9月のOPEN当初からレストランやアフタヌーンティを中心に賑わいとみせていた「フォーシーズンズ ホテル東京大手町」だが、実は主役を欠いていたのがバー「ヴェルテュ」だった。地上38階からの夜景が堪能できるロケーションやゴージャス&シックなインテリアももちろんいいのだが、なによりメニューの充実ぶりに目を見張った。

オリジナル・カクテルを楽しませてくれるシグネチャーバーでは、いわゆるスタンダードなカクテル・メニューではなく一方変わったオリジナリティあふれるメニューでまず目を楽しませてくれることが多い。「ヴェルテュ」のメニューは、七つの大罪ならぬ「七つの美徳」で構成されていて、それぞれ仁、義、忠義、誠、名誉、礼、勇というテーマにそったオリジナル・カクテルが用意されているのだ。

フレンチ・カクテルの粋を堪能するバー「ヴェルテュ」

アメリカ出身のヘッド・バーテンダー、ジョシュア・ペレス。「ヴェルテュ」ではニューヨークで学んだフレンチ・カクテルを提案。
アメリカ出身のヘッド・バーテンダー、ジョシュア・ペレス。「ヴェルテュ」ではニューヨークで学んだフレンチ・カクテルを提案。

若い頃のアンディ・ガルシアを彷彿とさせるアメリカ人バーテンダー、ジョシュア・ペレズはなんと日本語堪能。聞けば奥方は日本人だとか。ニューヨークでは「パーフェクト・カクテル」著者であるフードサイエンティスト兼バーテンダー、デイブ・アーノルドに師事。デイブがオーナーを努める「Booker and Dax」では、遠心力で抽出する透明なジュースや、液体窒素で凍らせた冷凍ハーブを使った革新的なカクテル作りに励み、最先端の技術と器具を使ったミクソロジー技術に磨きをかける。

さらにジョシュアは伝説のミクソロジスト、サーシャ・ペトラスキーがオーナーだったカクテルバー「Middle Branch」で働くなど、ニューヨークで最先端のバーシーンを体験しての来日だった。いわばカクテル界の黒船来航。「ヴェルテュ」でジョシュアが提案するのはニューヨークで学んだフレンチ・カクテル。コニャックやシャンパーニュ、カルバドスやアブサンなど、フランスを代表するアルコールに日本的エッセンスを加えた個性的なカクテルだ。

「七つの美徳」で構成されたオリジナルカクテル

シャンパーニュに洋梨というフランス的味わいの「シャンパーニュ・ポワール」ほのかな甘口はアペリティフに最適。
シャンパーニュに洋梨というフランス的味わいの「シャンパーニュ・ポワール」ほのかな甘口はアペリティフに最適。
細切りのフレンチフライには黒トリュフペーストをたっぷり、これがシャンパーニュ・カクテルに実によくあう。
細切りのフレンチフライには黒トリュフペーストをたっぷり、これがシャンパーニュ・カクテルに実によくあう。

「まずはこちらを」と挨拶がわりに登場したのがシャンパーニュに日本産のウォッカ、アブサン、レモン、洋梨を使った「シャンパーニュ・ポワール」。シャンパーニュ・ベースの代表的なカクテルにはフレンチ75などがあるがこれはそのアレンジか。レモンの酸味に洋梨の甘み、アブサン独特の苦味が加わり非常に複雑で香り高い。「ヴェルテュ」はフードメニューも充実しているのだが、まず最初に頼みたいのがトリュフ・ペーストを使ったフライドポテト「トリュフ・フレンチ・フライ」。ジャガイモとトリュフという相性抜群の組み合わせにシャンパーニュの相乗効果は、食べ始めると止まらなくなる。

ジョシュアが愛用するラムを使った「ヴェルテュ・ダイキリ」。ラズベリーの香りがアクセント。ジョシュアが愛用するラムを使った「ヴェルテュ・ダイキリ」。ラズベリーの香りがアクセント。
ゴルゴンゾーラのピッツァに添えられているのはオシェトラのキャビア。ウォッカもいいが、ここはやはりシャンパーニュか。
ゴルゴンゾーラのピッツァに添えられているのはオシェトラのキャビア。ウォッカもいいが、ここはやはりシャンパーニュか。

