デザイン業界で働くイタリア在住の日本人女性に、現在のイタリアの様子や、日本の皆さんへ痛切に伝えたい「命を守るために、お家で過ごして」というメッセージ、自宅で豊かに過ごすヒントをインタビューしました。日本でもこれから長く続く非常事態宣言の生活下での、参考にしていただければ幸いです。

【前編:ロックダウンから1か月、イタリア・ミラノの現状と「今を生きる」ヒントとは?】

外出制限が行われているイタリア・トリノから、日本のみなさんへ伝えたいこと

お話を伺ったのは、トリノ在住の西村清佳(にしむら さやか)さん。芸大大学院建築修了後、国費留学でイタリアへ。フリーランスで、日本企業のイタリアを舞台にしたイベントのメディア&イベントコーディネーターを務めています。

プライベートでは、元工場だった建物の一部屋を買い、新居としてリノベーション中でしたが、現在はロックダウンの影響で工事もストップしているそう。

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トリノ在住15年以上になる西村清佳さん。自宅テラスのブランチで気分転換

■Q1:トリノの街の様子を教えてください

「外出禁止令は発令後どんどん厳しくなり、もはや公園は立ち入り禁止、子供を連れて外に出るのもままならない有様です。

食料品以外の店舗は飲食店も含め、営業停止になってすべてシャッターを下ろして鎮まり返り、街中にはほとんど人を見かけません。イタリア人はマスクをする習慣はありませんでしたが、あっという間に定着しました」

━━トリノでも、医療従事者に賞賛の言葉を贈る動きはありますか?

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西村さんの家からの実際のフラッシュモブの風景

「発令後の1週間ぐらいは、SNS上で呼びかける形でのフラッシュモブが多発して、『明日の18時にバルコニーに出て音楽を奏でよう』『日曜日の12時にバルコニーから医療従事者への拍手を送ろう』などといった企画が次々に立ち上がり、それがSNS上に出回りました。今では、そういうブームも落ち着いた感じです。

SNS上には、子供達が描いた虹の絵が、#andràtuttobene(すべてきっと上手く行くという意味)というハッシュタグと共に多く見かけられます」

━━警察による取り締まりはありますか?

「警察はパトカーで巡回しています。私はまだあったことはないですが、外出理由を明記した自己申告書を携帯することが義務付けられていて、違反すると罰金が科されます」

外出理由に相当するのは、以下の4つ。

・止むを得ない仕事(政府が稼働可能な産業を細かく指定)
・健康上の理由(通院など)
・日用品の買い出し
・自分の居住地へ戻ること。

とても指示内容が明確です。

━━外出理由を明記する「自己申告書」は、どのように手に入れるのですか?

「ダウンロードして、自宅でプリントアウトします。既に5回ぐらい改変されて、その度にプリントするため、イタリアのお役所仕事を揶揄するネタとして、トナーが不足気味とまで言われています(実際は、時間は多少かかりますがAmazonで発注できます)。

これは若干、イタリアのお役所仕事を揶揄するネタにもなっているほど。たとえば

TV『今晩イタリアで、コンテ首相による記者会見があります』

SNS『おい聞いたか、みんなプリンターのトナー確認しろ!』

といった感じです(笑)」

■Q2:日常生活で変わったことを教えてください。

「イタリア人の順応力、前向きな姿勢に救われています」

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普段からやっていた人もそうでなかった人もパスタづくり。「手を動かして、ものをつくり、誰かの役にたつというのは、心にもいい影響があるように感じる」と西村さん

「イタリアは、ヨーロッパで最初に全国的にロックダウンという荒療治に出ました。まだ収束してない今は、その方法や時期が正しかったのか、議論するタイミングではないと思いますが、ひとつ言えるのはイタリア中の人がこのドラスティックな決断を粛々と受け入れ、悲観的にならないよう、前向きに順応していること。

目的はただひとつ『一丸となって国民の命を守る』ということだと、やっとみんな理解できたからです。

イタリア企業もさまざまな支援策を打ち出していて、医療機器に出張し関係者にケータリングサービスをはじめた星付きレストランのシェフもいるそうです。

家事に不慣れなお父さんたちも急に家に篭ることになり、生まれて初めてニョッキをつくるのに挑戦したり、妻や子供たちのためにお昼ご飯を担当したり、週末に掃除や洗濯をしたり、家の中で新たな役割分担を模索しています。インターナショナル幼稚園に通っている甥っ子は、語学の授業がオンラインで行われるようになりました。

それぞれ皆、文句も言わずに工夫して、なんとかしています。できないなりに、あるものでどうにかする力。このイタリア人の順応能力の高さや、どんなときも前向きに生きる力に、日本人としてとても救われています」

「新居のリノベーション工事は一旦ストップ」

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現場の進捗状況と、イタリアのインテリア事情をインスタグラムで発信中

「予定では竣工している頃でしたが、一旦ストップしています。現場監督さんや業者さんとは、メールと電話のみの打ち合わせをしていましたが、選択肢も多く、詳細は現物を見ないと決められないので停滞しています。

