子育てでも人材育成においても、最近は「ほめて育てよ」と盛んにいわれますよね。しかし、ほめるばかりで本当に人を育てることはできるのでしょうか? 同じミスを繰り返す部下、仕事への姿勢が怠慢な部下に対しては、ただほめるだけでなく、毅然とした態度で叱ることも欠かせません。それが、本人のためにも組織のためにもプラスとなるはずです。

とはいえ、「どう叱ればいいのかわからない」「部下を傷つけてやる気を失わせるのではないか」など、叱るという行為に苦手意識をもっている人が多いのでは? そこで、『「上に立つ人」の仕事のルール』の著者、嶋田有孝氏から“下手な叱り方と上手な叱り方”の違いについて教えていただきました。

■1:下手な人は相手の顔色を見て叱る、上手な人は目的を持って叱る

叱るときは目的が重要

一般論として、女性は男性よりも相手の感情を読み取ることが上手で、まわりとうまく協調していく能力が高い傾向があります。これは、女性の優れた点ともいえるのですが、ただ叱るという点においては、その長所が裏目に出てしまうおそれが……。

叱り下手な女性は、相手の感情に敏感すぎて、「相手を傷つけてはいけない」と優しく配慮するあまり、叱ることをためらってしまうのです。ミスを犯した部下に厳しい言葉を投げかけようとしても、相手のちょっとした表情の変化を察知すると、「あまりきつく言い過ぎないようにしよう」とつい言葉を引っ込めてしまうようなところがあります。

このように、相手を思いやりすぎて叱るのが苦手だという女性は、まずは叱る目的を正しく理解しましょう。叱る目的は、相手を罰したり、謝罪させたりすることではありません。相手のできていない部分を指摘することによって、相手によりよく変わってもらうことが目的なのであって、叱ることは本来、相手にとってプラスの行為なのです。

また、「叱って育てるべきか? ほめて育てるか?」というように、叱るとほめるはよく二元論で語られますが、このふたつの行為の根本は同じ。どちらも部下の仕事ぶりを見つめ、彼らを成長させるために、上司としてフィードバックをすること。両者は表裏一体のものだといえます。

わが子の喜ぶ顔が見たいからといって、子どもに甘いおやつばかり与える母親はいないでしょう。部下を育てるのもそれと同じです。「叱ることは部下を傷つけるマイナス行為だ」という認識を改め、「叱ることは部下に対する改善提案なのだ」と肝に銘じ、叱る際に相手の感情を過度に忖度(そんたく)しないようにしましょう。

■2:下手な人は減点主義で叱る、上手な人は加点主義で叱る

優秀な人ほど、部下の至らない点があれこれ目について、「ここもダメ」「あそこもできていない」と、百点満点からどんどん点数を引いていくような叱り方に陥りがちかもしれません。しかし、このような減点主義の叱り方では、部下は自信と意欲をしだいに失うばかりで、上司の言葉を受け入れることができないでしょう。

前述のように、叱ることの目的は部下を罰することではなく、部下によりよく変わってもらうこと。叱るという行為は、部下に対する改善提案なのです。ですから、百点満点からできていない部分にバツをつけて減点していくのではなく、今が60点なら65点に引き上げていくという、加点主義の発想で叱るようにしましょう。

たとえば、「ここがダメだ」「ここができてない」という言い方ではなく、「ここを直せばもっとよくなる」「この部分を改善したら完璧」というようにアドバイスする。このように、肯定的な叱り方であれば、部下にとって受け入れやすく、叱ることの目的にかなっているでしょう。

■3:下手な人は過去を見て叱る、上手な人は未来を向いて叱る

叱るときは未来を向くことが重要

部下のミスを発見したとき、「なぜこんなことをしたの?」「何回、同じことを言わせるの?」と口にしていないでしょうか? このように過去を見て責任追及する叱り方では、部下の心に響きません。人は誰しも責められると自分を守ろうとして、殻に閉じこもってしまうからです。

もちろん、部下に反省させることは大切ですが、すでに終わってしまったことは今さら変えようがありません。だからミスしたことを責めるのはやめましょう。それよりも、「次回いかに同じミスをしないか」という未来に目を向けるのです。

