噂のプロセッコ・ロゼがついに登場

プロッセコDOC協会から届いた新作、プロセッコ・ロゼ。プロセッコが本来持つ青リンゴのニュアンスに加えてピノ・ネロのふくよかさがとても心地よい。
プロッセコDOC協会から届いた新作、プロセッコ・ロゼ。プロセッコが本来持つ青リンゴのニュアンスに加えてピノ・ネロのふくよかさがとても心地よい。

プロセッコとは北イタリア、ヴェネト州とフリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州の一部で作られている発泡性白ワインのことだ。その歴史は古く、古代ローマ時代にはすでに「博物誌」でプリニウスがこの地方のプロセッコについて言及している。しかしその頃のワインは現在の清涼な発泡性ワインとは違いぶどうを干して糖度をあげた後アルコールを加えてキュ制強化した甘口ワイン。古代ローマのひとびとはそうした甘口ワインを時には水で割ったりしながら食前酒、あるいは食中酒として楽しんでいたのだと思われる。

プロセッコが現在知られるような発泡性になったのは19世紀末と、イタリアワインの歴史的にはかなり最近のこと。ブドウの絞り汁をアルコール発酵させワインにしたあと、ステンレスタンクに移して酵母と糖分を加えて二次発酵。そこから生まれるいきいきとした元気な泡と清涼な飲み心地が最大の特徴だ。

世界的にはこういったシステムは考案者であるフランス人ユージン・シャルマーの名をとって「シャルマー方式」と呼ばれるが、イタリアではシャルマーに先駆けて特許を取得したイタリア人フェデリコ・マルティノッティの名を取って「マルティノッティ方式=メトド・マルティノッティ」と呼ばれることの方が多い。

このあたりは実にイタリア人らしいこだわり。マルティノッティ方式が生まれる以前の発泡性ワインの作り方であるシャンパーニュ方式も「メトド・シャンペノワーズ」ということもあるが、大抵は「伝統方式=メトド・クラッシコ」とあえてフランス語を使わないことも多いのだ。

穏やかな平野が続くプロセッコDOCの生産地

プロセッコDOCの生産地は穏やかな平野が続き、のんびりとした風景。地元の人々もプロセッコをじつによく愛飲している。
プロセッコDOCの生産地は穏やかな平野が続き、のんびりとした風景。地元の人々もプロセッコをじつによく愛飲している。

「マルティノッティ方式」の特徴は、初期投資はかかるがその後の大量生産を可能にした点にあり、以後100年少々の間にプロセッコは年間4億本を生産するまでに成長したのである。プロセッコに使用されるブドウ品種はメインとなる白ぶどうグレーラで、青リンゴのようなフレッシュな果実味が特徴。補助品種にはシャルドネの他グレラ・ルンガ、ヴェルディゾ、ペレラ、ビアンケッタそして黒ぶどう品種のピノ・ネロがあるが、今回史上初めて正式にリリースされた「プロセッコ・ロゼ」はピノ・ノワール最大15%まで使用してロゼ・スパークリングにしたものだ。これは世界的なロゼ・スパークリング人気を意識してのこと。女性や若者を対象に効果ではなく、カジュアル・プライスのスパークリングワインを日常的に楽しんでもらいたいとの戦略からだ。

「うーん、美味しいわね」とグラスを傾けるのはプロセッコDOC協会のターニャ女史。一緒にプロセッコ・ロゼを飲める日が待ち遠しい。
「うーん、美味しいわね」とグラスを傾けるのはプロセッコDOC協会のターニャ女史。一緒にプロセッコ・ロゼを飲める日が待ち遠しい。

