こんにちは!  アンドリューです。ちょーいいかげんに始めたこの連載も今回で第6回です。お読みいただいてありがとうございます。

「英国王室のヘンリー王子が婚約か?」との報道が駆け巡っていますね。真偽のほどはよくわかりませんが、何はともあれ英国に話題が集中することは、アンドリュー的にはwelcomeでございますindeed!

象が踏んでも壊れないスーツケース

ところで、アンドリューの英国里帰りの折に常に"帯同(たいどう)"してくれる旅のとも=スーツケースはといえば、“グローブ・トロッター”。英国生まれの旅行カバンの名門ブランド(現在はラグジュアリーファッションブランド)です。今年でなんと創業120周年を迎えた老舗ブランドでもあります。

アンドリュー家のグローブ・トロッター全員集合。右が国際線機内持ち込み可能サイズのスーツケース。小さいふたつは、「ミニトロッター」と呼ばれるもの。コスメの機内持ち込み等にも最適
アンドリュー家のグローブ・トロッター全員集合。右が国際線機内持ち込み可能サイズのスーツケース。小さいふたつは、「ミニトロッター」と呼ばれるもの。コスメの機内持ち込み等にも最適

グローブ・トロッターの魅力は「軽くて丈夫なこと」と言われています。現在も、イギリス東部ハートフォードシャー、ブロクスボーンの工場でひとつひとつていねいに手づくりされているグローブ・トロッターのスーツケースですが、そのボディの素材は、驚くべきことに「紙」なのです。

ミニトロッターはアタッチメントを使うと、こんなふうにキャスターの持ち手に取り付けられる。NAHはもちろん、N.アンドリュー橋本のイニシャル
ミニトロッターはアタッチメントを使うと、こんなふうにキャスターの持ち手に取り付けられる。NAHはもちろん、N.アンドリュー橋本のイニシャル

紙だから軽いのは当たり前。でもなぜ紙が丈夫なのか? そこには同社が長年、大切に守り続けてきたヒミツの特殊技術があるのです。

特殊紙を何層にも圧着(vulcanize)してつくり上げる、ヴァルカン・ファイバーという特殊な素材。これが、軽いのに強靱で、世界中の過酷な環境に耐えうる丈夫さを生み出します。しかも、この“魔法の素材(=紙)”は、使えば使うほどに強靱さを増すというのです。

MOST FAMOUS SUITCASE SINCE 1897 の刻印が誇らしい!
MOST FAMOUS SUITCASE SINCE 1897 の刻印が誇らしい!

紙は化学素材とは違い、呼吸をします。湿気の多いところでは水分を吸収し、乾燥した状態では縮みます。水分を含んだり乾燥したり、伸縮も繰り返す中で、ヴァルカン・ファイバーのスーツケースは鋼のような強さを加えていくのです(さらに、アンドリューが驚いたのは、航空会社の扱いがひどくへこんだり変型したりしたスーツケースが、湿度と乾燥を繰り返すことで、自然に元の形状へと復元していったことです!これにはビックリ!本当に優れた素材です!)。

日本でも「象が踏んでも壊れない筆箱」というのがかつてありましたが、グローブ・トロッターは、実際、象に踏ませて壊れない実験をし、その絵を広告に使用したことから、一躍有名になったといいます(1900年のこと)。

1900年のグローブ・トロッターの広告。「ジョン」という愛称の1トンの象が実際に乗っても壊れなかったという(MEN'S Precious2010年冬号より)
1900年のグローブ・トロッターの広告。「ジョン」という愛称の1トンの象が実際に乗っても壊れなかったという(MEN'S Precious2010年冬号より)

エリザベス女王もチャーチルも愛用

そんなこともあり、グローブ・トロッターは、英国の南極観測隊のトランクとして使用されたり、著名な登山家、エドモンド・ヒラリー卿がエベレストを目指したとき、ベースキャンプまでのトラベルケースとして使用したり、1930年代にはサッカーのイングランド代表チームが遠征用トランクとして所用したり・・・。ウインストン・チャーチルが愛用した写真も残っていますし、エリザベス女王も愛用しているといわれます。グローブ・トロッターは、英国史の中の重要な場面で、その歴史を支えてきたわけです。

グローブ・トロッターとともに遠征するサッカーのイングランド代表チーム。1938年(MEN'S Precous 2011年冬号より)
グローブ・トロッターとともに遠征するサッカーのイングランド代表チーム。1938年(MEN'S Precous 2011年冬号より)
グローブ・トロッターを持つウインストン・チャーチル(MEN'S Precious2010年冬号より)
グローブ・トロッターを持つウインストン・チャーチル(MEN'S Precious2010年冬号より)

コム・ディ・ギャルソンやアスプレイともコラボ

しかしながら、アンドリューがこのスーツケース(トランク)を愛する理由は、それだけではありません。何より、ファッションアイテムとしての質の高さが見逃せないからです。

