ウェブサイトの調査をするシミラーウェブ(SimilarWeb)の分析から見えた、新型コロナウイルスが経済に及ぼす影響
不安の広がる、新型コロナウイルス感染症。ビシネスや日常生活にも大きな影響を及ぼし、「いつもと同じ生活ができていない」という方も多くいらっしゃることかと思います。
世界中のあらゆるウェブサイトやアプリにおける競合や市場の動きを可視化し、データを提供している企業「シミラーウェブ(SimilarWeb)」から、「新型コロナウイルスのインパクトレポート」(2020年3月30日)が報告されました。
これは、新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大が、消費行動およびビジネスに及ぼしている影響を、オンライン動向から分析したウィークリーレポートとなります。
政府から外出自粛の要請が出る中、新型コロナウイルス感染症は各業界にどのような影響を及ぼしているのでしょうか? 本記事では、レポートの内容を一部ご紹介させていただきます。
日本の消費の動向は?「新型コロナウイルスのインパクトレポート」(2020年3月30日)
まずはこちらのグラフをご覧ください。
こちらは、オンライントラベルやデリバリーなど、新型コロナウイルス感染症の感染拡大で、最も影響を受けやすい業界に関して、日本国内の「トラフィック(ウェブブラウザやアプリから発生したアクセス数)」を分析したグラフです。
1月と比較した2月、あるいは半月、1週間ごとの伸び率のグラフであり、0%を中心として、上にグラフが伸びていれば「トラフィックが増大している(≒サイトへのアクセスが増えている)」ということ、下にグラフが伸びていれば「トラフィックが減少している(≒サイトへのアクセスが減っている)」ということがわかります。
噛み砕いて言えば、ネットスーパーやフードデリバリーといった業界は「需要が増えている」傾向にあり、オンライントラベル、ホテル、主要航空会社、イベントといった業界は軒並み「需要が減少している」傾向にあるとも言えます。
ただ実は、一概にそれだけとは言えないのがこちらのレポートなのです。続いて各業界のトラフィックの変化を、細かく紐解いていきましょう。
■1:グループ全体で40%減少!深刻化する「オンライントラベル」業界
これは日本国内の主要オンライントラベルサイトのトラフィックの変化です。外出自粛要請の強化により、いずれのサイトも、大きくトラフィックは減少し、3月28日時点でグループ全体のトラフィックは1月に対して約40%も減少するなど、ここまでで最大の減少率を記録しています。
特に航空券予約を主に取り扱うサイトでは、国内外の主要航空会社による相次ぐ減便を受け、さらにトラフィックが減少している傾向にあります。
このオンライントラベルのトラフィックの減少は日本だけにとどまらず、実は大都市のロックダウンが相次ぐ米国では、グループ全体で約90%も減少するなど、さらに深刻化している現状が読み取れるそうです。
■2:トラフィックの減少が緩やかなからくりとは!?キャンセルや払い戻しの相次ぐ「主要航空会社」業界
こちらは主要航空会社のトラフィックの逐次変化となります。先ほどの「オンライントラベルのトラフィックの減少」に比べると、その減少率が緩やかだな、と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、決して「主要航空会社のトラフィックの減少が少ない=航空業界が安定的に稼働している」わけではないのです。
冒頭で述べた通り、トラフィックとは「ウェブブラウザやアプリから発生したアクセス数」のこと。グローバル全体での傾向と同様、新規予約の需要減による下降トレンドがあると同時に、実はそれと相殺する形で「キャンセル」や「払い戻し」を求める旅行者からのトラフィックが一時的に上昇したのだそうです。
大手航空会社のANAやJALなどでは、「キャンセル」「払い戻し」などに関するページへのトラフィックに、12月から2月までだけでも200%前後の増加が見られたそうです。
ちなみにピーチ・アビエーション(Peach Aviation)では、3月21日時点ではLCC(格安航空会社)を利用しての帰国や緊急渡航の需要などにより、一時的なトラフィック回復が見られましたが、3月28日時点では、ほかの航空会社と同様、トラフィックが減少していることが判ります。
■3:外国人旅行者の急減に連動する「ホテル」業界
