丸ごと一冊、「女の人生」
女性としての生き方、働き方が多様化している現代だからこそ読み応えのある、熱き女性の人生が描かれた小説やエッセイ、評伝をご紹介します。
素敵に年を重ねる人の価値観に深く感じ入ったり、壮絶な人生を歩んだ女性から改めてフェミニズムを考えるきっかけをもらえたり、時代に翻弄されながらも愛を貫くことに心が震えたり、あるいは、その一生をかけて自分で選んだ道に邁進する実直さに胸が熱くなったり…。
進むべき方角を照らしてくれる、まるで道標のようなメッセージの数々は、私たちの心の拠りどころとなります。同じ女性としてはもちろん、人として圧倒的な求心力を放つ5人の女性。その人生に思いを馳せる読書は、きっと本の豊潤さを味わえるひとときとなるはずです。
■1:生方ななえさん(モデル)のおすすめ…『純情ババァになりました。』
「人生にひるむことなく、自分らしく生きるヒントが満載」
「ひたすら自分の感性に忠実に、心に響くものにまっしぐらに向かいながら」。――傷つくことを恐れず、好奇心のおもむくままに、自分の感性に正直に生きてきた女優・加賀まりこの潔くもかっこいい人生訓が詰まったエッセイ集。歯切れがよく、正直な言葉が爽快な読後感を誘います。
推薦コメント:「生き方を表現する言葉の選び方がどれも素敵で、借り物ではない自身の言葉でつづられているのが印象的です。
特に刺激を受けたのは、加賀さんがお母様から教わったという『孤独の引き受け方』という章。"だれかといることで孤独ではない"と考えるのは幻想だと言いきります。見返りを求めてしまうから孤独になるとも。私自身、この考えに触れたことで、『なるほど!』とハッとさせられました。
そして、"自分にとって恥ずかしいことはしない"ということを大切にされている加賀さん。他人の目はごまかせても、何よりも自分自身はごまかせない。そして、ちょっとでも自分をごまかした部分があろうものなら、胸を張って生きられない…。
とっても"まじめな不良"で、潔いほどまっ直ぐ。なんてかわいくてかっこいい、粋な女性なんだろうと憧れます。何度でも読み返したい、大好きな一冊です」
■2:高橋亜弥子さん(エディター・「本の窓」編集担当)のおすすめ…『姉・米原万里』
「食いしん坊だった米原万里さんの短くて濃い人生が愛おしい」
ロシア語通訳、作家、エッセイストとして活躍した米原万里が56歳の若さでこの世を去ってから13年。
幼少期をともにプラハで過ごし、晩年の闘病生活も看取った3歳年下の妹、井上ユリ(故・井上ひさしの夫人)が食べ物の記憶を通じ思い出をひもとくほか、姉が執筆した作品の裏話や武勇伝の真相、また米原家のユニークな面々についてつまびらかにしたエッセイ集です。文庫版には追加の秘蔵写真も多数掲載。
推薦コメント:「妹のユリさんにしか語ることのできない、近しい目線で語られる米原万里という女性がとても愛おしく感じられます。
知的で聡明な女性にもかかわらず、こんなにも食いしん坊で(これは米原家全員に通ずる)、編みかけのセーターがタンスに何枚も眠っているほど実は飽き性で、サッカー好き(元サッカー日本代表・城 彰二の大ファン)だったことに親近感を覚えます。
きっと妹のユリさんは、ときおり笑顔を浮かべながら、姉の万里さんに思いを馳せつつ執筆をしていたのではないかと思うと、それだけで幸せな気持ちにもなれる一冊。また、万里さんの著書の引用も多数あって、そちらの本も読みたくなるはずです。自分らしく人生を生ききった万里さんの本を、もっともっと読みたかった!」
■3:山脇りこさん(料理家)のおすすめ…『砂漠の女ディリー』
「世界の女性がおかれている現状をディリーに教えてもらいました」
ソマリアの砂漠で遊牧民の家庭に生まれ育ったワリス・ディリー。13歳のとき、ラクダと引き換えに60歳の男と無理やり結婚をさせられそうになったところ、母の助けを借りてたったひとり砂漠へと逃げ出します。
命からがらロンドンへと渡り掃除婦として働きだした彼女は、そこでファッションカメラマンに見出され『ELLE』『VOGUE』などで活躍するスーパーモデルへと転身。数奇な運命をたどったワリスの半生がつづられた自伝。
