関東では6月も半ばになると、「もうすぐお中元の手配をしないと…」と、心の準備を始める人も多いのでは。近年では「お中元」や「お歳暮」のやり取りは減っているものの、やはり「季節のご挨拶」は大切にしたいですね。今回は「お中元」について、贈る時期やそのマナー、返礼の仕方など、知っておきたい大人の常識を解説します。

【目次】

半年間の感謝の気持ちを品物に託して贈ります。
半年間の感謝の気持ちを品物に託して贈ります。

【「お中元」の「意味」は? 押さえておきたい基礎知識】

「お中元」は「夏の季節のご挨拶」

「お中元」は、お世話になっている方やビジネス関係の方、また、個人的に親しい方に、日ごろのおつき合いに対する感謝の気持ちを品物に託して届ける、夏の「季節のごあいさつ」です。近年では、社内の儀礼が禁止されている企業もありますし、社外の相手にも個人で贈るという状況は減少しているのが現状。ですが、やはり基本的な知識は押さえておきたいものですね。

■「由来」は?

「お中元」の「お」は敬語表現の接頭語。では「中元」は? というと、由来は古代中国の道教にある問われていわれています。「元」は「始まり」を意味し、「中元」は「三元」と呼ばれる「上元(正月15日)」、「中元(7月15日)」「下元(10月15日)」のひとつ。善悪を判別し人間の罪を許す神(地宮)を祀る贖罪 (しょくざい) の日とされています。一方で、日本には夏の時期に送り火や迎え火を焚いて祖先の霊を家に迎え供養する「盂蘭盆(うらぼんえ=お盆)」という仏教行事があります。このふたつが結びついて、日本では「中元」に、祖先を祀り、半年生存の無事を祝うとともに、親類縁者が互いに訪問しあって親交を深め、仏に物を供え、死者の霊の冥福 (めいふく) を祈る風習が生まれました。そして、「祖先との共食」という意味で白米、麺 (めん) 類、菓子、果物などを贈る文化が形成されたのです。そして、祖先の霊を迎える行事を「(お)盆」、贈答という行為が「(お)中元」と呼ばれるようになったのです。


【「お歳暮」との「違い」は?】

「日ごろの感謝の気持ちを込めてお世話になった方に品物を贈る」習慣といえば、「お中元」同様「お歳暮」がお馴染みです。「お中元」と「お歳暮」の違い、ご存じですか。

■そもそも「お歳暮」とは

お歳暮とは、一年間、お世話になった方への感謝の気持ちとして、年末に贈る品のこと。その年を締めくくる感謝の気持ちと、今後も「よろしくお願いします」という挨拶を込めて贈ります。

■「お歳暮」の「由来」

「お歳暮」は年末の贈答品ですが、その由来のヒントは「正月」にありました! 元々、お正月はお盆と同じように祖先の御霊(みたま)を祀る機会。そして「歳暮」は、御霊祭りのお供え物として、主に外に出た子どもや分家らが親や本家のもとへ持参するのがもともとの形態であったと考えられています。また、「歳暮」は存命する親の長寿を願う贈物でもありました。現在、贈られる品は各種日用品まで幅広いのですが、元々は米や餅、魚など、食べ物が主で、これを老親に食べさせて生者の霊力を強化させる意味があったと推察されています。つまり「歳暮」とは、本来、大晦日に健やかに年を越すための食べ物ではなかったかとも考えられています。

■「お中元」と「お歳暮」の違いは?

「お中元」と「お歳暮」は、どちらも祖先の御霊を祀るためのお供え物を贈る行事。大きな違いは、贈る時期です。「お中元」はざっくり言えば「夏」に贈りますが、「お歳暮」は年末。また、お中元」は新年から夏頃まで、半年間の感謝を表しますが、お歳暮は1年間の感謝を品物に託して贈ります。傾向としては、「お中元」よりも「お歳暮」のほうが、やや高額商品が選ばれるようです。また、「お中元」と「お歳暮」では、品物につける表書きも違います。贈る時期に合わせ、適した表書きを選びましょう。


【「お中元」を贈る際の注意点】

現在では「お中元を贈る」行為は、「お中元を送る」のと実質的にはほぼ同じですが、昭和の時代は品物を持参して直接相手の家まで伺う習慣が残っていました。近年はデパートやオンラインショッピング等を利用して、宅配をお願いするのが一般的です。

贈る時期は?

「お中元は7~8月に贈るもの」と思っている方が多いかもしれませんが、実は贈る相手が住む地域により、贈る時期は異なります。例えば東日本と西日本では1か月近く、その時期に差がありますが、これは、お中元の由来となる「お盆」の時期が地方によって異なるため。贈る相手が暮らす地方の「お盆」の時期にあわせて届けるのが、お中元のマナーのひとつなのです。では、具体的に各地方ごとにお中元を贈る時期を見てみましょう。

・北海道
北海道のお中元の時期は、7月15日ごろ~8月15日まで。1か月ほど時期があるため、余裕をもって贈ることができます。

・東北・関東
東北地方と関東地方のお中元は少々早めで、7月1日~7月15日が一般的。2週間という短い期間、しかももっともお中元の配送が集中する時期です。確実にこの時期に品物が届くようにするために、早めのご手配を。

