英国の自慢は、レースカーの技術だ。いまでもフォーミュラ1の開発をリードしているのは英国で、そのスピンオフともいうべきスーパースポーツカーも、注目すべきモデルが続々と登場している。

COVID-19の対策のため、自社(F1の開発などを担当するマクラーレン・アプライド社)の技術を人工呼吸器の開発や生産に提供しているマクラーレングループだが、いっぽうで、新車の開発も手をゆるめていない。

本来、2020年3月初旬に開催予定だったジュネーブ自動車ショーでお披露目する予定で進んできたプロジェクト「エルバ」(Elva)が、4月初旬に日本に持ちこまれて、ジャーナリスト向けに公開された。

マクラーレン「エルバ」は、同社の「アルティメットシリーズ」に属するレース場も得意とするスーパースポーツ。1964年に1号車が開発されたマクラーレン「エルバ」の名前をとっただけある、と思わせる、かつてのカンナムマシンのようにウィンドシールドももたない個性的なスタイルが特徴的だ。

専用のヘルメットも用意されている

ウィンドシールドレスの仕様はアクティブエアマネージメントシステムを採用。
ウィンドシールドレスの仕様はアクティブエアマネージメントシステムを採用。
乗員の背後にオールオーバープロテクションがそなわる。
乗員の背後にオールオーバープロテクションがそなわる。

究極のスーパースポーツに位置づけられているマクラーレン「セナ」および「セナGTR」の流れをくむ4リッターV型8気筒エンジンをミドシップする2シーター。

流れるようなラインの車体は、「水滴や鳥の羽はあんなに美しいのに究極の機能的造型」とするマクラーレンのデザインディレクター、ロブ・メルビル氏の肝煎りで実現した。

カーボンファイバー製のボディはメインの部分が一体成型というのも凝ったつくりだ。前ヒンジで上に跳ね上がるディヒドラルドアは極力小さく、ボディの空力をさまたげないような造型である。

ボディ内部も車体色が使われており、「エクステリアとインテリアを融合」したとメルビル氏が説明するとおり、レーシングカーの要素をうまく取り込んだ先鋭的なスポーツカーデザインだ。

英国をはじめ欧州や日本で売られる仕様はウィンドシールドをもたない。マクラーレンでは「アクティブエアマネージメントシステム」を開発。空気の流れで「エアカプスル」を作り、多少の雨など後ろに流してしまうのだそうだ。

ただし、跳ね石などは防げないので、マクラーレンでは提携パートナーであるベルヘルメッツ社に、エルバのために特別なヘルメットを作ってもらい、乗員のために2つずつ用意する。

4本の排気管で聴かせる最高のエンターテインメント

MSOは当時のマクラーレンエルバM1Aに準じた仕様も提供する。
MSOは当時のマクラーレンエルバM1Aに準じた仕様も提供する。
新設計のシートに8インチのタッチスクリーン。
新設計のシートに8インチのタッチスクリーン。

ミドシップされたエンジンは815馬力の最高出力と800Nmの最大トルクで後輪を駆動。静止から時速100キロまでは3秒以下、時速200キロまでは6.7秒で加速する。これはマクラーレン「セナ」をしのぐ数値だという。

エンジンの働きは加速だけでない。乗員へのエンターテインメントも提供してくれる。コクピット背後に、排気管が4本突き出す。2本は高音を作り、下に位置する2本は中低音を作るのだそうだ。排気音をここまで積極的に”聴かせる”モデルはそうそう例がない。

「エルバ」は、そもそも1951年にフランク・ニコルズが設立した英国のレーシングカーメーカー。ロータスのコリン・チャプマンのように、低予算でスポーツカー/レースカー(当時はほぼ同一視されることもあった)を作ろうという意気込みでスタートした。

マクラーレンの創始者、ブルース・マクラーレンはレースへの参加に積極的だったが、人手の問題で、ある分野ではマシンの外注を余儀なくされた。そこで、カンナム(カナディアン・アメリカン・チャレンジカップ)のために開発されたのが「エルバ」(当時は「エルバカーズ」)によるM1A。67年までにM1B、M1Cと開発が続けられた。

「マクラーレンの成功の基盤を築いたスポーツカーの系譜を継承できることを、私たちは嬉しく思っています」。マクラーレン・オートモーティブのCEOであるマイク・フル−ウィット氏はそう語っている。

価格は142万5000英ポンド(英のVAT=付加価値税込み)。日本では英ポンドで受注されるとのこと。このまま日本円に換算すると約1億9100万円。生産台数は限定249台と、稀少価値が高い。

MSO(マクラーレンスペシャルオペレーションズ)では、かつてのマクラーレン「エルバ」時代のレーシングマシンを彷彿させるような仕様を含めて、さまざまなオーダーを受けるそうだ。

当時のマクラーレンエルバM1A(左)とともに。
当時のマクラーレンエルバM1A(左)とともに。

問い合わせ先

マクラーレン オートモーティブ

関連記事

この記事の執筆者
自動車誌やグルメ誌の編集長経験をもつフリーランス。守備範囲はほかにもホテル、旅、プロダクト全般、インタビューなど。ライフスタイル誌やウェブメディアなどで活躍中。