シンガポールでは、他国より早い段階で新型コロナウイルスの感染者が出た
人口約560万人が暮らす小さな国、シンガポール。子どもたちの教育のために、母子で留学中の花田百合子さん(38歳)。この非常事態の中、ワンオペでも逞しく生活をしています。サーキットブレーカー(ゆるやかな外出禁止令)が発動されたシンガポールで、どのような取り組みをして過ごしているのでしょうか? お話をお伺いしました。
【2月〜3月】DORSCON(危険度の基準)が上から2番目の「オレンジ」に
「1月23日に初の感染者が見つかり、2月7日に政府はシンガポールの感染症の危険度の基準である「DORSCON」を、4段階の上から2番目のオレンジに引き上げました。その週の週末には、最初の買い占めがおきました。
この頃は国民の2~3割がマスクをしている状況でしたが、その後シンガポールでは感染者が増えなかったこともあり、買い占めなどもいったんは落ち着きました。
チャイニーズニューイヤーの中国からの人の出入りも多い国なので、緊張感が続いていた間、居住者は、観光客の多いチャイナタウンや観光地には行かないようになりました」
大規模イベントは、徹底した管理下で開催
「2月16日には、大きな規模のイベント『シンガポールエアショー』が行われたのですが、その時も管理は徹底していました。駅からシャトルバスで会場に行くような形で、誰がどのバスに乗ったかが、アプリで管理されていました。そのような体制のもと、当時はまだ、大きな屋外でのイベントも開催されていました」
「その後少し緊張感が緩み、人々はマスクもしないような普通の生活だったのですが、3月の中旬くらいからまた緊張感が出てきました。そのころに、普通に営業していたユニバーサルスタジオへ行ったのですが、すでに園内はガラガラでした。サーキットブレーカーが発動されていなくても、国民の危機管理意識が高いことを感じました。
3月になってからも、シンガポールのメインロードであるオーチャードストリートへは、子どもの習いごとなどで毎日のように行かなければならなかったのですが、周りを見回しても、マスクをつける人の割合が増えていました。
感染者数が徐々に増え、3月下旬ころから緊張感がまた一気に高まりました。ちょうど子どもの春休みの前でしたが、春休みまで残り3日という時に、自宅学習になりました」
4月7日、サーキットブレーカー発動
「4月3日にリー首相から国民に向け、4月7日にサーキットブレーカーを発動する旨のアナウンスがありました。
シンガポールのサーキットブレーカーは、他国のロックダウンとは違い、職場の閉鎖、生活に必要な店舗以外の営業は禁止ですが、交通インフラや人々の外出は認められています。
4月3日にアナウンスがあって、サーキットブレーカー発動までの数日間、自宅での自粛に向け、再度買い占めが始まりました。
4月6日まではすべてのお店が開いている状態で、人々は危機感を持ちながらも、普通の生活をしていました。ただ、お店は開いているものの、お店の入り口を一か所に集約したり、ソーシャルディスタンスを考慮したり、という気遣いをはじめていました。サーキットブレーカー発動によって町が変わったというより、国民ひとりひとりが、先に緊張感をもって動いていたように見えました」
「例えば、だいぶ前から、居住しているコンドミニアムには、エレベーターは4人までという規制を記した貼り紙が貼ってあり、床に立ち位置が床にテープで記され、エレベータ―内にもサニタイザ―が常設されたりしていました」
【4月】サーキットブレーカー発動の中でも、可能な限り普通に生活
「シンガポールのサーキットブレーカー発動は、外出制限措置はありません。でも、友達の家を行き来したりはできません。飲食店やおもちゃ屋さんなどはすべて閉まっていますが、健康維持のための外出は許可されています。
また、政府からマスクが一人一枚支給されました。『4月5日から4月12日までの間に、コミュニティセンターに取りに来てください』という指示でした」
必需品に困ることはなく、生活が送れている
「4月15日からは、外出する際にマスクを必ず着用することが義務付けされました。2歳未満と、ランニングなどの激しいエクササイズをする場合のみ、マスクは外しても良いことになっています。
普通の生活ができますが、全ての飲食店で、店内での飲食はできません。でも、ホーカーズというシンガポールではメジャーな屋台などは、開いていることもあります。
スーパーでは、ヨーグルトが一時期品切れになっていましたが、サーキットブレーカー発動後にはすぐ戻ってきました。サニタイザーは常に売られています。トイレットペーパーなどの紙類は品薄ですが、ネットなどでは普通に買えます。
生活必需品で足りないもの、買えないものはありません。発動後に、シンガポールイセタンに食料品を買いに電車で行ったのですが、電車はほとんど人がおらず、店舗の品ぞろえはかなり豊富でした。ドン・キホーテなど食品を扱っているお店も開いていて、十分な生活必需品が売られています。
現在は、出歩いている人は、通常の2~3割以下のように見えます。バスや電車などの交通インフラは通常通り運行されているようですが、乗っている人はとても少ないです」