ホテルチェーンへのトラフィックも同様に減少傾向にあります。一時的にトラフィックが増加していたり、横ばいとなっているのは、先ほどの航空会社同様「キャンセル」と思われる手続きでのトラフィック増加が相殺しているからだと読み取れます。
観光庁の最新データからも、中国、台湾、香港、韓国からが半数以上を締める外国人旅行者の宿泊数が、今年2月に対前年比で40%以上も急減しているとのこと。特に上記各国からのアクセスが最も多い「Toyoko-inn.com」では、急減に連動する形でトラフィックが大きく下降していることがわかります。
ただ、もともと国内移動での宿泊者数が少ない1月〜3月。今後、事態が長期化してしまった際には、ゴールデンウィークや長期休暇でのトラフィックの変動が、少なからずありそうです。
■4:広い影響に懸念「イベントとエンターテインメント」業界
こちらはイベントとエンターテインメント関連サイト(主に予約やチケット購入)のトラフィックの逐次変化を表したグラフです。一律大幅下降トレンドにあり、中には90%以上も下降してしまっているサイトもあるのがわかります。
イベントは感染拡大防止の原則である「3M(密閉・密集・密接)」を伴うことがほとんど。2020年に予定されていた東京オリンピックも延期が決定し、今後も広い影響を及ぼすことが懸念されます。
■5:在宅者数の増加にともなう影響も「フードデリバリー業界」
比較的増加傾向にあるのはこちらの「フードデリバリー」業界。ピザチェーンや、デリバリー予約サイトなど需要の大小はあるものの、トータルとしてはトラフィックが上昇しています。外出自粛の要請や、在宅勤務者の増加などを受け、フードデリバリーを利用する新しい利用者が増えたものと思われます。
その一方で、フードデリバリーを頻繁に利用するユーザーは、「お気に入りのレストランからの再注文が多い」というデータもあるそう。レストランが全国的に閉鎖や休業を余儀なくされてしまった場合には、このフードデリバリー業界全体への影響も、少なからずありそうです。
■6:中長期的な食品備蓄へ「ネットスーパー」業界
また、フードデリバリー以上にトラフィックの上昇が見られるのが、ネットスーパー(食品デリバリー)業界です。外出自粛要請にともない、消費者の在宅期間が長くなったことや、中長期的な食品備蓄への意識の高まりなどの影響が考えられるそうです。
実際、「できれば外出せずに買い物を済ませたい」という消費者の意識から、ネットスーパーを頼った生活をしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。自炊への意識が高まっていることも、ネットスーパー業界の需要の増加の背景にありそうですね。
ネットスーパー(食品デリバリー)業界では、こうした急激な需要増が続く中、それに対応する在庫や配達人材リソースの確保が大きな課題となっています。
■7:在宅勤務の影響で需要が増えた「オンライン会議システム」業界
こちらは「オンライン会議システム」のトラフィックの変動を示したグラフです。こちら縦軸が先ほどと異なり、200%刻みとなっています。
日本でも在宅勤務を指示・推奨する企業が増えたことで、オンライン会議プラットフォームの利用は急増。平均しても直近で約1,200%に達するなど、急激な伸び率であることがわかります。これからも、オンライン会議システムへの需要はさらに伸びていきそうです。
引き続き自粛要請などが続く日本において、旅行業界やイベント業界の深刻な低迷や、それに対する食品デリバリーサービスなどの需要の増加など、諸々のバランスが大きく変化する時期へと差し掛かっています。
最後にこちらは、日本を含む世界各国の「食料品デリバリーのグローバル比較」です。
主要都市のロックダウンや、相次ぐ店舗の休業、外出禁止などを受けて、イタリアやフランス、アメリカ、イギリスなどで、急激な食品デリバリーサイトへのトラフィックが高まっていることがわかりますよね。
それにより、物流に負荷がかかって配送が遅くなってしまったり、需要へ供給が追いつかなくなってしまっている国もあるそう。「必要なものを必要な分だけ」という意識は、常に心がけていきたいものです。
世界各国で蔓延する新型コロナウイルス感染症。あなたはどのようにこの窮地を乗り切りますか?
出典:シミラーウェブ 「デジタルデータで見る、新型コロナウイルスの 業界別インパクト」
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- 伊東ししゃも 編集者・ライター
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