渋谷区初台にある新国立劇場に足を運ばれたことはあるだろうか? ここは、日本で唯一の本格的なオペラ専用劇場を有する施設である。オペラは、クラシック音楽、文学、舞台、ファッション、あらゆる要素を満載した、実に贅沢な総合芸術。その魅力を紐解く新シリーズの第一弾として、ヴェルディの『椿姫』に出演する、ふたりの歌手にスポットを当ててみたい。
「オペラを観ることは、高くそびえる山並みを目にすることに等しい」と言った人がいる。オペラははるか彼方の存在に思えるが、例えば富士山のように、どこからどのように眺めてもよいものだという意味らしい。総合芸術であるオペラは、観る者それぞれが、各人のこだわりの視点で楽しむこいとができる。クラシック音楽ファンなら好きな作曲家から入っていく。文学好きなら原作の作家で選ぶ。演劇好きなら台本や演出の細部を検証するのもいい。お洒落にこだわる貴方なら、華麗な舞台衣装を堪能する楽しみもある。
そういえば、五木寛之は塩野七生との対談「おとな二人の午後」で「オペラを見るコツっていうのは贔屓をつくるにかぎる」と断言している。それまでうたた寝をしていても、お目当てのソプラノ歌手が出てきたら「ブラボー!」とか手をたたく。そんな贅沢な楽しみ方もいいものだと、オペラを勧めている。今どきの言い方なら、アイドル推し、ということになるだろうか。
贔屓をつくる。そんな目線で、日本で唯一の本格的なオペラ専用劇場を有す、新国立劇場の演目を紹介していく新シリーズ。その1回目は、11月16日から上演されるヴェルディの『椿姫』。これに出演する、ふたりの歌手にスポットを当て、貴方を目眩くオペラの世界へと誘おう。
イタリアオペラを頂点に導いたといわれるのがジュゼッペ・ヴェルディ。多くの人が彼の作品に心惹かれるのは、テーマも音楽も、人間そのものを描いているから。とくに彼の中期以降の作品にはその特徴が強く、人間が抱える苦悩や葛藤などが、いきいきと音楽で表現されている。社会から疎外されたマイノリティに目を向けた作品も多く、高級娼婦ヴィオレッタが主役の『椿姫』もそのひとつだ。
アレクサンドル・デュマ・フィスによる本作品の原題『ラ・トラヴィアータ』は、道を踏みはずした女、という意味。19世紀半ばのパリの裏社交界に生きるヒロイン、ヴィオレッタの虚飾の日々と、彼女に恋する青年アルフレードとの純愛と哀しい運命を描いた作品。今回の新国立劇場の『椿姫』で注目なのが、その主役のヴィオレッタとアルフレードを演じるふたり。きっと貴方の贔屓になるであろう、魅力に満ち溢れた歌手たちなのだ。
ヒロイン、ヴィオレッタ役のイリーナ・ルングはロシア出身。ミラノ・スカラ座やウィーン国立歌劇場など、ヨーロッパ各地の名門歌劇場で大活躍中の正統派ソプラノで、ロシアの厳しい音楽教育を受けた後、ミラノで暮らすようになって十数年。正統派の美人だが、開放的で明るい性格と自らを分析。ニューヨークタイムズからは「魅力的な声量をもった輝かしいソプラノ」との賛辞を受けている。そんな彼女が最も得意とする『椿姫』ヴィオレッタ役で、新国立劇場のデビューを飾る。
正統派ソプラノのイリーナ・ルング
アルフレード役のアントニオ・ポーリはイタリア・ヴィテルボ生まれ。数々の国際コンクールで入賞歴をもつ、将来を嘱望される若手テノールだ。昨年5月にイタリア・ローマ歌劇場で上演されて大きな話題を呼んだソフィア・コッポラ初演出の『椿姫』でもアルフレード役を演じたことからも、その注目の度合いがわかるだろう。新国立劇場には2015年『椿姫』で初登場して絶賛を博し、今回は待望の再登場となる。贔屓になるなら知っておくべき、彼のこぼれ話しをひとつ。なんと合気道4級で、世界を旅する演奏生活の中、どこの土地でも道場を探して通うのだとか。
注目のイタリア人若手テノール、アントニオ・ポーリ
ご覧のとおり、イリーナ・ルングとアントニオ・ポーリのコンビは、歌声だけでなく、ヴィジュアル的にも目が離せない存在。そして、もちろん、『椿姫』には、有名な「乾杯の歌」をはじめ、ヴィオレッタのアリア「ああそはかの人か~花から花へ」、アルフレードの「燃える心を」など名曲が並ぶ。目から耳から楽しめること間違いなし。そして、胸が高鳴る。さあ、むずかしいことは考えず、五感でオペラを楽しもう!
新国立劇場:2017/2018シーズンオペラ
ジュゼッペ・ヴェルディ『椿姫』【全3幕/イタリア語上演 日本語字幕付】
公演日:2017年11月16日(木)~28日(火)
会場:新国立劇場 オペラパレス/東京都渋谷区本町1-1-1
問い合わせ先
- 新国立劇場オペラサイト TEL:03-5352-9999(ボックスオフィス)
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