池や庭石、灯篭や樹木が織り成す日本庭園は、四季の彩りや水の流れが感じられ、足を踏み入れるだけで、心がすっと静かに落ち着くような気分になります。
そんな和風の庭園に欠かせないのが「ししおどし」。
今回は大正時代から植木を手がけてきた歴史ある造園会社、小杉造園のデザイン部長・工藤進一さんに、「ししおどし」について詳しくお伺いしました。
■ししおどしの起源は、田畑を鳥獣から守るための仕掛け
そもそも「ししおどし」誕生のきっかけはなんだったのでしょうか。
「ししおどしを漢字で書くと『鹿威し』。つまり、鹿を威嚇し、田畑を守るためにつくられました。鹿だけでなく、イノシシや鳥など、農業に危害を加える鳥獣も対象となり、ししおどしは鳥獣を追い払うために設置された仕掛けの総称となります。田畑の仕掛けにはほかにも『添水(そうず)』、『かかし』、『鳴子』などがありますが、ししおどしには、『添水』を用います」。
「添水」とはあまり聞きなれない言葉です。具体的にどんな仕掛けなのでしょうか。
「竹筒に水を引き入れ、水がいっぱいになるとその重みで竹筒が傾き、水がこぼれて軽くなるとその反動で竹筒が元に戻ります。その際に竹筒が石を叩くことで音が生じる仕掛けです。最初は鳥獣を追い払うための装置でしたが、竹が石を打つ音が風流だと庭園に設置されるようになったのが、ししおどしの始まりだといわれています」
害獣から田畑を守るために造られたししおどしですが、その音の風流な美しさから装飾として庭に造られるようになったのですね。
■池がなくても設置ができる「ししおどし」
ししおどしはどんなお庭にも設置できるのでしょうか?
「流水を竹に流し込むので、池がある場所にししおどしを設けることが多かったのですが、現代ではデザインすれば池がなくても設置することができます。蹲(つくばい:手水鉢のこと)と組み合わせて水を循環させるポンプを用いたり、掛け流しにすれば、ししおどし自体を単独で設置することができます」
■小規模なスペースへの設置なら、値段は比較的お手ごろ
池がなくても設置できると聞くと、少し設置のハードルが下がったように感じる方もいるはず。ではズバリ、ししおどしを設置するのにはいくらかかるのでしょうか?
「仮に、半畳くらいのスペースで蹲(つくばい)と組み合わせてポンプで水を循環させる小規模なものならば、おおよそ20~30万円位ではないでしょうか。庭の雰囲気に合わせて多種多様なししおどしがつくられていますが、基本的なつくりは、大小の竹筒や焼き木柱等の素材を組み合わせています。循環ポンプなど人工的な水の流れをつくったり、自然の水の流れを利用したりといったことでも金額はさまざまです」
スペースや採用する方式によっても金額が変わるようですが、小さなタイプなら、意外にも現実的な値段で庭に設置できそうですね。
■定期的な部材のメンテナンスに加え、日ごろのお掃除も大切に
維持費はどれくらいかかるのでしょうか?
「ししおどしには、竹や木材などの天然素材を使用するので、経年劣化により3~5年くらいで部材を取り替える作業が必要です。水を受ける竹筒が一番交換する頻度が高いと思われますが、1回交換するのに造作も含めて大体2~3万円ほどです。
竹筒にほこりや枯れ葉などが詰まってしまうと水の流れが悪くなるので、こういった掃除が必要です。水の循環ポンプなどの電気設備を使用する場合は寿命もありますし、故障の可能性もあるので、メンテナンスしやすい構造で設計することも大事になります」
定期的に竹筒の交換や掃除、電気設備のメンテナンスが必要とのこと。庭の掃除を日ごろからできるのであれば、ぜひオススメしたいところです。
■住宅密集地での設置はNG。音への配慮が必要
現在ししおどしを設置している庭園にはどんな場所が多いのでしょうか。
「ししおどしが日本で初めてつくられたといわれているのは京都の『詩仙堂』です。現在は、料亭やホテルの坪庭などの和の趣を要する場所では多くつくられています。一般の家庭でも、和風の庭園をしつらえている場所なら設置されていることは珍しくありません。しかし、音がするものなので、近所に気を使わなければならない住宅密集地での設置はおすすめしません」
住宅での設置の場合、やはりご近所への配慮は必要不可欠。広いお庭があるご家庭なら問題なく設置できそうです。
■ヒーリングスポットとしての役割を果たしてきた日本庭園
最後に日本庭園の魅力についてお伺いしました。
「日本庭園の文化は、日本人の心の寄りどころとして発達してきたように思われます。自然と接するとき心の落ち着きや安らぎ、そして静けさの中に無の境地を感じることができる……。そんな心のヒーリングスポットとしての役割が庭に求められてきました。
したがって、先人たちは日本庭園の中に自然美やその造形を抽出し表現しています。そして侘びやさびといった茶道の言葉にもあるように、『無駄なものをそぎ落とした究極の美』を追い求めるようになります。そういった庭を愛でる心は、日本人独特の『変わらない進化』の文化でもあります。鑑賞して美しいと思うだけでなく、そこに季節や時の移ろいを感じて自分を見つめ直すことができる、そのような心の機微を得られることこそ日本庭園の魅力ではないでしょうか」
日本庭園には、四季の魅力や樹木の美しさだけでない内面を見つめる静けさが備わっているのですね。
自宅の庭を日本庭園につくり変えるのはなかなかハードルが高いものですが、「ししおどし」ならば比較的に簡単に設置できそうです。ぜひ庭に設置して、静けさや風情を味わう暮らしを送ってみてはいかがでしょうか。
問い合わせ先
- 小杉造園
- 営業時間/8:30~18:00
- 定休日/日曜・祝日、年末年始
TEL:03-3467-0525 - 住所/東京都世田谷区北沢1-7-5
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 長祖久美子
- EDIT :
- 青山 梓(東京通信社)