過日、六本木のリッツ・カールトンで行われた「トレ・ベッキエーリ特別試飲会」に集まったのは、事前に招待された一部イタリア・ワイン関係者のみ。本来は毎年10月に多くの人を招いて大々的に開催されていたのだが昨年の試飲会はコロナで中止。今回人数を大幅に絞っての試飲会がようやく実現したのだ。それはイタリアワイン愛好家にとっても待ちに待った嬉しいニュースだったに違いない。
ガンベロ・ロッソの超絶ワインが日本に上陸
今回イタリアからビデオで登場したのは「ヴィーニ・ディタリア」編集長のマルコ・サベリコ氏。本来ならば毎年イタリアから本誌スタッフも訪れての開催されるのだが、今回もまだ来日は叶わなかった。通訳&プレゼンテーターはイタリアワインの第一人者であるワインジャーナリスト、宮嶋勲氏。
会場にはこの日のため特別にセレクトされた10種類のトレビキワインが登場。サベリコ氏のイタリア語でのテイスティングを宮嶋氏が逐一通訳し、さらには生産者もビデオで登場するという、オンラインではないけれど日本とイタリアをつなぎながらのテイスティングとなったわけだ。
目の前のテーブルに並んでいるのはスパーリング2、白4、赤3、デザートワイン1の10種類。まずは北イタリア、ヴェネト地方を代表するスパークリング・ワイン「プロセッコ」でビアンカヴィーニャ社の「コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネ・ブリュット・ビオロジコ」。まだ数年前に設立されたばかりの若いワイナリーだが、畑ごとに異なるニュアンスのプロセッコを生産している。この「ブリュット・ビオロジコ」はプロセッコの主要品種であるグレーラ種100%で作られている。グレーラ特有の青リンゴの香りに加えてマーガレットなど白い花の香りが心地よく、酸もきりっとしておりとてもバランスのよいプロセッコ。
イタリアで注目の名門ワイナリーをテイスティング
もう一種類のスパークリングワインはロンバルディア州の「フランチャコルタ」。トレビキを獲得したのはフランチャコルタ生産者組合現会長のワイナリーでもある「バローネ・ピッツィーニ」の「エクストラ・ブリュット・アニマンテ」。フランチャコルタは近年日本でも飛躍的に売れ行きが上昇している注目ワインのひとつで「バローネ・ピッツィーニ」はその中でも名門ワイナリー。
イセオ湖南岸の氷堆積土壌で育ったシャルドネ、ピノ・ネロを中心に瓶内二時発酵のメトド・クラッシコで作られたフランチャコルタは、セパージュ的にもフランスのシャンパーニュと比較されうる、イタリアを代表するクオリティ・スパークリング・ワインだ。この「エクストラ・ブリュット・アニマンテ」はシャルドネ84%、ピノ・ネロ12%にピノ・ビアンコ4%を加え瓶内二時発酵30か月。
非常にエレガントで清潔感あふれ、繊細な泡は一度飲んだらやみつきになることだろう。甘くない、ドライな柑橘のニュアンスにクリーミーな味わいは極上の一本。
白ワインでは、フランス&スイス国境に近いヴァッレ・ダオスタ州の「ロセ・テロワール」社の「ソプラクオータ900」が興味深かった。2000年創設とこちらも若いワイナリーで作付面積はわずかに7ha。ただでさえ小さなヴァッレ・ダオスタ州はモンテビアンコやグランサッソなどイタリアを代表する山々を有する山岳地帯だけにぶどうを栽培できる耕作可能地は非常に限られている。
「ソプラクオータ900」とは標高900m以上の畑という意味で、冷涼な高地のテロワールを反映した逸品。スイスのヴァレー地方とヴァッレ・ダオスタ州で主に栽培されているプティ・ダルヴィン種を使用し、素焼きのアンフォラやバリック新樽などで醸造したあとブレンドするというから実にユニーク。
その香りは高山植物を思わせセージやバジリコなどのハーブ香が豊か。しかもアルコール度数は14度骨格がしっかりしているのに酸も豊かでミネラルも豊富。複雑味に富む非常に素晴らしいワインだった。数年前からトレビキを獲得しているが、生産量がごく少ないことから幻の白ワインといってもいいだろう。
赤ワインではラツィオ州カステッリ・ロマーニ「ポッジョ・レ・ヴォルピ」社の「ローマ・ロッソ・エディツィオーネ・リミタータ2017」が興味深かった。これは本来フラスカーティなど白ワインの産地として有名なカステッリ・ロマーニ地区から生まれた現代的な赤ワイン。モンテプルチアーノ種やチェザネーゼ種といった中南部イタリアの固有品種に少量のシラー種を加え、スパイシーかつエキゾックな香織が印象的。
八角や白胡椒、あるいはベリー類、重厚だけれどエレガントで余韻が実に長い。DOCローマ・ロッソとはこちらも最近誕生したDOCで国際的にはほとんど知られていない貴重な1本。どちらかというとどろっとした量り売りで飲むような赤ワインを多く作っていたローマ周辺でもこんなワインが作れるという、ポテンシャルの高さを示した一本。こちらももし見かけたら是非。
唯一のデザートワインとして選ばれたのが「ジャンニ・ドーリア」社の「モスカート・ダスティ・カーサ・ディ・ビアンカ2019」。モスカート・ダスティとはピエモンテで作られる発泡性の甘口スプマンテで新年を祝う際や、伝統的にはパネットーネなどのドルチェと合わせることが多い。工業製品も多いのでイタリアワイン通にはあまり好まれてこなかったが、これは別物。15haしかない小さなワイナリーだが泡立ちは繊細。
ファーストアタックは、セージやゆずなどのハーブや柑橘系だが、少しおいておくとどんどん香りが変化して来る。最初はドライな印象だったが徐々にオレンジやミカンといった甘い柑橘系の香り、そしてさらに複雑なバルサムなど香木のニュアンスも現れて来る。いやいや、モスカート・ダスティとはいえあなどることなかれ、これは別格。
今回特に小さなワイナリーがこだわり抜いて作ったワインの中に逸品が多く見受けられたが、これもイタリアがもつ多様性=ダイバーシティのひとつ。テロワールというフランス語にあたる的確なイタリア語はいまのところ存在しないが、なによりも複雑で豊かなイタリアのテロワールを感じさせてくれる「トレビキ」ワインをショップやレストランで見かけることがあったら、是非試してみてはいかがだろうか。
きっと「これもイタリアワインなのか!」と驚くこと請け合い。「難しくてわかりにくい」と、あまりありがたくない評判が横行するイタリアワインだが、なによりもその多様性を楽しむ、そんな習慣がますます定着すれば、と願ってやまない。
- TEXT :
- 池田匡克 フォトジャーナリスト