ヴィンテージ×コンテンポラリー分け隔てない眼差しが新しい組み合わせを生む|西口修平

このスタイリングで西口さんがキーアイテムとしたのは、プライベートでも愛用するエンツォ ボナフェのビットローファー。カジュアルなイメージのある靴だが、西口さんはこれをナポリのハンドメイドスーツと合わせた。「いつも心掛けているのは足し引きゼロのバランス。色柄だけでなく、デザインやテイストにおいても足し引きゼロを意識しています。軽やかな靴と、クラシックなナポリスーツ。ビットの主張と、抑えたモノトーン。シンプルなニットと、華のあるアスコットタイ。こういったバランスのとり方ですね。無粋に見えず、でも主張はしない。男の服装はそれくらいが理想だと思います」

カルーゾのジャケットに、ベルナール ザンスのパンツ。どちらも今をときめくブランドだが、ここに ポロ ラルフ ローレンの’90年代製ヴィンテージコートを合わせるのが西口さんらしい。「実は私のなかで、ヴィンテージと今の服を意識的にミックスしているという感覚はありません。むしろ、古いものと新しいものをフラットに見ているのだと思います。このコートも、あえてヴィンテージを選んだのではなく、極薄の生地とたっぷりしたシルエットが春の優雅を演出するのにぴったりだと思ったから。ですが結果として、今の服の現代性が引き立っていると思います。ここもヴィンテージ服のおもしろさですね」

イタリア製のライダーズにフレンチボーダーT、ヴィンテージの米軍チノに英国のベルジャンシューズ。一見シンプルに見えて、実に多国籍な装いだ。「かつてはイタリアっぽさ、イギリスっぽさなど、国ごとのステレオタイプ的イメージがあり、それに基づき装う習慣がありました。しかし今はそうした固定観念から解放された時代。私も現代を生きる男として、世界基準で装うことを大切にしています。もちろん無節操ではダメで、自分なりの軸も必要。私にとってはクラシックがそれにあたります。軸さえぶれなければ、国籍にとらわれなくても自然に装いがまとまるものなのです」
大切なのは、現代の装いに仕上げること
今や日本を代表するウェルドレッサーのひとりとして、世界的な知名度を誇る西口修平さん。そのスタイルの原点はどこにあるのだろうか。西口さんが自らのファッション遍歴を振り返ると、目覚めは小学校6年から中学校に入りたての頃だったという。
「ちょうど女の子を意識しはじめた時期だった」と彼は語るが、お洒落のモチベーションとなったのは着飾りたいという欲求ではなかった。「私にとってファッションの原体験はジーンズでした。当時は国産のスリムジーンズをはいていたのですが、アメ村(大阪屈指の古着街)で働く兄をもつ友達がはいていたジーンズは少し違って見えた。
『それどこの?』と訊いたら、『リーバイス〞の「501」っていうんだ』との答え。気になって調べてみたら、すべてのジーンズの起源となったアイテムだとわかり、同時にジーンズのスタイルアイコンであるジェームズ・ディーンなどの存在も知りました。なので、私にとっては知りたいという欲求がファッションの原点になったと思いますね」
中学、高校時代にはヴィンテージブームが加熱したこともあり、大学卒業後は古着店で働くほどのめり込んでいった西口さん。一方、雑誌の特集をきっかけにクラシックにも興味を覚え、名品と呼ばれるものを少しずつ買い集めていったという。「ビームス」に入社したあとはドレスクロージングの販売担当として知識とセンスを磨き、2011年にバイイング担当へ抜擢された。それから10年目を迎える今、かつての自分と比べてファッションとの向き合い方に変化が生まれてきたことを感じるという。「あくまで個人的な志向の話ですが、昔に比べて新しいものをやみくもに追いかけたり、人の評判を気にしたりしなくなりました。たくさん失敗もして、無理をしないことを学びました。それからべき論にもとらわれなくなりました。世の中の変化もあります。『ビームス』でも昔は古着を着て店頭に立ってはいけないといったルールがありましたが、今はそれもなくなりました。もちろん紳士服の基本的なセオリーは知っておくに越したことはありませんが、それらを理解して、ときにはあえて定石とは違う合わせ方をする。そんな試みが自分らしさにつながり、いわゆるツイストの効いた装いを生むのだと思います」
そんななかで見えてきた変わらないもの、つまり西口修平スタイルのエッセンスとは。「ヴィンテージ、クラシック、コンテンポラリーに分け隔てなく接し、それらをフラットな感覚で合わせること。オーダーメイドのジャケットに、古着のミリタリーパンツを合わせるのも、私にとってはハズシやミックスではなく、両者をフラットに見た結果です。そして、たとえ全身古着だとしても、あくまで現代の装いにまとめることを大切にしています。古いものや文化に憧れはあっても、我々は現代を生きる人間。そのことを忘れてしまうと、懐古主義に陥ってどこか浮いた存在になってしまいます。最後に、だれかの真似をしないこと。影響を受けるウェルドレッサーは古今東西にたくさんいますが、彼らのコピーはしません。インスピレーションを自分なりに消化して楽しみたい。そんな想いのもとで日々、試行錯誤しています」
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2021年春号より
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- PHOTO :
- 川田有二
- STYLIST :
- 櫻井賢之
- HAIR MAKE :
- 宇津木 剛(PARKS)
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- Daisuke