人は誰しも、何かに対して「嫌い」という感情を持っているもの。脳科学者・中野信子さんによると、何かを「嫌う」時、そこには非常に大きなエネルギーが生まれているのだそう。
そのエネルギー、せっかくなら自分のために使いたい!第1回、第2回の記事では、中野さんに「嫌い」という感情に自分自身が向き合うためのアイディアを、第3回は「嫌い」という感情を相手に上手に伝える方法を伺いました。
今回は、「嫌い」という気持ちを相手にぶつけてしまいそうになった時、そして自分自身が「嫌い」という気持ちを向けられた時の対処法を伺います。
ちょっと上の世代の男性とぶつかってしまった時は…
——相手に嫌なことを言われた時にカッとなって、「嫌い」の感情をぶつけてしまいそうになることもあるのですが、そういう場合はどうしたらよいのでしょうか。
前回お伝えしたように、「嫌い」の感情を上手に伝える方法を工夫し、実践してみてほしいと思いますが、なかなかすぐには難しいですよね。うまくやろうと意気込みすぎて、結局ヒートアップしてしまい、残念な結果に……なんていうことも無きにしも非ずです。
伝え方の加減がよくわからないうちに頑張ろうと無理をしてしまうと、自分のためにもなりませんし、相手も不当に傷つけられたと怒り心頭で、さらに攻撃を加えられてしまいかねないという悪循環になってしまいかねません。
私を含めPrecious世代の女性は、特に自分たちよりもちょっと上の世代の男性とぶつかることが多いのではないでしょうか。根深い価値観の違いは、その人自身に面と向かって何かを言ったところで埋まらないことも多い。
私自身、そういう男性から「奥さんがこんなに活躍していて、旦那さんがかわいそうですね」って、面と向かって言われることも結構あるんですよ。
——ひどいですね…そういうことを言われた時に、中野さんはどうされているのですか?
こういう時は、「今のは、聞かなかったことにしておいてあげますね?」といってニヤリと笑うなど、即座に軽くたしなめた方がいい場合が多いのですが、その人と二度と会わないことが分かっていて面倒な時には何も言わずにネタとしてだけ使わせてもらうのも得策です。
「名前は言いませんが、こういうことを言う人がいたんですよね」と私も何度もこのエピソードを話のネタにして、仕事につなげさせてもらいました。本人は遠くから苦い思いをされているかもしれませんが、名乗り出るのはかなり勇気がいることでしょうね。
また、周りに話の通じる人たちを作っておくことも大切です。特に年齢と成功体験を重ねて来られた方には、急激に価値観の変更を迫ることが酷な場合もありますから、少しずつ周りから話を通して「今はそういうことを口にすると気にする人も少なくないので、あなた自身が損をしますよ」ということを知ってもらうのが早道でしょう。
直言するよりもまずは「こういうこと言って失敗した人がいたんですよね」とエピソードトークとして話してみるなど、伝え方も工夫してみるといいと思います。相手の捉え方を全否定するのがあなたの目的ではないはずです。「こちらの思う通りに動いてもらうにはどうすればよいか」を念頭に置いて会話を組み立ててみましょう。
自分を攻撃してくる人に、アドバイスを求める!?
——例えば、嫌なことを言ってくる人が、同じ職場のように距離の近い人だった場合、すぐに使えるテクニックはありますか?
まず大切なのは、なぜその人は自分を攻撃してくるのかを考えること。もし、相手が何らかの「大義名分」を持っている場合、直接相手にアドバイスを求めるという方法があります。
もし相手が「仕事が遅いと言って、文句を言う」「態度が反抗的だと決めつけて叱責する」「男に媚びへつらう態度が気に入らないと難癖をつける」というように、何か理由をつけて攻撃してくる場合、直接その相手に「どうしたらよくなるでしょうか」と相談してみるのも手です。
人間には誰しも「自分は正しい」と思いたい欲求があります。私たちの脳には自分の行動を監視する回路があり、自分の行動が正しくないと不快を感じるようになっている一方で、誰かから感謝されたり、褒められたりといった「社会的報酬」を得ると、快感を覚えるという性質があります。
そこを逆手に取り、あえて下手にでて、相手の承認欲求をくすぐってやるのです。相手が「自分のアドバイスが役に立った。自分は正しいことをした」という快感を味わい、調子に乗ってくれればこちらのもの。
今度は、無条件に承認欲求を満たすのでなく、ある割合で”塩対応”を混ぜるのです。すると、相手は思ったようにこちらから承認されるという快感が得られず、その理由を考え始め、そのことで頭がいっぱいになっていきます。そうなれば、相手はこちらを攻撃するどころか、顔色を窺ってくるようになります。
難しいインターネットとの付き合い方
——SNSのお話が出ましたが、炎上や誹謗中傷が問題になるなど、最近インターネットとの付き合い方が難しくなっているように感じます。
そうですね。例えば検索エンジンは、自分の求めている情報に紐付いたものから提案するように設計されています。SNSも結局は自分と近い人から繋がるようにできていますし、自分の求めている以外の情報が入ってこなくなるという弱点があります。
つまり、ネットの情報は多様なように見えますが、自分に入ってくる情報はものすごく一元的なものだ、と考えておいたほうがよいでしょう。いわば情報の”繭の中”にいるようなものです。
その繭を出るための良い場所として、書店に行くことを勧めたいと思っています。書店には、自分が探し求めていた本とは違うものも大量に置かれています。タイトルや、著者さえ知らなかった書籍でも、表紙のデザインが気になって買ってみたら面白かった――そんな些細なことでぐっと世界が広がる可能性に満ちています。
残念ながら、ネットではまだこうした仮想空間を実現するには時間がかかりそうですね。活字文化に触れている人と、ネットの文字文化に触れている人とでは見ている世界がかなり違うでしょう。判断基準にも差がついていくのではないかと思います。
書店によく行く人は、自分が知らない世界に触れることを楽しみにしている。雑誌の良さも、読みたいものだけが読めるというのでなく、自分にまだ知らないことがあるというのを教えてくれる、そういうところに価値があるのではないかと思います。
次回は、「田中みな実さんに学ぶ妬み回避テク」をテーマにお届け致します。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部