雑誌『Precious』3月号では特集「おしゃれの常識を変えたあの人の「掟破りの美学」」を展開中。本記事では映画評論家立田敦子さんが、女優のダイアン・キートンについてご紹介します。
メンズ服を最旬のおしゃれにルールにとらわれず好きを極めるエレガンス
映画『アニー・ホール』のダイアン・キートンの装いは、40年あまりの時を経ても、大人の女性のマニッシュなおしゃれのお手本。彼女自身がルールを意に介さず、自由に選び、着こなしたスタイルが女性たちの心をつかみ、おしゃれの幅を広げたのだ。そんな彼女は70代になった今もかっこいい!
グラマラスな女優たちが次々に時代を作るハリウッドにおいて、伝説的なファッション・アイコンといえば、ダイアン・キートンである。
彼女のファッションが最初に注目されたのは、1977年のウディ・アレン監督による『アニー・ホール』だ。ニューヨークを舞台にしたセンチメンタルなラブストーリーは、アカデミー賞でも作品賞や主演女4部門で受賞するなど高く評価されたが、映画中でのキートンのファッションは、’70年代を代表するファッションとして世界中で大ブレイクした。
大きめのメンズシャツにたっぷりしたパンツ、ベストとネクタイに代表される無造作なマスキュラン・ファッションは、いまではダイアン・キートンスタイルとして殿堂入りしているといってもいい。
実は、この映画でのキートンの衣裳は、キートン自身のスタイルに由来している。’70年代前半には私生活でも一時パートナーだったアレンとキートンだが、別れても友情と信頼関係は健在で、『アニー・ホール』でも恋人同士を演じた。
キートンがちょっと風変わりで個性的なファッションを愛していることを知るウディが、衣裳担当に「彼女の好きなものを着させておけ」と言ったというが、実際に、撮影では主にラルフ・ローレンのメンズのアイテムとキートンの私物が使用された。
決まりきったルールに縛られるのは好きじゃない、という彼女のスタイルのポイントは、ミスマッチだ。メンズのアイテムを着こなすだけではなく、フェミニンなドレスにはハードなブーツを合わせたり、と必ず「掟」には従わないのがキートン流。
また、流行に流されず、自分に似合う、あるいは自分が好きな定番を愛し続ける。メンズシャツやボーダーのカットソー、タートルネックセーター、ワイドパンツ、ブーツ、メンズの中折帽子かベレー帽といったアイテムは、彼女の定番中の定番である。
ちなみに、アカデミー賞などのレッドカーペットでもそのスタイルにブレはない。他の女優たちが、一流ブランドの流行のドレスで華やかさを競い合うなか、常にジャケットやパンツ、ハットなどのマニッシュなファッションで闊歩することは、勇気ある行動ともいえるだろう。
ファッションが、着る人の人となりを表現する手段であるとするならば、自由や独創性、自分らしさを体現するキートンのスタイルが女性たちに憧れられ、愛されるのは納得である。
驚くべきは、そんなキートンのスタイルは、50年後のいまもって古さを感じさせないことだ。今年で75歳のキートンは女優としても第一線で活躍しているが、最新主演作『また、あなたとブッククラブで』でも、キートンらしいファッションの魅力を余すことなく披露している。自分のスタイルをもつことの美しさ、大切さを身をもって示す頼もしい大先輩だ。
関連記事
- タブーをスタイルに変えた、ガブリエル・シャネル「掟破りの美学」【エッセイスト・光野 桃さん寄稿】
- フィンランド史上最年少首相サンナ・マリン氏流おしゃれの「掟破りの美学」とは?【服飾史家・中野香織さん寄稿】
- PHOTO :
- Getty Images
- WRITING :
- 立田敦子
- EDIT&WRITING :
- 藤田由美、遠藤智子(Precious)