そうすれば、「今度、ここを直して、こういうふうに変われば、あなたはよりよいビジネスパーソンになれるんだ」と問題解決型で叱ることができます。未来を見て、「これは通過点である。ここから学んで糧にしよう」と励ますように叱りましょう。

■4:下手な人は人物を否定して叱る、上手な人は仕事のプロセスに目を向けて叱る

もうひとつ下手な叱り方の典型例は、「あなたはなぜこんなこともできないの?」のように、人物を否定するような言い方です。このようにYouを主語にした叱り方では、相手は厳しく非難されているように感じて、ただその場をやりすごすことばかり考えてしまうことになりかねません。

たとえば、部下が指示した仕事を忘れたとします。この場合、「(あなたは)なぜそんなに忘れっぽいの?」「こんなミスをするなんて、一体なにを考えているの?」など、相手を否定する叱り方では、部下から謝罪の言葉を引き出すことはできても、おそらく同じミスの再発は防げないでしょう。

そして、「何回同じことを言わせるの?」「すみません」という不毛なやりとりを繰り返す……。上司と部下の間で感情的なしこりが大きくなっていくばかりです。こうした負のループから脱却するためには、Youを主語にするのではなく、仕事のプロセスに目を向けましょう。「あなたは~?」ではなく、「ミスが起こった原因は~?」と主語を変えるだけで、相手の受け取る印象はかなり変わります。

そして、前項の未来を向いて叱るを加えれば、部下の犯したミスを成長へのきっかけへと変えることができるのです。指示した仕事を忘れた原因が、メモを取っていなかったことであれば、日々の仕事のなかでメモを取る習慣をつける。

メモを取っても見返していなければ、メモを確認する習慣をつける。ただ、相手を糾弾して謝罪を引き出して終わりにするのではなく、仕事のプロセスにメスを入れることを心がけましょう。

■5:下手な人は長々と叱る、上手な人は3分で切り上げる

叱るときは短く済ませることが重要

一般的に、女性は男性よりもコミュニケーション能力が高く、一度話し出すと次々とスムーズに言葉が出てくる傾向があります。おそらく、女性のほうが話しながら情報や感情を整理するのが得意なのでしょう。

しかし、こと叱るという行為においては、この優れたコミュニケーション能力をまちがった方向に発揮しないように要注意です。時間をかければかけるほど、本来の趣旨とは関係ないことまで話してしまい、焦点がぼやけてしまいます。

もちろん、女性が女性を叱る場合は、ある程度時間をかけて情緒に訴えかけるほうが有効なこともあるかもしれません。しかし、男性に対しては、時間をかけることは完全に逆効果です。

男性を叱る際には、何を伝えたいのか主題をひとつに絞り、3分以内に切り上げること。3分を超過すると、部下の緊張感は途絶え、反省よりも長く叱られることに対する不満のほうが上回っていきます。男性は”ウルトラマン”なのだと心得ておきましょう。

何度もお伝えしているとおり、叱ることの目的は部下を成長させることで、叱るという行為は部下をよくするための改善提案です。まずはそのことを正しく理解して、部下に本気で成長してほしいという熱い気持ちを持つことが、叱り上手になる第一歩なのではないでしょうか?

PROFILE
嶋田有孝(しまだ ありたか)さん
昭和41年生まれ。大阪府出身。平成元年、同志社大学法学部卒業後、株式会社日経サービス入社。社長室長、総務部長、営業本部長等を歴任。現在、同社代表取締役社長。著書に、『仕事のプロが新人のために書いた仕事の本』(明日香出版社)、『リーダーシップが身につく本』『20代で読んでおきたい成功の教科書』『ビシッと言っても部下がついてくる できる上司の叱り方』(以上、PHP研究所)などがある。最新刊は『苦労して成功した中小企業のオヤジが新人のボクに教えてくれた 「上に立つ人」の仕事のルール』(日本実業出版社)。
苦労して成功した中小企業のオヤジが新人のボクに教えてくれた 「上に立つ人」の仕事のルール
この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
中田綾美