二杯目にラムを使ったカクテルを頼むと、ジョシュアが用意してくれたのが「ヴェルテュ・ダイキリ」。プランテーションラム、フレッシュ・ライム・ジュース、シュガーシロップ、ラズベリー・オー・ド・ヴィを使っており、ダイキリにオード・ヴィをプラスしてフランスタッチにしたような爽やかな味わい。ここで登場したのが「ヴェルテュ」名物のキャビアのピッツァ。

同じフロアにあるイタリア料理「ピニェート」ではナポリ出身のピッツァ職人が腕をふるっておりバーからの注文も可能なのだ。このキャビアのピッツァ、生地にはゴルゴンゾーラがたっぷりと使われているのだが、なんとオシェトラ・キャビアが一缶まるまる添えられている。これをテーブルで各自がピッツァにトッピングして食べるという、すごい料理なのだ。それでは、と白蝶貝のスプーンでキャビアをすくい、ピッツァに乗せて一口。ゴルゴンゾーラとキャビアという二種類の異なる塩味がまざりあい、喉を潤すカクテルが無性に欲しくなる。

極厚のビフカツを挟んだ「和牛サンド」と、伊勢海老を使った「ロブスターロール」
極厚のビフカツを挟んだ「和牛サンド」と、伊勢海老を使った「ロブスターロール」

フードメニューが充実している「ヴェルテュ」のもう一つの名物は和牛のビフカツを贅沢にはさんだ「和牛サンドイッチ」だ。パンの三倍はあろうかという厚切りビフカツは、外側は香ばしく揚がっているが芯はレア。これにマスタードを塗っていただく。伊勢海老をパンブリオッシュにたっぷり詰めてホットドッグにした「ロブスターロール」もまたゴージャス・フィンガーフードとしてオンメニューしている。

オールドファッションドで登場したのは甘口の食後酒「チョコレート・ココロ」トッピングはなんとレモンスライスではなく椎茸スライスだ。
オールドファッションドで登場したのは甘口の食後酒「チョコレート・ココロ」トッピングはなんとレモンスライスではなく椎茸スライスだ。

最後にもう一杯だけ、とジョシュアに所望すると「ではデザート代わりになる甘めでやや強いカクテルをお出ししましょう」と流暢な日本語で答えてくれた。すると登場したのはオールドファッションド・グラスに椎茸スライスをトッピングした「チョコレート・ココロ」。これはアイジド・ラム、スイート・ヴェルモット、チナール、カカオ・クリーム、塩、そしてウマミビターズを加えてあり、確かに和風の旨味を強く感じる。いうならば和風チョコレート・カクテルという味わいだろうか。塩も入っているので締めのスープ兼デザートといった余韻がとても心地よい。

こちらはシングルモルトにベネディクトDOMなどを加えたウイスキーカクテル「スペイサイド」。ディナーの後を締めくくるのに最適。

まだコロナで自由に海外旅行ができない現在、「ヴェルテュ」では世界中のバーとそのシグネチャーカクテルを紹介し、カクテルでバーチャル旅行を楽しむ「トラベル・バイ・カクテル」も提案している。また、今時の寒い時期には時代を超えてフランスで愛されているエッグノック「レ・ドゥ・プル」や冬の定番であるホットワイン「ヴァンショー」といった心も体も温まるカクテルも作ってくれるので、これも楽しみだ。ミクソロジーなんて難しそう、という人はぜひ一度ジョシュアのホスピタリティあふれるフレンチ・カクテルを体験して見てはいかがだろうか。

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この記事の執筆者
1998年よりフィレンツェ在住、イタリア国立ジャーナリスト協会会員。旅、料理、ワインの取材、撮影を多く手がけ「シチリア美食の王国へ」「ローマ美食散歩」「フィレンツェ美食散歩」など著書多数。イタリアで行われた「ジロトンノ」「クスクスフェスタ」などの国際イタリア料理コンテストで日本人として初めて審査員を務める。2017年5月、日本におけるイタリア食文化発展に貢献した「レポーター・デル・グスト賞」受賞。イタリアを味わうWEBマガジン「サポリタ」主宰。2017年11月には「世界一のレストラン、オステリア・フランチェスカーナ」を刊行。