2009年に開業した「シャングリ・ラ ホテル東京」でも、こうした期間限定のポップアップバーは初の試み。まだコロナの影響で自由に旅ができない現在、カクテルラバーにとっては「ロブスターバー&グリル」の雰囲気を味わいつつカクテルで世界旅行を楽しめるまたとない機会なのだ。
シャングリ・ラ ホテル 東京のポップアップバー「ロブスターバー&グリル」
今回イタリア料理「ピヤチェーレ」内に登場したポップアッップバーは、従来はブッフェ・コーナーが置かれていた場所。そこに香港と同じ壁紙や青い照明器具などを使って「ロブスターバー&グリル」と同じ空間を再現したのだ。注目のカクテルとフードは、香港と同じスカイブルーのメニューをそのまま踏襲し、デザインや内容をそのまま生かして日本語に置き換えたてある。つまり雰囲気だけでなく「ロブスターバー&グリル」の味が楽しめるのというのもご時世には実にありがたい。
28階にある「ピヤチェーレ」から見えるのは八重洲サイドのイルミネーション。
窓辺にカウンターと夜景を遮らない控えめなバックバーが置かれ、香港と同じブルーの壁と照明が設えられている。夜景に映えるカクテルグラスを眺めていると東京というよりも香港あたりのルーフトップバーにいるような、そんな錯覚を覚えてしまう。
「アイランド シャングリ・ラ香港」の「ロブスターバー&グリル」と同じ美しいブルーのメニューブックの表紙には「The Archivist」と書かれている。アーキヴィストとは重要な書類などを保管する担当者のことだが、メニューをひらけばその意味が理解できるだろう。
イギリスの船員たちが賞味期限切れのワインやビールの代わりに、さまざまなアルコール飲料を混ぜたという「パンチ」の時代から近代のカクテル・エイジにいたるまで、時代ごと、テーマごとにメニューが構成されている。つまりこれはカクテルの歴史をアーカイブした貴重な一冊の歴史書なのだ。
ガストロノミーの世界もそうだが、近年では詳しい説明は省き素材名だけを記しただけのミニマルなメニューがトレンドだ。しかし「ロブスターバー&グリル」のメニューブックはそれとは正反対。
クラシックメニューとアレンジメニュー、さらにはそのカクテルの歴史などがきちんと詳述されており、カクテル好きはもちろんのこと書物好きも引き込んでしまう魅力的な作りなのだ。クラシック・カクテル、アレンジ・カクテル、そしてノンアルのモクテルがそれぞれ3種類ずつと今回のポップアップバーのために特別に考案されたロブスターのスペシャル・カクテルの合計10種類が味わえる。
特別な夜だからこそ、特別な1杯を!
まず一杯目は1600年代「パンチ時代」にさかのぼる古い一杯「フィッシュハウス パンチ」から。フィラデルフィアのスクールキル川沿にあった「フィッシュハウス」というフィッシングクラブへのオマージュとして生まれたという逸話があるカクテルだ。パンチとは大航海時代の頃、インドやインドネシアなどアジア諸国を旅した船員たちがワインなどの代わりに考案したカクテル。
手に入る現地の酒、レモン、砂糖、水、ハーブまたはスパイスという5つを混ぜ合わせて飲み始めたのが始まりだ。貧すれば鈍する、というのは酒飲みにはあてはまらない。手に入る材料を使ってなんとかうまい一杯を作り出そうとしてきた先達の知恵には脱帽するばかりだ。ちなみにパンチとはヒンドゥ語で5を意味する。酒飲みのとって5とは聖なる数字なのだろう。
「ロブスターハウス パンチ」は「フィッシュハウス パンチ」のアレンジで、パーン、ニームの葉、トゥルシーリーフ(ホーリーバジル)、ミント、ローズマリーというインドでよく使われるハーブを使用し、最後にポートワインをゆっくりと注ぐ。バーテンダーのその優雅な手つきを見ているとカクテルグラスの中が徐々に真紅に染まってゆく、見目麗しい美しいカクテル。
