アブルッツォ州都であるペスカーラから、内陸部の山岳地帯グランサッソに向かって車を走らせること約1時間。チヴィテッラ・カサノーヴァにあるミシュラン1つ星「Ristorante Bandiera(リストランテ・バンディエラ)」に着く。このレストランのはじまりは1977年のこと。
それまで20年以上ローマで料理人としてのキャリアを積んだアンダ・ダンドレアが生まれ故郷であるチヴィテッラ・カサノーヴァに戻り小さなタバッキ兼トラットリアを開く。1988年にはアンナの息子であるマルチェッロ・スパドーネとその妻ブルーナが店を継いで徐々に発展させ、彼らの二人の息子アレッシオとマッティアも共に働くようになるとやがて「バンディエラ」はアブルッツォ・ガストロノミーを代表するレストランとなる。
3代続くアブルッツォの名店「バンディエラ」
マルチェッロは当時フランチャコルタにあったグアルティエロ・マルケージのレストラン「アルベレータ」で修行を積んで当時のヌオーヴァ・クチーナ・イタリアーナのエッセンスを吸収し、同様にその子マッティアはスペインの「エル・セレール・カン・ロカ」で料理人としてのキャリアを重ねて現代スペイン料理の最先端を学び、2011年にアブルッツォに持ち帰った。
一方、アレッシオはフィレンツェの名店「エノテカ・ピンキオーリ」でサービスの基礎を学んだ。つまり「バンディエラ」は創業者である祖母アンナ以来3代に渡って料理人家族が営む家族経営のレストランなのである。そしてマルチェッロの妻であるブルーナは菜園を担当。「バンディエラ」では毎日彼女が育てた野菜やハーブが食卓に登場するのである。今回アブルッツォのワイナリーと美食を巡る旅は、まずこの名店「バンディエラ」から始まる。
自家菜園の野菜の新鮮さは特筆もの!
ビーツ・クリームのベニエ、フレッシュ・リコッタのカンノーロ、アブルッツォ産プロシュットのブルスケッタ、アーティチョークのチップス、オリーヴのカンディート。
秋を代表する味覚であるポルチーニとオーヴォリ(卵茸)2種のサラダ仕立て。ポルチーニは生とソテーで。オーヴォリは生で食べる。添えられた自家菜園の野菜の新鮮さは特筆もの。
アブルッツォ伝統のポルケッタは低温調理で柔らかく火入れ。野菜のコンカッセと豚皮のフライ、自家製マヨネーズで酸味をプラス。
手打ちパスタ「トルテッリ」の中身は柔らかくナイフで叩いた鴨胸肉のオレンジ風味。クラシックな組み合わせがパスタとよくあう。
戦後アメリカで発展したミートボール・スパゲッティの原型とも呼べるパスタ。マッケローニ・カッラーティとはアブルッツォを代表する手打ちパスタ、キタッラのことだが、この地方の方言でキタッラ・マッカルナーレ=カッラトゥーレと呼ばれていたことからカッラーティと呼ばれるようになった。例によって濃厚なトマトソースに直径1cmほどのひと口サイズのポルペッティーネ。ミートボール・パスタは南イタリア発祥というのを再確認させてくれる。
フェッラテッラとはアブルッツォおよびモリーゼ地方の代表的なドルチェで、ワッフル状の菓子のこと。地方によって呼び名は色々でオルトーナではヌーヴォレと呼ばれ、他にもカンチェッラータ、ネオラ、ピッツェッラなどとも呼ばれている。
その原型はローマ時代のクルストゥルムという菓子に遡るといわれている。これはチョコレート味のフェッラテッラでアブルッツォ名産のサフランを使ったジェラートやモスコ・コットなどで甘みをプラス。ヨーロッパの中でも最も自然に飛んだ「緑の州」と呼ばれているのがアブルッツォ州。もし、かの地を訪れる機会があれば、ぜひ立ち寄りたい美食レストランが「バンディエラ」だ。
バンディエラ
- Bandiera TEL:+39-085-845219
- 住所/Contrada Pastini, 4 Civitella Casanova (PESCARA)
- TEXT :
- 池田匡克 フォトジャーナリスト