【ルール11】犯人とネクタイは、締め上げろ
基本にして深遠なるタイ結びの王道!「プレーンノット」
ノットに表れるわずかな形の差が、洒落た首元になる「ダブルノット」
1990年代にクラシコイタリアというイタリアの男性服装文化が日本に紹介されてから、イタリアスタイルのネクタイとその結び方にぼくたちは夢中になった。5通りも6通りものノットを練習したけれど、それがほんとうに必要だったか。
残念ながら「熱に浮かされていた」としか総括できないのが今のホンネである。
締めるところは納得いくまで結びなおす。だが、その方法論については、こうでなきゃいけないなんて規約はない。朝そのために10分余計に早起きをする気持ちがあればいい。それが尊い。
【ルール12】ポケットスクエアの24時間
他人には言わないが、ひそかに実践している、自分だけのルールがあるというのは、至極紳士的なことである。
ある東京の洒落者だが、彼は日中はリネンのポケットスクエアを挿しているが、夕方の6時、食前酒を飲みたくなる時分になると、それをシルクのものに挿し替えるのだそうだ。ところが両方とも白だから同僚はだれも気がつかない。
うまく6時にあがれることはめったにないが、自分のなかで昼と夜のスイッチを切り替えるためにやる。気づいて尋ねなかったら、彼は一生そのことをしゃべらないだろう。
【ルール13】堂々スカーフ宣言
精緻なプリントを施し、艶やかな発色が絶品!
ファッションを存分に楽しむには慣れと少しばかりの勇気がいる。
以前プロを目ざすジャズシンガーのライブにいったことがあるが、なんと彼女はマイクを手にしてモジモジしているのである。主役が恥ずかしがると、こちらまで落ち着かなくなってくる。
昨今人気の男のスカーフ姿も、見た目はけっこうなインパクトがある。だからといって巻いているご本人がビクついていると、少しも着映えがしない。
歩くときは大またで。身振り手振りも少々オーバーに。「成りきる」ことでスカーフを味方につけるのである。
【ルール14】眼鏡顔でいいではないか
ジョン・レノンやウディ・アレン、カール・ラガーフェルド、日本でいえば吉田茂は眼鏡顔でぼくたちの記憶に残っている。眼鏡なしの彼らの顔なんて想像できないでしょう?
どうせ眼鏡をかけるなら、眼鏡顔で売り出すぐらいの重大な決意で眼鏡選びに臨みたい。間違っても日本の政治家のような〈してるんだかしてないんだかわからん〉ようなフチなし眼鏡でお茶をにごさない。
流行などは一切無視し、基本一本を決め、そのほかはPC用ならPC用という用途で構成するのが王道。そして浮気は慎む。
【ルール15】肌着の官能性を知っている
よくにおいが記憶を呼びさますといわれる。感覚の記憶力というのはとてつもなくよくできているらしい。
肌触りのよさも一度覚えたら忘れられない感覚である。ともすれば男性は服に機能を求める傾向があるが、たとえば肌着など直接身につける衣料は、肌触りも重要な機能である。しかも、ときに、その肌触りのよさを他人とシェアする場面もでてくるかもしれない。
金融と時計の国スイスが意外や最高級アンダーウエアをよく産するというのも知っておきたい紳士的教養のひとつである。
【ルール16】継ぎはぎ大歓迎
英国で古着屋にいくと、よくこんなものを売るなと思うような、継ぎはぎだらけのツイードジャケットに必ず出くわす。ツイードやコーデュロイのジャケットのひじに二重のパッチが施されていたりする。愛すべき、愛すべき英国の習慣である。いや、英国だけではない。かつては日本もそうだったのだ。今や家庭のリペア機能はすっかり衰えてしまったが、そこは大都市東京、腕のいい各種リペアショップがそろっている。いい服、いい靴を手に入れ、壊れたら直して永く愛用する。モノもそして人生もかくありたい。
【ルール17】カバンとは徹底してつきあう
エルメスの古い鞍を自宅の暖炉の上にかざっている女性が知り合いにいる。それだけで彼女の優れた審美眼と、馬とモノへの愛情が伝わってくる。
鞍とはまるで用途は違うが、レザーバッグも実用品であり、年季は勲章だ。
