最新『Precious』10月号では、企画「大人世代のリアル【推し活】道」を特集。

ライフスタイルの変化に伴い、大人世代でも【推し活】への関心が高まっています。これまで一度も【追っかけ】をするほど誰かに入れ込んだことがない大人世代が「まさか、私が!?」と、最近になって突然【推し】(=熱狂的に応援する対象)と出会い、【推し活】に邁進する現象が起こっています。

推しの存在と推し活がもたらす、素晴らしい作用について、作詞家でコラムニストのジェーン・スーさんにお話しを伺いました。

「乙女心に集中力、知的好奇心、知識欲、そして仲間。推し活は、新たな世界への扉をバンバン開いてくれます」

現在、【推し活】真っ最中のジェーン・スーさんが語ります!

ジェーン・スーさん
 
ジェーン・スーさん
作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ
「ジェーン・スー生活は踊る」(TBSラジオ)に出演中。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』で講談社エッセイ賞を受賞。『生きるとか死ぬとか父親とか』はドラマ化も。

何か引き金があったわけでもなく、突然ハマったんです。私の【推し】については、もともと存在は知っていて、人気があるのね、明るい方なのね、程度の認識だった方ですが、2020年の年末、推し活は突然スタートしました。以来、推しの活躍を追っかけ回すのはもちろん、推しの写真を見ているだけで時間が溶けていくのを感じ、なんなら推しが生きているだけで幸せを感じるなど、自分以外の人間にワーキャーできる機能が自分に備わっていたのかと、私がいちばん驚いています。

推しのSNSに自撮りがアップされたら親友にスクショを送りつけたり、LINEスタンプを模した推しの文言入り画像を200個も自作したり(もちろん仲間内だけで使用)。ネット上で収集した大量の推しの写真を使って、帽子やパンツ、バッグなど同じものが4枚揃うとビンゴ、というマニアックな遊びを開発、ひとりで盛り上がったりしました(笑)。

ちょっと落ち込んでいたり、忙しくて爆発しそうなときでも、推し活で息抜きでき、前向きになれるなら、それでいいと思うんです。盛り上がったぶんだけ楽しいし、幸せな気分になる。どうせ推し活するなら、踊らにゃ損、損、ですよ。

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四十路の私たちキャリアはこれまで、仕事に家庭に子育てに、めちゃくちゃ頑張ってきました。そこに今、介護や更年期障害などが加わって、現実はアップアップです。でも、これまでやたらと鍛えてきてしまった、軍人のような強靭なメンタルと肉体をもってして、自分に鞭打ち、、弱音も吐かずになんとか乗り越えようとしてきました。

そんな矢先の、コロナです。2020年はきっと、軍人のような私たちでさえ、心身共に疲れてしまった。緊張の糸がプツンと切れて当然です。そういう心の揺らぎと推し活って、ある意味、相性がいいと思うのです。

頑張りすぎてきた軍人の鉄のメンタルをも溶かす、推しの存在。誰かを純粋に好きになり、応援する柔らかな気持ちをもたらしてくれるのはもちろん、「推しに恥じない生き方を!」と自らの居住まいを正そうとするのも推し活の効果。ちなみに私は肘のカサつきが気になるようになり、クリームを塗るように。そんな自分の乙女心にちょっと引きましたが。

なにより、推し活は、新しい扉をバンバン開いてくれます。ひとしきり経験を積んでしまった私たちは知的好奇心が落ちてくる世代。けれども推しがいることで、未知のジャンルに足を踏み入れ、その世界をもっと知りたくて勉強し、結果として知識や技術が身につきます。衰えつつあった集中力も鍛えられるうえ、互いに情報を教え助け合う、推し仲間という存在まで手に入れられるんです。

推しを応援することで、低迷する経済に効果あり、推し活が日本を救う! なんて声も耳にしますが、そこまで壮大なものでなくても確実に推し活は、【私】のことを救ってくれます。推し活のおかげで時間は本当に足りないけれど、QOL(クオリティオブライフ)は爆上がりしました。そんなふうに幸せを感じる人が増えることが明るい未来につながると信じています。

ちなみに私が推しを非公表にしているのは、表に出る仕事柄、古参のファンに迷惑がかかるだろうし、なにより「好きな男の子の名前、クラスのみんなには知られたくない!」みたいな気持ちです。


心の平和も、幸せも、明日に向かうやる気も全部、推しがいるおかげ! 夢中になればなるほど世界が広がる「大人世代のリアル【推し活】道」をお送りしました。皆さんの推しは、誰ですか?

ILLUSTRATION :
ハセガワシオリ
EDIT&WRITING :
田中美保、佐藤友貴絵(Precious)