「わかりかねます」とは、「わかろうとしてもできない」を意味する敬語で、「理解できない」「わからない」ことを丁寧に表現した言葉です。ビジネスシーンでは頻繁に使われますが、使い方次第では慇懃無礼と受け取られ、先方の気分を害してしまうことも。正確な意味を知り、細心の注意を払って使いましょう。
【目次】
間違えたら恥ずかしい! 「わかりかねます」の基礎知識
■「わかりかねます」の正確な「意味」
まずは「わかりかねます」を分解してみましょう。「わかりかねます」は、動詞「わかる」の連用形+補助動詞「かねる」の連用形+丁寧語「ます」で構成されています。
「わかる」は「知っている」「理解している」という意味の動詞です。厳密には「分かる」「解る」「判る」の3つの漢字を状況に応じて使い分けますが、一番汎用性が高いのは「分かる」で、ひらがなでも問題ありません。
「かねる」は、動詞の連用形に付いて、【…し続けることができない。…しようとしてもできない】という意味を表す補助動詞です。例えば、「(お希望には)沿いかねます」「いたしかねます」「お答えしかねます」など、丁寧なお詫びやお断りが必要なシーンでよく使われます。
つまり、「わかりかねます」とは、「わかることが難しい」を意味する敬語で、「わからない」「理解できない」ことを、婉曲かつ丁寧に表現した言葉です。「お答えしたいのですが、私にはお答えすることができません」といった謝罪のニュアンスも含んでいるため、同じく敬語表現の「わかりません」よりも、やわらかな印象を与えることができます。
ちなみに、「かねる」の漢字は「兼ねる」ですが、補助動詞はひらがな表記するのがルールなので、「わかりかねる」が正解です。
■「わかりかねます」は印象が悪い?その 理由は?
「わかりかねます」は、丁寧語の「ます」を使った敬語表現ですから、目上の方に対しても使用できます。ただし突き詰めてみれば、「わかりません」を丁寧に言っているだけ。やる気のなさや責任回避の姿勢を相手に感じさせてしまうこともあるので、軽々しく使うのは避けましょう。
特にクレーム対応などで連発すると、どこか他人事のように聞こえるため相手に不信感を与えてしまい、「じゃあ、どこに相談したらいいの!!」など、さらに怒らせてしまう可能性があります。そうした場合は、後出の「例文」を参考に、真摯に対応する姿勢を“具体的に”示すことが大切です。
■「わかりかねません」とはどういう意味?
「〜かねない」とは、動詞の「かねる」の未然形に、打消の助動詞「ない」が付いたものです。【…しないとは言えない。…するかもしれない】という意味で、「あの人ならしかねない」=「あの人ならするかもしれない」などと使います。
つまり、「わかりかねません」は、「わかってしまうかもしれません」という意味です。主語を自分として、「私は〜だとわかってしまうかもしれません」といった言い方はしませんね。第三者の行為に対して、「○○さんであれば、わかりかねません」=「○○さんであれば、わかってしまうかもしれません」という使い方であれば、間違いではありません。
また、「わかりかねません」を「わかりません」という意味で使用するのは誤用です。
■「わかりかねます」を使うときの「注意点」
「わかりかねます」は、過去を指す表現としては使用しません。「わからなかった」と伝えるのであれば、「わかりかねました」と言うよりも、「わかりませんでした」が自然です。
どんなケースで使う? 職場やメールでこのまま使える「例文」3選
「わかりかねます」は、「わかりません」の婉曲表現です。冷たい対応だと思わないためにも、状況説明をきちんとする気遣いが必要です。クレーム対応等では、先方をたらい回しにするような印象を避けるためにも、引き継ぎのための具体的な対応策を示したり、「大変恐縮ですが」などと丁寧なひと言を添えるのがよいでしょう。
■1:「わたくしではわかりかねますので、担当者にすぐに確認いたします」
■2:「大変申し訳ございませんが、専門外でわかりかねます」
■3:「当方ではわかりかねますので、○○課におつなぎいたします」
似た意味をもつ「言い換え表現」で語彙力と好感度アップ!
「わかりかねます」と同じ意味で、敬語表現として使える類似語や言い換え表現は多数あります。ビジネスシーンで使いやすい例を挙げましょう。
■1:「存じ上げません」 ■2:「存じかねます」■3:「お答えしかねます」■4:「対応しかねます」 ■5:「確認できかねます」
■1の「存じ上げません」も■2の「存じかねます」は、「わかりかねます」よりも丁寧な敬語表現です。
■3〜5はそれぞれ、シンプルな「わかりかねます」よりも、発言者の立場を踏まえて、少々具体的なニュアンスを含んでいます。状況に応じて、適切に使い分けられたらスマートです。
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いかがでしたか?「わかりかねます」という言葉は、こちらの気持ちを丁寧に伝えたつもりであっても、所詮は「わからない」という否定的な言葉です。やる気がない、あるいは慇懃無礼と取られないためにも、慎重に使いたいものですね。
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- Precious.jp編集部
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『すぐに使えて、きちんと伝わる敬語サクッとノート』(永岡書店)/『大人なら知っておきたいモノの言い方サクッとノート』(永岡書店)/『とっさに使える敬語手帳』(新星出版社) :