ビジネスシーンでは、ほめられたりもち上げられたりした際に使われることが多い「とんでもないです」。謙遜を表現するフレーズですが、若干カジュアルな気もする…というあなた、正解です!「とんでもないです」は正しい敬語ではありません。せっかくほめてもらったのに、失礼な返答では台無しです。今日は、ビジネスシーンで「とんでもないです」の正しい言い換えを知り、堂々と使いこなせる術を学びましょう。
【目次】
「とんでもないです」は誤用?【基礎知識編】
■「とんでもないです」を語学的に解説すると…
まずは正しい意味を理解しましょう。「とんでもないです」は、「とんでもない」という形容詞と、断定の意味を表す助動詞の丁寧表現「です」から成り立っています。
「とんでもない」の語源は「途でもない」。「途」には、道筋や道のり、道理、方法などの意味があり、「途でもない(とんでもない)」は、「道理から外れている」という意味が。現在は下記の3つの意味で使われています。
1.思いもかけない、意外である(予想できない場合に)
例:とんでもないことが起こった
2.もってのほかである(あってはならない場合に)
例:とんでもない誤解だ
3.まったくそうではない、滅相もない(否定や謙遜する場合に)
例:とんでもございません
今回は、ビジネスシーンで使用頻度の高い、3の謙遜の意味で使われる表現を取り上げます。
■「とんでもないです」「とんでもありません」は正しい?
「さりげない」や「せつない」と同じように「とんでもない」で一語なので、「とんでもないです」や「とんでもありません」、「とんでもございません」は正しい日本語ではありません。「せつない」を「せつございません」とは言いませんよね。「形容詞+です・ます」は誤用なので、「とんでもない+です」も本来はNG表現。正しくは「とんでもないことです」や「とんでもないことでございます」となります。
しかし、「とんでもございません」という表現については、文化庁の「国語に関する世論調査」(平成25年度実施)で【「相手からの褒めや賞賛などを軽く打ち消すときの表現」として使うことは問題がないとされている言い方である。】と報告されています。このように、現代では「とんでもございません」に違和感を覚える人が少なくなり、ビジネスシーンでもよく使われています。むしろ正しい「とんでもないことでございます」のほうが、オーバーで違和感のある表現かもしれません。
■使える「相手」は?
謙遜や、丁寧な表現で否定するフレーズなので、取引先や上司など目上の人に。自分と同等以下の人にほめられた場合の返しには「とんでもない」でOKですが、状況によっては謙遜するより「ありがとう」とストレートにお礼を述べたほうがスマートですね。
ビジネスで「使えるシーン」と正しい「言い換え」3選
次に、「とんでもない」をビジネスで使った例文をシーンごとに見ていきましょう。あわせて正しい言い換え表現も紹介します。
■1:上司である部長から仕事ぶりをほめられた
例:とんでもありません。部長や先輩方のご指導のおかげです。
言い換え:おほめいただきありがとうございます。部長や先輩方のご指導のおかげで、無事に達成できました。
■2:取引先からあなた方の尽力のおかげで商品が売れたと感謝された
例:とんでもございません。お役に立てて光栄です。
言い換え:恐れ入ります、身に余るお言葉です。御社の商品の素晴しさを多くの人に知っていただけて、私どもも大変光栄に思っております。
■3:取引先が過失を認めて謝罪してきた場合
例:とんでもございません。こちらこそ申し訳ございませんでした。
言い換え:恐縮です、ご丁寧にありがとうございます。こちらも確認が足りず失礼いたしました。
ビジネスシーンでは、基本的に「とんでもない」を「謙遜」の意味で使用しますが、相手に「否定」と取られてしまうことがあるかもしれません。言いきりで終わらずに「こちらこそ…」や、感謝の気持ちを添えるのが、大人のマナーです。
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今日の「とんでもない」は、敬語表現にすると少々使い方が難しいフレーズでした。「とんでもないです」と謙遜するより、相手の気持ちを受け入れて返答する方が、気持ちのいいコミュニケーションが図れる場合も。状況に応じて言い換え表現も上手に使いたいものです。
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- Precious.jp編集部
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