送るために、適度な相槌を打つのはコミュニケーションおいて大切なことですよね。ただ、日本人の相槌は外国人にとってはやりすぎで、逆効果になるおそれもあるようです。
「相手が何か一声発するたびに、『ええ』や『うんうん』など言いながら、首を縦に振る相槌は、外国人の方には話の腰を折られたようで不快に受け取られ、『ちゃんと話を聞いていないんじゃないか』などと、いらだたせてしまうおそれがあります。
『きちんとあなたの話を聞いていますよ』というメッセージは、相槌よりもアイコンタクトで送るほうがいいでしょう」(池田さん)
日本人同士との会話での癖が出てしまわないように、要注意! 繰り返しになりますが、コミュニケーションの基本は笑顔とアイコンタクトであると心得ましょう。
■4:むやみに手の甲を相手に向けるのはNG
日本と外国では身振り手振りの意味が異なり、日本では特に問題のないしぐさが、外国人には失礼にあたるケースがあります。その代表的なものの1つが、相手にむやみに「手の甲」を向けること。
「日本人女性の写真撮影で、ピースを裏側にして顔にあてるポーズをよく見かけますが、手の甲を相手に向ける行為は、プロトコールマナーでは“侮辱”と受け取られるおそれがあります。外国人観光客の前ではやらないようにしましょう。
写真撮影以外では、道案内において、うっかり手の甲を相手に向けてしまいがちです。
たとえば、『お手洗いはあちらです』と、右手で指し示すシチュエーションを想像しましょう。もし、トイレが自分の右側にあれば、相手に手のひらを向けることになり、このしぐさはOKです。
他方、自分の左側にあるトイレを『あちらです』と右手で指し示そうとすると、相手に手の甲を向けてしまうことになります。左側にあるものは、左手で『あちらです』と指し示すようにしましょう」(池田さん)
これはしっかり意識しておかないと、ついついやってしまいそうですね。親切にしたつもりが相手から不快に思われないように、自分の右側のものは右手、左側のものは左手で指し示すルールを是非、覚えておきましょう。
■5:用件さえ済めば、すぐに立ち去るのはNG
外国人観光客に道案内などしてあげて、相手から“Thank you.”と言われたらあなたはどう反応しますか? にっこり微笑み返す……だけでも素敵ですが、できればもうワンランク上のおもてなし美人を目指しましょう。
「用件が済んだからといって黙って立ち去るのではなく、さりげないクロージングワードが使えると心地よい余韻を残すことができます。
クロージングワードとは、締めの一言で、たとえば、これから観光地に向かう外国人に対しては、“Have a nice day!”とか“Enjoy!”などと添えてみてはいかがでしょうか?
他方、相手の行き先が病院などの場合、上記2つのフレーズはそぐわないので、“Take care.”がいいかもしれません」(池田さん)
いずれも中学で習う英単語だけで伝えられる一言ですが、これがあるのとないのとでは、印象が大違いですね。せっかく相手から感謝されても、黙ってそそくさと立ち去るだけでは味気がないので、ぜひクロージングワードを使ってみましょう。
ムスリム女性に対するNGマナー5選
近年、訪日外国人のなかでも、ムスリムの増加が著しいといわれています。市街地や観光地で、ヒジャーブなど伝統的な衣装に身を包んだ女性を見かけることは珍しくありませんよね。
とはいえ、日本人にとってまだ馴染みが薄く、どこか神秘的な雰囲気の漂う彼女たちに、どう接したらいいのかわからない。何かまちがいがあったら困るから、遠巻きに眺めているだけ……なんて人も多いのでは?
そこで、池田さんから、ここだけは押さえておきたいムスリム女性に対するNGマナーを教えていただきました。
■1:左手で物を受け渡すのはNG
ムスリムの間で、左手は不浄とされているとのこと。何か物を受け渡す必要がある場合、左手は使わないように注意しましょう。
■2:むやみに男性が近くに座るのはNG
ムスリムの女性は、親族以外の男性と接触することは基本的に禁じられています。もちろん、日本に観光旅行に訪れるほど自由度の高い女性であれば、この戒律にあまり縛られていない可能性もありますが、相手方の宗教文化を尊重して、むやみに男性が近寄るのは避けたほうが無難。
もし、スタジアムや飲食店、公共交通機関でムスリム女性を見かけたら、男性を近くに座らせないように配慮しましょう。また、飲食店においては、ムスリム女性の近くで飲酒するのも控えたほうがよいとのこと。少々嗜むまでは許容としても、くれぐれも前後不覚に酔っ払うような深酒は避けましょう。
■3:お店で男性のスタッフに対応させるのはNG
さきほどと同様の理由で、もしあなたがお店で働いていて、ムスリムの女性客が訪れたら、対応を男性スタッフに任せるのは望ましくありません。
「自分はムスリムのことよくわからないから」などと逃げ腰にならず、「女性である我こそが」と率先して対応するようにしましょう。
■4:露出度の高い服装で堂々と振る舞うのはNG
ムスリムの女性といえば、肌を極力隠す衣装が印象的。オリンピックが開催されるのは真夏ですから、彼女たちにファッションを合わせるべし……とはいいませんが、過度な露出は考えものです。ムスリム女性のすぐそばで露出度が高い服装で堂々としていると、居心地の悪さや気恥ずかしさを感じさせるおそれがあります。
注意したいのは、胸元が大きく開いた服、ノースリーブ、ミニスカート、ショートパンツ。ムスリム女性と身近に接する機会があれば、これらの服装は避けるべきです。
また、もしこれらの服装のときに、偶然ムスリム女性と同席するようなことがあれば、上着をはおったり、ひざ元をスカーフで隠したりなどの配慮はあったほうがよいかもしれません。
■5:自分から握手を求めるのはNG
もし、ムスリム女性と仲良くなる機会があっても、自分から握手は求めないこと。相手から握手を求められたときに応じるようにしましょう。
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外国人観光客に日本をもっと好きになってもらえるかどうかは、私たちひとりひとりの心がけしだい。今回ご紹介したNGマナーをぜひ押さえて、外国人観光客を温かく迎え入れましょう。
http://www.maritaime.co.jp/
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 中田綾美