・北陸
北陸地方では、お中元を贈る時期は地域により異なります。新潟県や石川県の金沢市では、関東・東北と同じく7月1日~7月15日の間に贈るのが一般的。一方、富山県などでは北海道と同じく7月15日~8月15日に贈ることが多くなります。特に注意が必要なのが、石川県。金沢市では7月1日~7月15日の間にお中元を贈りますが、能登地方は7月15日〜8月15日が多いようです。同じ県内でも地域により時期が異なりますので、送り先の住所を確認して、その地方ごとの時期にあわせて配送を手配しましょう。

・東海・関西・中国・四国
東海から関西、中国、四国地方は、お中元を贈る時期は7月15日~8月15日と、​比較的幅広い期間になっています。ただし、関東地方の影響を受けてか、贈る時期が年々早まる傾向にあるようです。

・九州
九州地方のお中元の時期は、全国でももっとも遅い8月1日~8月15日。8月15日頃はお盆休みに重なる時期のため、早めに手配するのが賢明です大切。

・沖縄
沖縄県のお中元の時期は、他の都道府県とは異なり、旧暦の7月13日~15日の3日間に贈るのがマナーです。旧暦の7月13日~7月15日は毎年日付が変わりますので、事前に旧暦カレンダーで確認してから、配送手続きを行いましょう。旧暦の7月13日〜15日は、2024年では8月16日〜18日となります。

■表書きは必要?

近年では、熨斗と水引が印刷された熨斗紙(のし紙)を使う場合がほとんど。熨斗紙の上段には、贈る時期にあわせた、「御中元」や「暑中御見舞い」「残暑御見舞い」などの「表書き」をつけるのが一般的。下段に少し小さめの文字で贈る側のフルネームを書きましょう。

お中元の表書き:関東の場合
6月中旬~7月15日 御中元
7月16日~8月7日 暑中御見舞い
8月8日~9月上旬 残暑御見舞い

お中元の表書き:関西の場合
7月16日~8月15日 御中元
8月16日~9月上旬 残暑御見舞い

■金額の相場は?

Precious世代であれば、ビジネスシーンでのお中元の相場は、5000円前後と考えておくのが一般的。相手に気を遣わせないよう気楽に贈るのであれば、3000円以上が目安でしょう。特にお世話になっている人であっても、1万円を上限として選ぶのが適切です。 目上の人に高すぎるものを贈るのは失礼にあたりますし、高額な贈り物は負担に感じる人が多いようです。


【押さえておきたい、贈る際の「マナー」】

感謝の気持ちを伝えたつもりが、マナーを知らないが為に逆効果に……なんてことにならないよう、最低限のマナーは押さえておきましょう。

■お中元を贈るのが遅くなってしまったら?

忙しくてお中元の手配が間に合わず、時期が過ぎてしまうことがあるかもしれません。そんなときは「表書き」の項で説明したように、「お中元」ではなく、「暑中見舞い」や「残暑見舞い」としてお送りしましょう。

■今年はお目にかからなかった方に……品物の金額を下げてもOK?

毎年、「お中元」を贈る方に対して、年によって値段が上下するのはあまり好ましくありません。前の年よりあからさまに安いものを贈るのも失礼にあたります。経済的な負担を感じない金額で、長いお付き合いをしたいものです。

■「お中元」を贈ってはいけない人もいる?

「お中元」を「賄賂」と受け取られてしまう可能性がある、政治家や公務員への贈り物は、それまでのお付き合いの経緯に関係なく、控えたほうが賢明です。また、会社の上司にたいしても、近年ではも社内での「お中元」「お歳暮」などを含む贈り物を禁止している会社もあるので、事前に会社のルール等を確認する必要があります。

■喪中の人にお贈りできる?

「お中元」は半年間の感謝を伝える品。喪中であっても、贈るのも受け取るのも、基本的には問題ありません。ただし、気になるようであれば、お中元の時期をずらして「残暑見舞い」として贈るのはいかがでしょう。


【いただいたときの「返礼」は?】

基本的には「お中元」や「お歳暮」に、「お返し」を送る必要はありません。ただし、品物を受け取ったらできるだけ早くお礼状を書いて、受け取ったことのご報告と感謝の気持ちを伝えるのがマナーです。親戚や親など親しい間なら、電話をかけて品物が届いたことを伝え、感謝の気持ちを伝えると、喜んでいただけるのでは。また、贈る相手によっては、メールなどインターネットを使ったカジュアルなやり取りを好む人もいるでしょう。相手との関係性に最適な方法で、感謝の気持ちを伝えたいですね。以下に贈り物のお礼に添える文例をご紹介します。

■1:「このたびは、お心づくしのお品を頂戴いたしまして、本当にありがとうございます」

■2:「結構な御挨拶のおしなをいただき、厚くお礼申し上げます。さっそく皆で賞味させていただきました」

■3:「素敵なお品をお送りいただき、ありがとうございます。○○さまのいつもながらのお心配り、感謝の念に堪えません」

■4:「本日、とても涼やかなお菓子が届き、大変喜んでおります。ひととき暑さを忘れ、家族揃っていただきました」

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近年では、ビジネスシーンでの「お中元」「お歳暮」のやり取りは、減少傾向にあるようです。だからこそ、離れて暮らす両親や、お世話になった方々など、単なる「お付き合い」ではなく、本心からの感謝を伝えたい相手には、心を込めた品をお送りしたいものです。「お中元」をきっかけに元気な声を聞き、「またお目にかかりましょう」と言葉を交わすのも、「お中元」の目には見えない効能と言えるかもしれません。

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この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『日本大百科全書 ニッポニカ』(小学館) /『世界大百科事典』(平凡社) /『心が通じる 手紙の美しい言葉づかい ひとこと文例集』(池田書店) :