これまでもコム・ディ・ギャルソン、アスプレイをはじめとする、さまざまな世界のトップブランドとのコラボモデルがつくられてきましたが、それは、グローブ・トロッターが唯一無二の世界観を有しているのと同時に、その高いファッション性が評価されてのことなのでしょう。

アンドリューもホテルにチェックインする時によく"Wao!  Globetrotter! So,cute!"とほめられますし、それだけでポーターたちの笑顔が変わるのを何度も経験しています。空港のチェックインカウンターで「グローブ・トロッター、素敵ですね。ていねいに扱いますね」と言われて、こちらがお願いしていないのにPriority tag(優先取扱注意を示したタグ)を付けてもらったこともあります。

英国の歴史と文化の中で育まれたグローブ・トロッターはまた、英国のホテルによくなじむ
英国の歴史と文化の中で育まれたグローブ・トロッターはまた、英国のホテルによくなじむ

まあ、理屈は関係なく、ともかくかわいいスーツケースなのです。

もうひとつ、これはこっそり明かしますが、日本のファッション・エディターたちが愛用するスーツケースで異常に多いのがグローブ・トロッターです。ほかの出版社の編集長と一緒に参加する海外取材では、空港でいろいろな色やさまざまな大きさのグローブ・トロッターが集結して、びっくりしたことが何度もあります。いつだったか、いろいろな雑誌の編集長と一緒に京都出張した折に、新幹線の荷物棚に、国内旅に適した小さめのグローブ・トロッターが何個も並んでいて、驚いた経験もあります。

そう、グローブ・トロッターは、ファッショニスタ御用達のスーツケースでもあるわけです。

John Bull魂バクレツ! すべ手づくりのスーツケース

さて、たくさんの魅力があるグローブ・トロッターですが、私アンドリューがグローブ・トロッターを愛する最大の理由は、このトラベルケースが、最も英国的な雰囲気を持ち、英国人気質(=ジョンブル魂みたいな)を如実に体現しているものだからです。

先にも説明しましたように、グローブ・トロッターは、今もイーストアングリア(イングランド東部)のブロクスボーンという小さな町の昔ながらの工場で、すべて手づくりで製造されています。

手づくりなので、リベットの打ち方が少し歪んでいたり、ずれていたりするのですが、それがまたかわいい! 紙のボディも機械で加工するのではなく、職人さんがひとつひとつ手で折り曲げて成形しています。

ひとつひとつ大切に手づくりされるグローブ・トロッター。ビスをとめているところ(MEN'S Precious2010年冬号より)
ひとつひとつ大切に手づくりされるグローブ・トロッター。ビスをとめているところ(MEN'S Precious2010年冬号より)

3年ほど前に、アンドリューもその工場を見学しましたが、英国人の職人さんたちの頑固そうで、同時に誇りに満ちた笑顔が忘れられません。それは、ものづくりの国=ニッポンの私たちから見ても、ホレボレとする、また清々しい光景のように思いました。

グローブ・トロッターのスーツケースはまた、英国のホテルの部屋の中で輝いて見えます。それはこのスーツケースそのものが、英国の風景の一部なのだと教えられるようです。このスーツケースは、英国人の歴史と生活の中で育まれてきたもので、英国の文化そのものなのです。

最後に「グローブ・トロッター」とはどういう意味かを記しておきます。“Globe(地球)trotter(速歩の人)”、直訳すれば”地球上をひたすら旅する旅人“くらいの感じでしょうか。なんと洒落たブランド名なのでしょう!

よいスーツケースを持つことは、楽しい旅の必須条件ですよね、ワン!
よいスーツケースを持つことは、楽しい旅の必須条件ですよね、ワン!

グローブ・トロッターは英国文化の一部と述べましたが、英国以外でこのスーツケースを最も愛するのは日本人だそうです。先にも述べた通り、日本のファッション・エディターの御用達ブランドでもあります。

英国で愛用されるのはともかくとして、何故日本でここまで愛用されるラグジュアリーブランド、ファッションブランド、旅行用品ブランドにまで発展するに至ったのか?

そこにはひとりの日本人の強烈なこだわりと執念が関与していたのですが、その数奇な物語については次回にてご紹介します。

・・・・っとここまでお読みいただいて、あれ?  前々回「次号からロンドンの現代アートについて数回ご紹介」と書いてあったはずでは・・・とお気づきになった方・・・あれはどうなったの? とお怒りの皆様(って、そんな人ほとんどいないか・・・)

私アンドリュー、気分屋なもので・・・。ロンドンのアート事情についてはまた、芸術の秋にでも・・・ということで今回も許してくださいindeed!

では今回は、羊が顔を出したからさようなら。

 
 
この記事の執筆者
自称大阪生まれ、イギリス育ち(2週間)。広島大学卒(たぶん本当)。元『和樂』公式キャラクター。好きなもの:二上山、北葛城郡、入江泰吉、Soho Squre、Kilkenney、Hay-on-Wye、Mackintosh、雨の日、Precious、Don’t think twice, it’s all right.