雑誌『Precious』3月号では特集「おしゃれの常識を変えたあの人の「掟破りの美学」」を展開中。本記事では映画評論家立田敦子さんが、女優のダイアン・キートンについてご紹介します。

立田 敦子さん
映画評論家
(たつた あつこ)ファッションにも通じる映画ジャーナリストとして『VOGUE JAPAN』『FIGARO JAPON』ほか多くの媒体に寄稿。『エル・オンライン』でコラム「セレブBUZZ」を連載。著書に『どっちのスター・ウォーズ』『おしゃれも人生も映画から(共著)』(共に中央公論新社)など。映画やドラマなどを中心とするエンタメサイトFan’s Voice主宰。

メンズ服を最旬のおしゃれにルールにとらわれず好きを極めるエレガンス

映画『アニー・ホール』のダイアン・キートンの装いは、40年あまりの時を経ても、大人の女性のマニッシュなおしゃれのお手本。彼女自身がルールを意に介さず、自由に選び、着こなしたスタイルが女性たちの心をつかみ、おしゃれの幅を広げたのだ。そんな彼女は70代になった今もかっこいい!

ラルフ・ローレンのメンズ服を、さりげなく自分のものにしてしまうセンスで一躍有名になった映画『アニー・ホール』のワンシーン。1946年、米・ロサンゼルス出身で、ニューヨークで舞台女優のキャリアを積み、1970年に映画デビュー。女優のほか監督や脚本も手がける多才ぶりで輝いて。 ©️Getty Images
ラルフ・ローレンのメンズ服を、さりげなく自分のものにしてしまうセンスで一躍有名になった映画『アニー・ホール』のワンシーン。1946年、米・ロサンゼルス出身で、ニューヨークで舞台女優のキャリアを積み、1970年に映画デビュー。女優のほか監督や脚本も手がける多才ぶりで輝いて。 ©️Getty Images

グラマラスな女優たちが次々に時代を作るハリウッドにおいて、伝説的なファッション・アイコンといえば、ダイアン・キートンである。

彼女のファッションが最初に注目されたのは、1977年のウディ・アレン監督による『アニー・ホール』だ。ニューヨークを舞台にしたセンチメンタルなラブストーリーは、アカデミー賞でも作品賞や主演女4部門で受賞するなど高く評価されたが、映画中でのキートンのファッションは、’70年代を代表するファッションとして世界中で大ブレイクした。

大きめのメンズシャツにたっぷりしたパンツ、ベストとネクタイに代表される無造作なマスキュラン・ファッションは、いまではダイアン・キートンスタイルとして殿堂入りしているといってもいい。

実は、この映画でのキートンの衣裳は、キートン自身のスタイルに由来している。’70年代前半には私生活でも一時パートナーだったアレンとキートンだが、別れても友情と信頼関係は健在で、『アニー・ホール』でも恋人同士を演じた。

キートンがちょっと風変わりで個性的なファッションを愛していることを知るウディが、衣裳担当に「彼女の好きなものを着させておけ」と言ったというが、実際に、撮影では主にラルフ・ローレンのメンズのアイテムとキートンの私物が使用された。

決まりきったルールに縛られるのは好きじゃない、という彼女のスタイルのポイントは、ミスマッチだ。メンズのアイテムを着こなすだけではなく、フェミニンなドレスにはハードなブーツを合わせたり、と必ず「掟」には従わないのがキートン流。

また、流行に流されず、自分に似合う、あるいは自分が好きな定番を愛し続ける。メンズシャツやボーダーのカットソー、タートルネックセーター、ワイドパンツ、ブーツ、メンズの中折帽子かベレー帽といったアイテムは、彼女の定番中の定番である。

ちなみに、アカデミー賞などのレッドカーペットでもそのスタイルにブレはない。他の女優たちが、一流ブランドの流行のドレスで華やかさを競い合うなか、常にジャケットやパンツ、ハットなどのマニッシュなファッションで闊歩することは、勇気ある行動ともいえるだろう。

2003年公開の映画『恋愛適齢期』では、知的な劇作家という役どころ。カジュアルシーンの上品なオフ白コーディネートが似合っていた。 ©️Getty Images
2003年公開の映画『恋愛適齢期』では、知的な劇作家という役どころ。カジュアルシーンの上品なオフ白コーディネートが似合っていた。 ©️Getty Images

ファッションが、着る人の人となりを表現する手段であるとするならば、自由や独創性、自分らしさを体現するキートンのスタイルが女性たちに憧れられ、愛されるのは納得である。

驚くべきは、そんなキートンのスタイルは、50年後のいまもって古さを感じさせないことだ。今年で75歳のキートンは女優としても第一線で活躍しているが、最新主演作『また、あなたとブッククラブで』でも、キートンらしいファッションの魅力を余すことなく披露している。自分のスタイルをもつことの美しさ、大切さを身をもって示す頼もしい大先輩だ。

現在上映中の映画『また、あなたとブッククラブで』では、ボーダーTシャツに白パンツという王道カジュアルを自分らしく着こなして。 ©2018 BOOKCLUB FOR CATS, LLC
現在上映中の映画『また、あなたとブッククラブで』では、ボーダーTシャツに白パンツという王道カジュアルを自分らしく着こなして。 ©2018 BOOKCLUB FOR CATS, LLC

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PHOTO :
Getty Images
WRITING :
立田敦子
EDIT&WRITING :
藤田由美、遠藤智子(Precious)
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