ビジネスシーンでメールや手紙、荷物を受け取ったとき。「拝受」という言葉はよく使われます。ただし、日常生活ではあまり馴染みのない言葉だけに、正しい意味を理解していない人も多いようです。「拝受いたしました」は二重敬語?という問題も含めて、詳しく解説します。

【目次】

「拝受いたしました」は二重敬語?
「拝受いたしました」は二重敬語?

「拝受」の「意味」は?「受領」とどう違うの?

ビジネスのシーンではよく使われる「拝受」という言葉。その意味や「受領」との違いについて解説します。

■「拝受」の「意味」は?

「拝受」は「はいじゅ」と読みます。「拝」という漢字は、「拝(おが)む」という訓読みからもわかるように、自分のことをへりくだる意味を含んでいます。「拝受」には、【つつしんで受けること。ありがたく頂戴すること】という意味があり、自分が何か「受けとった」ことをへりくだって表現した謙譲語です。

■「受領」との「違い」は?

「受領」は、単に【受けおさめること。金や物を受け取ること】。敬語のニュアンスはありません。つまり「拝受」は、「受領」を敬語表現した言葉と言えます。従って、取引先や目上の方、上司など、敬意を表すべき相手に対しては、「拝受」を使うのが正解です。同僚や部下に対しては、「受領しました」で差し支えありません。

「拝受いたしました」は「二重敬語」?

「拝受いたしました」は二重敬語であるという記載を見かけます。そうなると「拝見いたしました」「拝読いたしました」も誤りなのでしょうか?……ご安心ください。「拝受いたしました」は、二重敬語ではありません。

そもそも二重敬語とは、「ひとつの語において、同じ種類の敬語を二重に使ったもの」で、一般的に適切ではないとされています。「『拝受いたしました』は二重敬語である」という意見の根拠は、「受領」の謙譲語である「拝受」に、「する」の謙譲語「いたす」が組み合わさっているため、というもの。確かに、謙譲語が二重に使われていますね。

でも実は、謙譲語には2種類あるのをご存知ですか? 正確には、2007年の文化審議会答申「敬語の指針」において、それまで一般的だった尊敬語・謙譲語・丁寧語という敬語の3分類に代わり、尊敬語、謙譲語I、謙譲語II、丁寧語、美化語という5分類が採用されたのです。これにより、従来の謙譲語は、謙譲語Iと謙譲語IIに分かれました。謙譲語Iと 謙譲語IIの違いは、「敬意を向ける相手」が異なること。

<謙譲語I>…動作や行為の向かう相手に対する敬語

<謙譲語II>…聞き手に対する敬意を表す敬語

具体的に謙譲語IIには、「まいる」「申す」「いたす」「存じる」などがあります。
「拝受いたしました」を例に考えると、「拝受」は「受けとるという行為が向かう相手」に対する敬語〈謙譲語Ⅰ〉。そして「いたしました」は、聞き手に対する敬語である〈謙譲語II〉に相当します。敬語の種類が違うため、二重敬語にはならないのです。
同様に、「拝見いたしました」「拝読いたしました」も二重敬語ではない正しい日本語と言うことができます。

「拝受いたしました」という場合の「意味」

「拝受いたしました」は、メールや手紙、荷物を受け取ったとき、送り主への報告の意味合いで使われる言葉ですが、「拝受」は文字通り「受け取ったこと」を意味する言葉のため、内容についての確認・精査はされていないケースが多いのです。「拝受しました」という連絡を受けたからといって、内容に問題がなかったと安心することはできないということです。

ビジネスでそのまま使える「拝受」の「例文」5選

「拝受」の使い方について、例文とともに説明しましょう。

■1:発注書、確かに拝受しました。取り急ぎご報告まで。

郵送の不備がなく、受け取ったことを早急に相手に知らせる場合に限り使います。「取り急ぎ」と書く以上、後日きちんと連絡をとることが前提の文章です。ただし、「〜まで」には「〜にすぎない」という意味もありますので、目上の方に使うのは避けたほうが無難です。

■2:拝受のご連絡とお礼にて失礼させていただきます。

受け取りました」という報告と感謝の気持ちを簡潔に述べた表現です。文章の締めとして使う言葉ですので、この後に長々と文章を続けるのは不自然です。

■3:「先ほど、品物が届きました。まずは拝受のお礼まで」

「受け取った」事実と感謝の気持ちを急いで知らせる際に使われる表現です。例文1同様、後日改めて連絡をしましょう。

■4:お送りいただきました資料を拝受いたしました。早々のご対応をありがとうございます。

「拝受いたしました」は正しい日本語表現です。

■5:「早々のご対応をありがとうございました。まずは拝受のご連絡まで」

「まずは拝受のお礼まで」同様、間違いなく受け取ったことを、急ぎ知らせる文章です。ただし、「拝受のご報告まで」のみでは、感謝のニュアンスは含まれません。お礼の言葉を必ず添えて使いましょう。

「拝受」と同じ意味で使える「類語」「言い換え表現」

「受け取る」を意味する謙譲語の「拝受」には、類語がいくつかあります。

■頂戴 ■たまわる ■いただく ■拝領

「頂戴」は「もらう」もらうことの謙譲語。賜わること。いただくことの意味もあり、「拝受」と同じように使えます。特に飲食物に関しては、「頂戴」が使われ、他に「気遣い」など目に見えないものに対しても使うことができます。「拝領」は、「目上の人、身分の高い人から物をいただくこと」を意味します。後代まで存続することのできるもの、大切なものをもらうときにも使われる言葉ですので、ちょっとしたお土産などを受け取った時に使うと、仰々しく感じられてしまうかもしれません。

「拝受いたしました」に返信は必要?

「拝受いたしました」という連絡をもらったら、「ご丁寧に連絡くださり、ありがとうございました」と返信するのがスマートです。

ただし、気心の知れた相手であれば、わざわざ返信する必要はないかもしれません。相手との距離感や関係などを考慮して、判断してくださいね。

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「拝受いたしました」は、メールや手紙、荷物を受け取ったことを相手に知らせる正しい謙譲表現です。ただし、「敬語表現の5分類」が採用されたのは比較的最近のことであり、少なくとも30代以上は学校などで学習していない人がほとんどです。「誤用」と思っている人もいるので、無理に主張せず、周囲の反応に合わせて使用しましょう。「空気を読む」能力も、ビジネスマナーの達人になるために必要な素養です。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂)/『とっさに使える敬語手帳』(新星出版社)/『くらべてわかる日本語表現文型事典』(Jリサーチ出版)/『すぐに使えて、きちんと伝わる敬語サクッとノート』(永岡書店) :