六本木ミッドタウン近くにある「長谷川栄雅 六本木」は外見だけでは果たして何の空間なのか?一見しただけではちょっと想像がつかないだろう。和食店のようでもあり、アートギャラリーのようでもある。実際に暖簾をくぐって一歩足を踏み入れてみると、そこは日本酒がまるで芸術作品でもあるかのようにディスプレイされたギャラリースペース。これこそ「長谷川栄雅」ならでは、日本酒に対する美意識の高さと世界観を表現している場なのである。
珠玉の日本酒と、トップシェフが作る「酒のあて」長谷川栄雅|六本木
長谷川栄雅とは播州林田(現兵庫県姫路市)で350年以上に渡って酒作りを続ける長谷川家の始祖の名前だ。栄雅は藤原鎌足33代目の子孫であり、寛永6年(1666年)大和の国から播州林田に移り住み、酒屋と材木商を興した。酒造りを家業とした栄雅は、倹約を旨とすべしなど子孫に当てた9ケ条の遺言状を残す。それがその後の長谷川家の商売、ひいては酒造りの哲学となり、江戸、明治、大正、昭和、平成と時代を超えて長く守る続けられる家訓となったのだ。長谷川家はいまもヤヱガキ酒造として高品質の日本酒を作り続け、その中でもトップラインとして生まれたのが創業者の名前を冠した「長谷川栄雅」なのだ。
その長谷川栄雅の日本酒と、極上のあてを味わうのは茶室を思わせる和空間。天井が高く、床の間と雪見窓が切られた八畳敷の空間だ。一方日本酒ペアリングは5種類の長谷川栄雅にあわせ、これまでフランス料理やイタリア料理、イノヴェーティブ料理などのトップシェフがオリジナルの酒のあてを考案してきた。
例えば過去には「Ode」生井祐介シェフ、「abysse」目黒浩太郎シェフ、「La Cime」高田裕介シェフ、「Villa AiDA」小林寛司シェフら錚々たるメンバーが、長谷川栄雅のためにとびきりの酒のあてを用意してきた。
こだわりの日本酒とのペアリングを堪能できる!
今年の4月1日からのあてを担当するのは三重県の「都ホテルズ&リゾーツ志摩観光ホテル」総料理長、樋口宏江シェフ。樋口シェフは伊勢志摩の豊かな食材を取り入れた「伊勢志摩ガストロノミー」を標榜しており、2016年には「G7伊勢志摩サミット」のワーキングディナーを担当した実力派だ。今回の日本酒体験では伊勢志摩からリモートで参加し、直接料理を説明してくれた。
早速用意された酒と料理に向き合い、まずは一番左の「栄雅 純米大吟醸」をひとくち。地元兵庫県産の山田錦100%、精米歩合30%、ヨーグルトを思わせる柔らかい乳酸とフッレッシュなあとくち、華美過ぎない吟醸香が最初の酒にふさわしい。これにあわせたのは「ガスエビのカクテル」。伊勢志摩の柑橘でマリネしてあり、心地よい酸味が「栄雅 純米大吟醸」と実によくあう。二番目の酒は「栄雅 特別純米」精米歩合は50%。
前者に比べると精米歩合が低いためより米本来が持つ旨味、甘み、芳醇さが際立つ。これには「農ポークの低温調理」をあわせた。しっかりした脂身は実に甘く香り高い。こうした肉料理にあわせるなら大吟醸ではなくやはり純米だろう。
「長谷川栄雅」に使用されているのは特A地区に指定されている、兵庫県加東市小沢地区で生産される山田錦だ。山田錦は酒米としての最高峰ではあるが、栽培が難しいという性質から他県産の山田錦を使用している酒蔵も多い。しかしそれでは地域特性=テロワールを反映できないため、ワイン同様日本酒も生産地域の米で作るべきだと常々思っている。特A地区とは山田錦の中でも特に優れた米を生産する、ごく限られた地区のこと。
いわば特級畑ならぬ特級水田に相当するだろうか。また日本酒作りに欠かせないのが上質な天然水だが、長谷川栄雅は名勝「鹿ヶ壺」を源流とする揖保川系林田川の伏流水を使用。酒作りには農家の努力も杜氏の技術ももちろん大切だが、水ばかりは作り出すことができない。それだけに豊かな天然水を使用している長谷川栄雅を味わうことは、播州林田の自然の恵みそのものを味わうことでもあるのだ。
三番目の酒は「長谷川 純米大吟醸三割五分」香り高く、ふくよかな旨味とともに柔らかい甘味を感じる酒。これには伊勢志摩の名産である真珠の養殖に使用されるあこや貝を使った「真珠貝柱の柑橘風味」をあわせる。春の江戸前の華といえば貝。アコヤ貝の貝柱は青柳や小柱にくらべるとより歯ごたえが強く甘みも豊か。
伊勢志摩産のブラッドオレンジの香りも心地よく、貝の甘味によくあう酒。酒は辛口一辺倒という人も多いが、米本来が持つ甘味を生かした酒は貝との相性が非常にいい。トップラインである「長谷川栄雅」は兵庫県産山田錦100%である一方「長谷川」は他府県の山田錦も使用。より飲みやすい、カジュアルラインだ。
四番目の酒は「長谷川 純米大吟醸五割」こちらは同じ大吟醸で精米歩合は低いのだが、さきほどの「長谷川 純米大吟醸三割五分」よりも辛口で、シャープな切れ味、後口も非常に爽やか。「三重県産白身魚の風干」は塩をして一夜干しにしたものとのことだったが、西京味噌のような発酵食品も旨味も感じる。
樋口シェフにたずねると米麹を塗って干物にしたとのことだった。米麹、熟成した魚の旨味、これにはきりっとしまる余韻を持つ「長谷川 純米大吟醸五割」がベストチョイス。
最後の酒は「長谷川 特別純米」これは飲みやすく、純米ならでは米の旨味が芳醇なのが特徴。「あおさのキッシュ」のようにバターや生クリームを使ったリッチな料理には、こうした芳醇な純米酒があう。食後酒としてチーズと合わせるのもいいだろう。
この空間で日本酒ペアリングが味わえるのは最大4名まで。つまり、たとえふたりで予約したとしてもこの空間をカップルで独占できてしまうという実に贅沢なテイスティングが体験できるというわけだ。
外国からのゲストをもてなすのにもいいし、日本酒はあまり詳しくないパートナーと一緒でも、料理と酒の相性についてあれこれいいながら楽しむのもいいだろう。ゲストシェフが作る酒のあては3ケ月ごとに変わるので、季節の味を「長谷川栄雅」と楽しむのもいい。日本酒が持つ可能性を体験できる貴重な空間「長谷川栄雅 六本木」一度体験していただきたい。
問い合わせ先
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長谷川栄雅 六本木 TEL:03-6804-1528
住所/東京都港区六本木7-6-20 1階
営業時間/12:00〜20:00 火曜休み
料金/¥5,500(税込)※1日5組限定 所要時間約40分
※新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下では、一部情報が変更となる可能性があります。詳細は公式HPなどでご確認ください。
- TEXT :
- 池田匡克 フォトジャーナリスト