家の中で楽しめることを見つけることが大切
「サーキットブレーカーの発動後、コンドミニアムのプールが使用禁止になったり、公園の遊具が使えなくなったりはしていますが、居住するコンドミニアム内を、居住者の子どもたちが走り回っています。うちの子どもたちは、ビデオ会議システムのZOOMを通じてチアのレッスンを受け、身体を動かしたりしています」
「日本のニュースを見ると、緊急事態宣言が出されているのに、飲食店が利用できたり、街に人が出ていたりすることに驚きます。
シンガポールの人々は、外出禁止でなくても自粛する意識がとても高いようです。人々からの信頼が厚いリー首相からのメッセージは、影響も大きいようで、駐在員の方からも現地の方からも、リーダーに対する支持の声が多く聞かれています。
私は、現地で英会話の授業を受けているのですが、3月末からはオンラインになりました。たまに街中に警察がいるのも見かけます。
街全般的に緊張感が漂っているというよりは、ただ、ひとりひとりが意識を高く持って自粛しているという感じです」
【未来】これからのために、今できること
「家での楽しみはネットフリックスです。ワンオペのため、日中は子ども2人を見ているので、子どもたちが寝てからが自分の趣味の時間です。ネットフリックスで好きな番組を観て、リラックスをしています。
また、こちらで売られているアボカドジュースがうっとりするほど美味しいので、美味しいものを飲みながら一人の時間を満喫することが、日々の原動力です」
長期戦に備えて、可能限りリラックスできる時間を取ること
ご主人とは毎日LINEでコミュニケーションを取って、夫婦の絆を確認
「日本にいる主人は、コロナ騒動が起こるまでは、1か月に1度の頻度でシンガポールに来ていましたが、現在は行き来ができなくなりました。毎日LINEの動画で、日々の出来事や子どもたちの様子などを伝えて、コミュニケーションを取っています」
長期戦だと思い、無理をしないこと
「サーキットブレーカーは、5月4日までと言われていますが、いつまで続くかわからないのが現状です。現在は子どもたちの春休みが終わって自宅学習となり、お弁当を作らなくていいので、朝もゆっくり起きるようにして、体調管理には十分に気をつけています。
年間を通して、シンガポールの日中は気温が30度を超えるので、毎日夕方に涼しくなってから、1時間ほど子どもたちとお散歩に行くのが日課です。
春休みが終わって子どもたちの自宅学習が始まり、子どもたちの勉強のサポートに時間を割いていますが、ネット漬けになるのも良くないと思い、合間には本の読み聞かせをするようにしています。
シンガポールの人たちは、気候の問題なのか、とてもおおらかな感じで、新型コロナにも柔軟に対応しているように見えます。殺伐としている雰囲気はなく、すれ違う人々ともマスクはしながらも、普通に会話をします」
罰則の有無に関わらず「自分ができることを自分の頭で考えて行動する」
「自分ができることは、可能な限り自宅にいること。そして、必要な買い物で外出する際には、ソーシャルディスタンスを適切に取りながら、子どもたちを守ることです。
少なくとも、自分の周りでは感染者が出たという話を聞いていないのも、殺伐とせずに済む理由です。医療崩壊などもなく平和な感じですが、シンガポールに住む人々は、個々が意識を高く持って、外出を控えています。
シンガポールはいろいろなことに対する罰則が厳しいのも理由かもしれません。禁固刑や罰金など。基本的には監視社会であることは有名ですが、国民からの首相への信頼感があり、統制がなされている実感があります。
今すべきことは、子どもたちと自分の健康を保つために食べ物に気をつけ、散歩を日課とし、粛々と過ごすこと。それ以外は出歩かないことです。そして、こういうときだからこそ、お肌のケアも忘れずに。夕方であっても外出時は日焼け止めを欠かさないようにしています」
日本の方に伝えたいこと
「子どもや自分が感染していても気が付かないかもしれないので、まず自分や子どもたちが動き回らないことです。マスクや手洗いはもちろんなのですが、ひとりひとりが、無駄に出歩かず家にいるという意識を持つことが大切だと思います。
周りの人たちのために、家にいること。自分の事だけを考えて出歩くのではなく、周りの事を考えることで、意識が変わるのかもしれないですね。
日本のニュースなどを見ると、出歩いている人が沢山いるようです。『自分だけ気をつけても仕方ない』と思ってしまうかもしれないですが、こちらの人々は、リー首相の説得力のある発言や、個人の意識の高さがあるからこそ、こんな時期でもパニックを起こさず、心配し過ぎずに暮らしています。
DORSCONがオレンジに上がってから、病院に入る前には強制的に体温が測られるようになりました。入室申請書を書き、おでこで体温を測ります。このような政府の徹底ぶりが、安心感につながっているのかもしれません。
でも、政府任せ、人任せにするのでなく、『自分ができることを自分で考える。』日本に住む方々ひとりひとりにその行動ができれば、きっと光が見えてくるのかなと思います」
- TEXT :
- 岡山由紀子さん エディター・ライター
公式サイト:OKAYAMAYUKIKO.COM