「ジュレップ」の名は聞いたことがある人も多いだろう。「ウイスキージュレップ」がその代表だが、1700年代の植民地時代には「処方箋ジュレップ」と呼ばれていたことがある。当時飲料水は質が悪く、発酵飲料のほうが体に害を及ぼさないと考えられていたのだ。
特にジュレップは医療目的で医者から奨励されていたという。19世紀の雑誌記事で世界で最も美味しいジュレップとして掲載されたのはウイスキーとコニャックを組み合わせたもので、それはあまりの美味しさから「天国の結婚」と呼ばれていた。
また、「処方箋ジュレップ」のアレンジには「ハングザイエティ」があり、二日酔い(hangover)と不安(anxiety)を組み合わせた造語だ。名前だけ聞くとなんとも危なっかしくて飲むのをためらいそうだが、ブレンドウイスキーとシラウイスキーを使ったカクテルはスモーキーかつビター、飲む人をとりこにしたという。
次は1800年代の英国ビクトリア朝時代の「ブランデークルスタ」だ。カクテルという言葉の由来は諸説ふんぷんあるが、内容としては蒸留酒やスピリッツに砂糖やビターなどを混ぜ合わせたアルコールドリンクとして定着したのが19世紀初めの頃。
「ブランデークルスタ」が生まれたのは1850年のこと。ニューオーリンズ出身のイタリア人バーテンダー、ジョセフ・サンティーニの考案だ。グラスの縁を砂糖で飾るスノースタイルは一斉を風靡したと言われている。もたらしたカクテルだ。「コーリング カード」はそのアレンジで、柚子リキュールとレモンの皮を醸したオイルシロップ、アロマティックビターズを使った一杯。柑橘の香りがたまらない。
「ロブスターバー&グリル」の夜を締めくくる最後の一杯はオリジナルカクテル「ザ・ロブスター」これは「エボリューション=進化」がテーマとなっておりカクテルと料理の境界線を超えたような、なんとも個性的なカクテル。
ベースにロブスターの殻と香味野菜、ハーブ、ワインを煮込んで旨みを凝縮させたアメリケーヌを使い、紹興酒、アブサン、さらにフルーツトマトジュース、タバスコなどを合わせててある。濃度もあるので、スープのような、しかしその切れ味ややはりカクテル。紹興酒の香りがどことなくオリエンタルで、アブサンが全体をまとめている。
「ロブスターバー&グリル」ではカクテルだけでなく、香港同様フードメニューも充実している。「アイランド シャングリ・ラ香港」の「ロブスターバー&グリル」で人気のシーフードプラッターやロブスタービスク、クラブオントースト、テルミドールなど日本人が大好きなエビやカニを使ったサイドディッシュ的料理から、デザートまで全てカクテルとの相性を考慮して用意されており、ペアリングを楽しむこともできるという、実に凝った趣向なのだ。
残念ながらコロナはまだまだ収束する気配を見せず、自由気ままに海外旅行ができるようになるには、今しばらく時間がかかりそうな気配だ。そんな時はカクテルと料理で世界を旅する、アームチェアートラベリングとしゃれて見るのはいかがだろう。秋の夜長、じっくりとメニューブックを読み込み、お気に入りの一杯を探す作業は実に楽しいものなのだから。
問い合わせ先
- シャングリ・ラ ホテル東京 TEL:03-6739-7888
- 住所/東京都千代田区丸の内1-8-3トラストタワー本館
期間/11月28日(土)まで
時間/18:00~23:00(L.O.22:30)
価格/カクテル各2,500円、ノンアルコールカクテル各¥1,800 シーフードプラッター¥7,500、ロブスタービスク¥2,700、クラブオントースト¥1,500(全て消費税・サービス料別)
- TEXT :
- 池田匡克 フォトジャーナリスト