イタリアの家づくりは、作品づくりともいわれるほど。水回りの蛇口ひとつとっても、カラーの選択肢がたくさんあることに驚かされます」

「外出は週1度程度」

「日本人としては和食が恋しくなるのですが、アジア系食材を扱うお店が全面的に閉まっていて、豆腐や白菜などの生鮮食品は手に入らなくなってしまいました」

「クレジットカードのやりとりを避けるため、キャッシュレス利用」

「マスクのほか、手袋も欠かせません。クレジットカードのやりとりも避けたいということから、サティスペイ(イタリア版ペイペイのような電子マネーアプリ)を使うことも増えました」

「トリノのスーパーで品切れしているのは『イースト菌』。電話注文やオンラインによる注文配達を利用する人も」

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出来合いのパスタは売れ残り、手打ちパスタをつくる「材料」が品薄になるトリノ

「料理に関して言えば、スーパーにはひと通りなんでも売っているのに、手打ちパスタやホームメイドのパンやお菓子づくりに凝り始める人が増えている傾向で、イースト菌がどこも品薄状態のようです」

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入場制限によるスーパー前の列
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1mのソーシャルディスタンスを示すテープが貼られているスーパーの床

「距離を保つ必要があるので、入場数が一定数を超えないように入場制限をしています。小さなスーパーは割と並ばないで入れるのですが、何でもそろっている大きなスーパーは、1~2時間待つこともあるようです。

レジの前にはテープが貼られ、客同士の感覚が1m取れるよう、工夫されています。店ではオンラインや電話による注文と配達も請け負っていて、特に子供がいて家から出られない人や、年配者は役立てているようです」

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スーパーのほか、青空市場もあいており食材に困ることはないそう ※2020/04/06現在の時点

「いつも青空市場に来ていた魚屋さんが、来なくなった時期があり、また戻ってきたというのが最近、私の周りの日本人たちには大きなニュースでした(笑)」

物流も食品関係の産業も稼働しているので、食べるのには困ることはないそうです。

ソースをかけないパスタ!?西村さん直伝レシピ「パスタビアンカ(白いパスタ)」

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ソースは? と聞くと「イタリア人はパスタを味わうのよ」と西村さん

「我が家でもよく作る手打ちパスタをご紹介します。失敗しないうえに、乾燥パスタに比べて本当においしくて満足感大です」

【材料】

・薄力粉100g
・卵1個
・塩ひとつまみ

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手打ちパスタのレシピ
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パスタマシンがなくても、麺棒でもできるとのこと

1.材料をフォークで混ぜ合わせ、手でよくこねる
2.ラップに包んで冷蔵庫で15分ねかせる
3.小麦粉をはたいたテーブルで徐々に薄く伸ばす
4.好きな幅で切る
5.塩を入れて沸騰したお湯で3分茹でたら出来上がり

「一番シンプルでイタリア人の好む食べ方は、ハーブのセージを加えた溶かしバターにオリーブオイルを加え、パルメザンチーズを削るだけ!」

「ヴァーチャルな『飲み会』や『家族ディナー』」

「ずっと家に閉じこもっていると人と会って話すことがないので、ビデオ通話の機会が増えました。アプリを通してヴァーチャル飲み会や家族とのディナーなど企画して、コンタクトを取るようにしています」

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同じ時間に別の場所で画面越しに一緒にご飯を食べる様子。左上には西村さん夫妻の姿も

━━「ヴァーチャルな家族のディナー」というのは、具体的にどういう状況なのでしょうか?

「例えば、親戚の叔母さんと、娘夫婦は同じマンションに住んでいます。叔母さんのお買い物を娘さんはしますが、感染予防の観点から、玄関前に置いて顔をあわせることはしません。それでも、毎日で食ひとりで食べるディナーは寂しいもの。そこで、同じ時間に、別の場所で、画面越しに一緒にご飯を食べるわけです」

「夜更けの静けさや、公園の鳥のさえずりに気づくようになった」

「交通量が減ったせいか、夜更けの静けさや、公園の鳥のさえずりなどに気がいくようになったのが、日常のささやかな気づきでしょうか。イタリア人はバルコニーに国旗を掲げています」

Q3:西村さんの仕事の状況は、どう変わりましたか?