現在はモデルを続けながら、自身が5歳のときに受けた女性器切除(FGM)の経験を基に、FGM根絶のため活動をしています。
推薦コメント:「2019年の日本のジェンダーギャップ指数は過去最低を更新。『女性の社会進出を!』『選択の自由は保障されている!』と叫ばれるほど、悪化していく気がするのは私だけでしょうか…。
程度の差こそあれ、障壁を取り除こうと私たちは戦っていますし、これからも戦うのでしょう。しかし世界には、かつてのワリス・ディリーのように、そんな戦いのずっと手前にいて、次元の違う差別を受けている女性がたくさんいることをこの本は教えてくれます。
『Because I am a Girl』と絶望することがないよう、できることから始めるきっかけを与えてくれた女性です」
■4:水田静子さん(ライター)のおすすめ…『白蓮れんれん』
「非難を浴びながらも自分にまっすぐに強く、主体的に生きた白蓮の人生を想う」
「筑紫の女王」と呼ばれた美しき歌人・柳原白蓮。15歳で養女として入った華族の息子と結婚しますが、やがて破綻。その後、九州の炭鉱王・伊藤伝衛門と再婚しますが、複雑な家族関係や夫の度重なる女性問題に悩まされ、短歌にのめり込むようになります。
その短歌を通じて知り合った7歳年下の編集者で東京帝国大学生の宮崎龍介と駆け落ち――。華族と平民という階級を超え、世間を騒がせた「白蓮事件」。その波乱万丈な白蓮の人生を林真理子が描き出す伝記小説です。
推薦コメント:「著者は膨大な資料と、白蓮と龍介が遺した700通にも及ぶ熱烈な往復書簡をひもとき、白蓮という女性の一生を活写します。激しくもせつない恋文は胸を打つものばかりなのですが、この評伝に描かれるのは一途な恋に生きた女の姿だけではありません。
華族から平民へ。さらには明治、大正という、男尊女卑や家長制……といった、女たちが自分の意志で生きることが難しかった時代に生き、孤独や苦境に立ち向かって、自らの人生を主体的に選び取っていった、ひとりの女性、人間の姿があります。
女性たちの意識が大きく変わり、声を上げ始めた今の時代にこそ、再び読みたい熱き『女の書』です」
■5:間室道子さん(「代官山 蔦屋書店」文学コンシェルジュ)のおすすめ…『ひみつの王国 評伝 石井桃子』
「聡明でひたむきな石井桃子という存在の大きさに改めて感じ入ります」
作家・翻訳者・編集者としての才能を開花させ、日本の児童文学界に多大なる功績を残した石井桃子。その101年の生涯で、自ら触れることの少なかった戦前戦中の活動や私生活などを200時間に及ぶロングインタビューと書簡を基に描いた評伝です。
推薦コメント:「『クマのプーさん』や『ピーターラビットのおはなし』といった海外の児童文学は、石井桃子のまなざしで訳したから、今なお愛され続けています。日本の子供の感受性を変えた人といっても過言ではない!
20代を過ごした文藝春秋社ではその仕事ぶりを菊池寛に認められ、また、犬養毅元首相の孫たちに読み聞かせた『プー横丁にたった家』との出合いが翻訳者となる運命を決めた、というのもドラマチック。それらのエピソードすべてがまさに昭和の文学史であり、出版史でもあります。
『ノンちゃん雲に乗る』が文部大臣賞をとった際には、『名士なんかにされて困ったわ』とぼやいた言葉が残っていますが、自慢をしたり、人からの評価をまったく考えずに、101歳までひたすら子供たちの本のために身を捧げた生き方がとにかくすごい。
女性としてはもちろん、ひとりの人間としてこれほどのことができるのかという石井桃子の人生に、ただただ圧倒されます」
※掲載した商品は、すべて税抜です。
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- PHOTO :
- よねくらりょう
- EDIT&WRITING :
- 樋口 澪・宮田典子・剣持亜弥(HATSU)、喜多容子(Precious)