「ご教授」は、この連載の第9回で取り上げた「ご教示」ととてもよく似ている言葉です。「ご教授ください」や「ご教授いただけますと幸いです」など、ビジネスシーンでもよく目にするフレーズですが…ちょっと待って! 実は「ご教授」の使用には決まりごとがあるのです。「ご教授」と「ご教示」の違いをはっきり理解していないと、不適切なフレーズを使ってしまうかも…。今日は「ご教授」について、すっきり解決していきます。

【目次】

正しく「ご教授」を使えていますか?
正しく「ご教授」を使えていますか?

ズバリ解決! 「ご教授」と「ご教示」の違い

■まずは「ご教授」の意味

『デジタル大辞泉』の「教授」の欄には、

【1 学問や技芸を教え授けること。「書道を―する」】

【2 児童・生徒・学生に知識・技能を授け、その心意作用の発達を助けること。】

【3 大学や高等専門学校・旧制高等学校などで、研究・教育職階の最高位。また、その人。「大学―」】

と記載されてます。

耳慣れているのは3の意味で、専門的な知識や技能を教える人をさす使い方。その場合、どんなに権威のある教授でも「ご教授」とは言いませんね。したがって「ご教授」とする場合は、1や2の教えるという行為の「教授」に接頭語の「ご」を付けた敬語表現となります。

■「ご教示」との違い

「ご教示」とはどう違うのでしょう。連載第9回目でも紹介しましたが、「ご教示」は専門的な知識や具体的な方法・手順など、その時に必要な事柄を「理解できるよう教えてほしい」といった場合に使う言葉。「最寄駅から徒歩何分くらいかかるか知りたい」という程度のことには使いません。この場合は「何分くらいかかるか教えてください」や「何分くらいかかるでしょうか」が適切です。

一方の「ご教授」は、専門的な知識や技能が「身につくまで継続的に教えてほしい」という、双方にそれなりの覚悟が必要な場合に使います。学問や特殊技能、芸能やスポーツといった専門的な知識・スキルを教えるというニュアンスがあるので、ビジネスメールなどで気軽に「ご教授ください」とは使えないフレーズだったのです。

ビジネスでそのまま使える?「適切例文」「不適切例文」

では、「ご教授」の例文を見ながら、適切なシチュエーションを解説します。

■1:「辛抱強くご教授いただき、ありがとうございました」

■2:「長年にわたり丁寧なご教授、ありがとうございました」

お世話になった方へのお礼のフレーズ。ビジネスシーンでは、上司や先輩などから時間をかけて特殊なスキルを伝授された場合などに使えます。

■3:「ご教授いただけますと幸いです」

■4:「上記内容につきまして、ご教授願います」

■3・4は“お願いフレーズ”ですが、通常のビジネスで使うなら「ご教示」や「ご指導」に言い換えたほうがよさそう――。ビジネスシーンで「ご教授」が適切なのは特別なシチュエーションで、かなりの時間をかけて学ばなくてはならないようなことを教えてもらう場合のみ、と考えて間違いありません。

「ご教授」をビジネスで…「類語」とそのまま使える「言い換え例文」

実は気軽に使えなかった「ご教授」ですが、的確でよりビジネス向きの類語「ご指導」「ご指南」「ご教示」を使った言い換え例文をご紹介します。

■1:「慣れないことが多くご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが、よろしくご指導ください」

■2:「〇〇様のお仕事ぶり、以前から敬服しておりました。ご指南のほどよろしくお願いいたします」

■3:「申請書の書き方をご教示いただけますでしょうか」

「ご教授」を使うときの「注意点」まとめ

最後に、「ご教授」の使用に際しての注意点をまとめておきます。

■継続的な教えに使用するのが「ご教授」

「ご教授ください」や「ご教授ありがとうございました」は、専門的な知識や技能をしっかり身につけたい場合や、身につけた(あるいはそうなるよう教えてもらった)場合にのみ使用します。

ビジネスでは「教示」「指導」「指南」のほうが使いやすい

ビジネスシーンでよく見る敬語フレーズも、正しく使われているとは限りません。迷ったり怪しいと感じたら、言い換え表現も考えてみましょう。難しい言葉を使うのが敬語ではありません。“敬意をもってわかりやすく表現すること”が、肝心ですね。

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今日の「ご教授」は、「間違って気軽に使っていたかも!」とドキリとした人も多いのでは? 敬語を上手に、スマートに使いこなすには、めげずに継続して学んでいくことが大切です。まさに「教授」、頑張りましょう!

この記事の執筆者
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