2022年、気になる!「食」のキーワード|食の“今”と“未来”を、食に携わるプロが考察!

 

大切な人と集い、語らい、おいしい食事とお酒を楽しむ。あるいは、ひとりでゆっくり、心地いい空間で温かい食事を味わう。当たり前だと思っていたそんな時間や場所が、どれだけ大切なものだったのか。

レストランをはじめとする飲食店の存在、ステイホームが続くなか、自宅でどう食事を楽しむか、SDGs的視点から知る食資源の未来など、「食べる」ということについて、改めて考えてみた方も多かったのではないでしょうか。

今、「食」の世界は、大きな変化に直面しています。そこで、食の仕事に関わるプロの方5名に、2022年の「食」にまつわるキーワードをお聞きしました。五者五様の観点で語られる食の“今”と“未来”のお話には、厳しい現実と向き合う、「食」に携わるあらゆる方への深い愛情とリスペクト、応援のメッセージが込められているような気がしました。少しずつ、おいしい時間、楽しい空間を取り戻しつつある今こそ、「食べること」について、一緒に考えてみませんか。

今回は、「シンシア」オーナーシェフである石井真介さんに『超・シェフ』をキーワードにお話しいただきました。

石井真介さんの写真
 
石井 真介さん
「シンシア」オーナーシェフ
(いしい しんすけ)「オテル・ドゥ・ミクニ」「ラ・ブランシュ」を経て渡仏。星付きレストランを経験後、帰国。「バカール」のシェフを経て、2016年フランス料理店「シンシア」をオープン。予約がとれない店に。2020年には姉妹店となる「シンシアブルー」をオープン。

超・シェフ ~ 石井真介さん

料理人は、ただ単に料理をつくるだけの人じゃない。

レストランという会社を経営し、日本の「食」の素晴らしさを世界に伝え、地球規模で食資源の未来を考え、社会に貢献する。なにより、次世代を担う若者たちが夢をもって料理人に憧れるような存在にならないと。料理人一人ひとりが、そんな意識をもって、変化、進化していかなきゃいけない。今が本当に正念場、今こそ、本気で取り組まないと。

こんなふうにいうと、「そんなに崇高な理想を掲げて大丈夫?」という人がいるかもしれません。

コロナ禍において、飲食店は本当に厳しい状況におかれました。想像以上につらくて、何度もくじけそうになりながら、なんとか、みんな、歯を食いしばって今にいたっています。

なぜ、飲食店ばかりが急所とされるのか。レストランに行くことは不要不急なのか。悔しさと共に、今回の国の対応で、日本の飲食業界はこのままじゃダメだと痛感しました。

「資源を守り、料理文化を次世代へつなぎ、社会に貢献する。シェフが変化・進化する時代です」(石井真介さん)

レストランは嗜好性も高く、必ずしも生活に必要なものではないかもしれませんが、心豊かに、楽しく幸せな暮らしを営むうえで必要な存在であることは間違いありません。だからこそ、レストランや料理文化が淘汰されてはいけない。

誰かがやらなきゃ、動かなきゃ。

そんな思いから、2022年のキーワード、という問いに対して“超・シェフ”と答えました。

冒頭にいったとおり、シェフはシェフだけの役割を超えた存在にならないといけない、という意味を込めています。

レストラン_1,サステナブル_1
 

なんだか堅苦しくて切実なことばかりいってしまいましたが、レストランは、本当に楽しい場所です。お気に入りの服を着て、いつもより丁寧に髪を整えおしゃれをして、素敵な仲間とおいしく食べて飲んで語って…。束の間、日常を忘れさせてくれる貴重な場です。僕自身、おいしいものが大好きですし、お客様がワイワイと楽しそうにしている姿を見るのがなにより好きなんです。

そんなふうに、お客様に過ごしてもらう一方で、僕たちシェフからの発信もキャッチしてもらえたらうれしいなと思っています。

例えば、僕のライフワークでもある海を守る啓蒙活動「シェフス フォー ザ ブルー」。本マグロをはじめ、今、絶滅危惧種が増え、魚が獲れなくなってきているという現状を知ってもらいたくて、海の資源を守るためのルールにのっとって獲られた「サステナブル・シーフード」を使った料理を積極的に展開しています。

そんなひと皿がきっかけになって、食の資源の現状を知ってもらえたら。この食資源はどこから来て、どこへ行くのか。その背景や未来を学び、選んでもらえたら。また、例えば「本当にそれ、マグロじゃないとダメなのか」というように、ちょっと考え、必要なら我慢という選択をしてもらえたら。それが次世代の食育にもつながるんです。

これからは、食べる側も、提供する側も一緒に学び、高め合っていけたら、こんなハッピーな循環はない!と思っています。

ILLUSTRATION :
Adrian Hogan
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)