「7月までの仕事は殆どキャンセルになりました。今はリモートでできることに限られ、取材などで外に出ることはできません」

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西村さんが広報を務めた、2018年のデザインウィークで大きな話題となったGrand Seikoの展示の様子 PHOTO:大木大輔

「毎年4月にミラノで開催されるサローネは、デザイン界において世界最大の規模を誇る一大イベントです。サローネ期間中は、ミラノ・デザインウィークと称し、街中でもさまざまな企業やデザイナーが、プロジェクトの発表をしています。

サローネが一度は6月末への延期を決め、その後、全国的に外出禁止になり、2週間が過ぎても収束の目処が立たず、最終的に2020年度は1年後まで延期となったのを受けて、取り組んでいたプロジェクトは中止となりました。

経済的な打撃だけでなく、1年をかけて準備してきた企業やデザイナーにとって発表の場を失ってしまったわけで、今は行き場のないやるせなさでいっぱいだとは思います。

私自身も、大学で学んできた建築やデザインの知識を、イタリア語と日本語の両方でつなぐ橋渡しができる、一年でいちばん元気なときです。

デザイン・ウィークの仕事は、私のアイデンティティそのもの。この忘れがたい経験が、2021年にどのような形で提案、表現されるのか、新たな挑戦の始まりと捉えたいと思います」

最後に、日本の皆さんへの一言

●あなたが、家にいることで救われる命があることを想像して

「家にいることで救われる命があることを、想像して行動してほしいです。イタリアの1日千人以上が亡くなるという数字は、友人のお母さんや、友人の友人あたりには何人か、実際に亡くなっているという状況です。身内になにかあって、お葬式に行くことができない。その絶望は想像できません」

●今までの生活のルーティーンとなるべく同じように過ごして

「家にいて誰にも会わないとは言え、起きたら服に着替えて、身だしなみを整えてからパソコンに向かうことをおすすめします。食事と仕事の時間の区切りも、今までの生活のルーティーンとなるべく同じように」

●情報は時間を決めて、文字情報を中心に

「ニュースは、テレビより新聞やネットなど文字情報で得るようにしています。それも朝と夜の2回ぐらいと決めておきます。テレビのニュース番組は、必要以上に不安を掻き立てられるので、見ていません。

ネット上にはフェイクニュースも多く出回るので、なんでも鵜呑みにしない&それを喋ったりシェアしたりしないよう気をつけています」

●再会の時に備えて、エクササイズも!

「運動不足になりがちなので、家の中でもできるエクササイズやトレーニングをやると頭もスッキリします。たまたま家にあった縄跳びやリストウェイト、トレーニングチューブが役に立っています。

それに、再会したときに家の中でずっと過ごしていたにも関わらず、キュッとしまった体で会いたいというモチベーションにもなっています(笑)」

●気のおけない友人たちとの他愛もないビデオ通話は、ストレス発散に有効

●愛用の基礎化粧品がなくても心配しないで、体を鍛えて代謝をあげよう

「ないものは我慢、あるもので工夫! この状況でも営業している薬局に行けば、エビアンなどの基礎化粧品が買えるし、スーパーに行けばニベアも売っています。

どんな状況でも女性らしくありたい気持ちには共感できますが、買っておけばよかったとまでは思いません。むしろ、たまたま家にあった縄跳びの方が今、よっぽどよい仕事をしています(笑) 」

●お家で楽しめることや、家事の分担など模索してみて

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おこもり生活で、曲を弾けるようになる喜びも味わいました

「毎日の料理に精を出す人、オンラインのヨガやピラティスに励む人、音楽など自分の趣味に没頭する人、オンラインで無料で観賞できるオペラや美術館を楽しむ人、ひたすらNetflixやゲームしている人、読書する人…みんなそれぞれ時間の過ごし方を模索しています。お籠り生活を少しでも豊かに過ごしてほしいから、そういう写真をたくさん撮ってみました」

以上、イタリア・トリノ在住のメディア&イベントコーディネーターの西村清佳さんへの現状インタビューでした。

インタビュー後に西村さんから、「今回のインタビューで、自分のことを話すことで気持ちがスッキリしました。カウンセリングに行ったあとみたいな。『わかってもらえないかも』の前に、まずは話してみることだったんだと、実感しています」とメッセージをいただきました。

メッセージとともに受け取った写真を見ながら、彼女の状況を自分の身に置き換えてみると、インタビュー前には想像もしていなかった彼女の気持ちを、今は想像することができます。


状況が刻々と変わる今、もしかしたら同じ状況にいて苦しむ隣人ではなく、遠くに住む友人と話してみるのもひとつの手なのかもしれない、と感じました。

食、ファッション、デザイン、インテリアと私たちを夢中にさせてくれるイタリアからのメッセージを、ぜひ参考にしていただき、今日からの生活に役立てていただければ幸いです。

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この記事の執筆者
イデーに5年間(1997年~2002年)所属し、定番家具の開発や「東京デザイナーズブロック2001」の実行委員長、ロンドン・ミラノ・NYで発表されたブランド「SPUTNIK」の立ち上げに関わる。 2012年より「Design life with kids interior workshop」主宰。モンテッソーリ教育の視点を取り入れた、自身デザインの、“時計の読めない子が読みたくなる”アナログ時計『fun pun clock(ふんぷんクロック)』が、グッドデザイン賞2017を受賞。現在は、フリーランスのデザイナー・インテリアエディターとして「豊かな暮らし」について、プロダクトやコーディネート、ライティングを通して情報発信をしている。
公式サイト:YOKODOBASHI.COM