シリーズ第1作『ドクター・ノオ』が1958年に公開されて以来、2021年の最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』までの25作品で、6人の俳優がジェームズ・ボンドを演じてきた。そして、どの時代の作品でも巧みにトレンドを盛り込み、スクリーンにモダン・ジェントルマンの理想像を投影してきたのだ。そこで稀代のスパイ・ヒーローを愛してやまない男たちに、ボンドの偏愛ポイントを語ってもらったので紹介する。
モダン・ジェントルマンのスタイルは、ボンドから学べ!
ハイブランドを身につける男の気概
僕にとっての理想のボンドは、ダニエル・クレイグです。『カジノ・ロワイヤル』から始まるクレイグのボンドはピンチに陥ることも多く、人間臭いところに魅力があります。男は壁だらけの人生を這い上がることに価値があるわけで、クレイグのボンドには、そこがきちんと描かれていました。そして、彼の着こなしには気迫があります。
ハイブランドの服に負けない気概というか、鍛えた肉体に秘めた活力にリンクしたく、僕も5〜6年前にハイブランドのタキシードを手に入れました。白のディナージャケットもいいですね。パーティの主役が着るのでしょうが、そんな場に立てるように、役者として成長する願いを込めて。究極の夢は、やはりアストンマーティン。10年前に77台限定で作られた『One -77』のゴールドボディが最高にグラマラスで男らしいんです。(談・平山祐介(俳優・モデル))
コネリー・ボンドのカフに憧れて
『007』シリーズで思い入れが深いのは、初期の作品。ショーン・コネリー演じるジェームズ・ボンドが醸し出す、シンプルな美学に今も憧れています。これは英国の正統を肌で知るテレンス・ヤング監督の功績です。原作のイメージを尊重しつつ、アメリカのテイストを盛り込んだモダンな紳士に作り上げたところに敬服します。一例が、シャツの袖を折り返したターンナップカフです。
古くからある形状ですが、体を張って仕事をするスパイがいつもダブルカフのシャツを着ていたら、カフリンクスの脱着が大変かもしれないし、なくしたら大変。だからボンドがターンナップカフのシャツを着るのは、とても理にかなっているといえます。僕が着るシャツも、多くはターンナップカフ仕様。気楽で、ダブルカフに匹敵するフォーマル感も取り入られて、とても便利ですよ。(談・大西慎哉(スローン レンジャー トウキョウ 代表))
正統かつ活動的なトラウザーズ
ジェームズ・ボンドの装いといえば、ショーン・コネリー演じる初代ボンドが着用した、テーラー「アンソニー・シンクレア」製スーツがまず挙がる。もっとも個人的には、コネリー・ボンドがカジュアルで着用しているトラウザーズが気になっている。それは『ゴールドフィンガー』でアストンマーティンを駆るボンドがはいていた、いわゆるLポケット、ホリゾンタルフロントポケットのもの。
コンジット・カットで着丈長めのツイードジャケットと、ホリゾンタルポケットのテーパードしたトラウザーズの組み合わせは、この意匠がブリーチーズ(乗馬用のボトムス)等に見られることもあり、正統かつ活動的に映る。007イヤーの今年はデニムの代わりに、堅牢なカバートクロスあたりを使ったこのトラウザーズを軸に、アクティヴなテーラードカジュアルを楽しみたい。(文・菅原幸裕(編集者))
スパイは靴紐を 結んでいる場合じゃない!
ボンドにはかねがね、紐のない革靴を履いていてほしいと思っている。もし任務遂行中に靴紐がほどけて結び直していたら、スペクターの首領、ブロフェルド(愛猫家)にあと一歩のところで逃げられること確実だ。実際、コネリー・ボンドの時代から、紐のないブーツやスリップオンシューズを履いているシーンは少なくない。
ボンドファンの端くれとしてグレースーツは以前から愛用しているが、一昨年から組み合わせているのが、ガジアーノ&ガーリングのサイドエラスティックシューズだ。ダミーの紐が付いているためローファーよりもドレッシーで、スーツと合わせやすく、土踏まず部分を絞ったシャープなシルエットがモダンに感じる。劇中で着用したアイテムを見極め、自分の体格と相談しながら柔軟に取り入れるのが楽しい。(文・櫻井 香(MEN'S Preciousエディター))
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- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2021年秋冬号
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