とはいえ、ただ古いだけというのでは話にならない。いつ、どこにでも主人に同道できるよう手入れがなされていなければならない。ハンドルや蝶番などの消耗箇所は適宜交換されていなければならない。一見新品のようだが、実は10年、20年、30年使っているというのがあらまほしき姿である。
そういうつきあい方をするには安物のバッグではだめだ。材料の革も付属品も高品質で、何かあったらすぐに修理を受け付けてくれるような体制が整っているメーカーの品が好ましい。むろん、そのメーカーで修理する必要はないのだが、自社の製品を長く使ってもらいたいと願っている「姿勢」を買うのである。
ハンドバッグ、ブリーフケースを選ぶときはサイズ感が大切だ。小柄な人が大きなバッグ、大柄な人が小さいバッグを持つのは少々おかしい。
【ルール18】よい傘がないのなら、濡れていけ
いや、そうは言ってもむろん程度問題である。びしょびしょに濡れて他人に会うのは失礼である。第一風邪をひく。どうぞコンビニでビニール傘をお求めください。しかし、いつもいつもビニール傘ではせっかく整えた服や靴が泣く。バランスがとれていないからである。
外見というのは全体で見てサマになるという「引きの目線」が大切である。四季折々の雨の日の自分を想像したコーディネート・ジグソーのおそらくラストピースが傘だろう。
家の兵站には優れた傘がいつでも出番を待っている状態は、紳士の精神衛生への貢献大である。
【ルール19】薄く、強靭なウォレットしか選ばない
いい意味でも悪い意味でも、財布というのは時計と並び男の持ち物のなかでも存在感を発揮するものだ。
ポイントカードや未整理の領収書ではちきれんばかりの三つ折りの財布なんぞをヒップポケットから出されたら、恋もビジネスも即減点が入るだろう。
こればかりは上着の内ポケットに「あたり」が出ない、スリムで悪目立ちしない革の長財布を定番として持ちたい。
さらに、どんなにその財布を気に入っていようと、角の色が剝げたり、縫い目がほどけたりしたら、冷酷無情に買い替えなければダメだ。
【ルール20】ブレイシーズのクラシックさを愛でる
およそ200年前から英国紳士御用達だったスーツの必須アイテム、ブレイシーズ(アメリカではサスペンダー)は本来、イギリスのクラシックなスタイルに欠かせないものだ。現在では、従来の伝統的なデザインから進化し現代のスーツスタイルにも映える存在となった。ウォールストリートスタイルならぬ、モダンなブリティッシュスタイルを完成させるためにも、押さえておきたい必須アイテムなのである。
胴回りに合うベルトがないから使う、というような消極的な理由ではなく、英国ファッションを楽しむためのサスペンダー(ブレイシーズ)だから、体型には関係ない。クラシックなスタイルを指向するなら、トライしてみて損はないのである。
人間、なぜか新しいものばかりに囲まれていると疲れてしまう。身体も古い部分と生まれ変わっていく部分がうまく共存してできている。そのバランスが大事なのだろう。
約200年前からスーツに欠かせないアクセサリーとして、英国紳士御用達だったサスペンダーなどは、何もかもミニマイズされた現代のスーツスタイルに加えるにちょうどよいクラシック・スパイスだ。普通のベルトよりしっかり固定されるから立っても座ってもパンツのラインが乱れないのが何よりうれしい。
- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
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- イラスト/緒方 環 撮影/熊澤 透(人物)、川田有二(人物)、篠原宏明(取材)、戸田嘉昭・唐澤光也・小池紀行(パイルドライバー/静物)、小林考至(静物) スタイリスト/櫻井賢之、大西陽一(RESPECT)、村上忠正、武内雅英(code)、石川英治(tablerockstudio)、齊藤知宏 ヘア&メーク/MASAYUKI(the VOICE)、YOBOON(coccina) モデル/Yaron、Trayko、Alban 文/林 信朗 構成/矢部克已(UFFIZI MEDIA)、鷲尾顕司、高橋 大(atelier vie)、菅原幸裕、堀 けいこ、櫻井 香、山下英介(本誌) 撮影協力/銀座もとじ、マルキシ