ところが地元ヴェネト州のプロセッコ生産者たちでも「ロゼなんてプロセッコじゃない」と強硬に反対する声もあるのが現状。というのも少々ややこしい話だがプロセッコにはDOCとDOCGという組合が存在しロゼ作りが許されているのはプロセッコDOCのみなのだ。DOCGが生産されるのは世界遺産にも認定されたコネリアーノとヴァルドッビアーデネの丘陵地帯で、美しい段々畑が連なる風景はなんともイタリアらしい美しさにあふれている。一方DOCはというとヴェネト平野に位置していることから生産量も多く、DOCGのほぼ2倍。そして近隣同士にはよくあることだがDOCとDOCGはお互いに仲良く共存共栄を目指す、とはなかなかいかないようだ。

それはともかく、噂の新作がプロセッコDOC協会から送られて来たので早速イタリアで試してみた。プロセッコDOC協会オリジナル・ボトルはあくまでもサンプル的意味合いが強いのだがなかなかどうして、白もロゼも非常に高品質。生産者名こそ非公表だが、もし見かける機会があればぜひ試して見てほしい。

グレーラが持つ上品な青リンゴの香りはプRソッコならでは。それに加えてピノ・ネロが醸し出すふくよかさと果実味、赤いリンゴのニュアンスがとても心地よい。ほのかな苦味と上品な酸は食前酒はもとより、食中酒として1本飲み切ってしまいそうなほど存在感があった。イタリアのスパークリング・ロゼ・ワインならば、メトド・クラッシコ、シャルドネ&ピノ・ネロで作るフランチャコルタもいいけれど、グレーラとピノ・ネロで作るプロセッコ・ロゼもカジュアルに楽しみたい気分の時にはぴったりだ。

そう遠くない、桜咲く春先あたりに選ぶ一本として戸外に持ち出してサンデー・ブランチなんていうシチュエーションにもいいかもしれない。それにはなによりコロナがおさまることが大前提だが、家飲みでももちろん美味しく楽しめるプロセッコ・ロゼに2021年は注目したい。

かねてから話題となっていたプロセッコDOCロゼの販売が2021年1月1日より始まる。従来プロセッコDOCエリアでもロゼワインは作られていたのだがプロセッコDOCロゼとは名乗れず、イタリアン・ロゼあるいはスプマンテ・ロゼと呼ばれていたのだが、プロセッコDOC生産者協会は世界的ニーズに応える意味でも新名称の使用をEUに申請。2020年5月ようやく認可が下り、2019年の収穫分から正式にプロセッコDOCロゼとして販売が可能になり、まずは27社が生産した2000万本がイギリス、アメリカ、北欧で発売になる。

従来のプロセッコDOCの規定では、白ぶどうグレーラ Gleraは最低85%、ピノ・ネロ含むその他の品種は15%まで使用が認められていたのだが、今回のプロセッコDOCロゼの規定ではグレーラ85%は同じく、残りの15%はピノ・ネロのみ使用することが義務付けられたのだ。

しかし年間4億本を生産するプロセッコDOCにとって新たな変革は、内部外部を問わず問題視する声が多かったことも事実。伝統主義者からして見れば「プロセッコ・ロゼなんてプロセッコではない」あるいは「なぜヴェネトの土着品種ラボーゾ Rabosoではなく国際品種ピノ・ネロを使用するのか?」という声もあった。ピノ・ネロ論争に関しては国際品種ではなく、伝統的にヴェネトでは昔から生産されているので問題ないという声も多い。事実1873年ウイーン万博にはすでにヴェネトのピノ・ネロが出品されていたのだ。

この記事の執筆者
1998年よりフィレンツェ在住、イタリア国立ジャーナリスト協会会員。旅、料理、ワインの取材、撮影を多く手がけ「シチリア美食の王国へ」「ローマ美食散歩」「フィレンツェ美食散歩」など著書多数。イタリアで行われた「ジロトンノ」「クスクスフェスタ」などの国際イタリア料理コンテストで日本人として初めて審査員を務める。2017年5月、日本におけるイタリア食文化発展に貢献した「レポーター・デル・グスト賞」受賞。イタリアを味わうWEBマガジン「サポリタ」主宰。2017年11月には「世界一のレストラン、オステリア・フランチェスカーナ」を刊行。