年々、年老いていく親の住む実家。長年の暮らしのなかで積もり積もった、どうしても「捨てられないモノ」を目にするたび、「子供である自分がいずれ整理・片づけをしなければいけないのだろうか…」という思いが頭をよぎる方もいらっしゃるのではないでしょうか。ですが、実際に片づけに着手するのもなかなか骨が折れるものですし、「どこから着手したものか…」と判断が難しいところです。

今回は、これまで1875件以上の遺品整理を経験し、実家の片づけについての著書を多数執筆してきた、「遺品整理の埼玉中央」代表の内藤久氏に、具体的な実家の片づけ術についてお伺いしました。

そこでお伺いしたのは、遺品整理の現場に直接出向き、依頼者の生の声を聞いてきた内藤氏だからこその、ポイントの数々。ご高齢の親をもつ方はぜひご一読ください。

生前整理ってどこから着手すればいいのでしょう?

親の存命中、実家のモノはそのままでもいい?

——「久しぶりに実家に帰省してみたら、親の住む家のモノの多さに唖然としてしまった」という声を聞くことが少なくありません。子供からしてみるとつい片づけたくなってしまいますが、実際のところはどうすればいいでしょうか?

「みなさん『生前整理』と聞くと、多くの方はまず『不要なモノを処分する』ことをイメージされますが、私がこれまでの経験を踏まえて思うのが、親の存命中に無理をして実家を片づけるのは現実的には難しいということです。

いくら家族とはいえ、よかれと思った子供が不用品を勝手に処分するのは、親からしてみれば、生きているうちに自分のモノを捨てられるわけですから、あまりいい気持ちがしないものです。私が今まで見てきたなかでは、強引に片づけようとした結果、親から実家への立ち入り禁止を言い渡された、という最悪のケースもありました」

——なぜそのようなボタンのかけ違いが生じてしまうのでしょうか?

「まず、生前整理の具体的な方法論に入る前に、それが『誰のための片づけ』なのかを改めて考えていきましょう。実家の生前整理の場合、なぜ子供の側が片づけをしなければと思うのかといえば、多くの場合、子供である自分自身が『将来自分にかかるであろう負担』を軽減しようと思うから。それはいわば『自分のための片づけ』です。しかし、親からしてみれば子供側の勝手な事情にすぎません。そこでボタンのかけ違いが発生するわけです。

一方、『棚の上の荷物が落ちてくると危ないから、片づけておくね』『廊下でつまづくといけないから、新聞ケースは処分しておくよ』と親への配慮・思いやりにもとづく片づけであれば、今度は親も耳を傾け、すなわち『親のための片づけ』になります。

ところが、私が1875人以上の方の声を聞いて、現場をみて思ったのは、ほとんどの方が、『いずれ自分がやらなければならないんだ』ということを全面的に出して行動してしまうのです。そうなると、大半の場合は失敗します」

生前にするべきことは判断基準の共有

——では、親が健在なうちにするべきことはなんでしょうか?

「親も子も、お互いに『片づけた方がよい』と思っていることがほとんどですが、現実に整理がはかどらない理由は、親と子では判断基準が違うからです。

40代以上の方であれば、おそらく70代、80代以上の世代の親をお持ちの方が多いのではないでしょうか。この世代の方々は、教育上、『物を大切にする』ことを教えられてきた世代です。さらに、戦争やオイルショックなどの体験や、それまで家を共にしてきた家族との大切な思い出も重なり、家に残っているモノは『家を支え、時代を生き抜いてきた』ことの証でもあります。

例えば、よく70代、80代の方のお部屋に行くと、押入れには必ずといっていいほど客間の布団や座布団があります。それはお客様に対する『おもてなし』の心の表れですから、決して悪い習慣ではありません。もちろん、本人は押入れにお布団が入っていることになんの不自由も感じていないわけです。それなのに、子供が『もうお客さんが来る機会もないだろうから捨てたら?』なんて言ってしまったら、やはり親としてはカチンときてしまうものです」

押し入れに必ずといっていいほどある客間の布団。なかには長年使われていないものも?

生前整理で大切なことは、親が何を大事にしているのか、何を残したいと考えているのか、その判断基準を共有すること。ですから、親のモノを今すぐに捨てようとしてはいけません。子どもの判断基準で『いる』『いらない』を決めて捨てるのではなく、親の判断基準を知っておくことが、その後の片づけのカギになります。

例えば、母親の衣装ケース。子供の立場からすると『もう着ないでしょ』というお洋服もありますよね。そして、仮にご本人が亡くなり、遺品整理をした場合。30年前のボロボロのワンピースを見たときに、『そういえば、これは私の小学校の入学式に母が着ていた思い出の洋服だったな』と思い返して、遺品整理が思うように進まない…、という方も少なくありません。もしくは、亡くなった父親の後ろ姿を思い出してしまうからと、背広をそのままにしているという方もいます。生前に引き継ぎしておくべきはこの部分なのです。

たくさんある洋服のなかで、『親自身はどれに一番思い入れがあるのか』がわかれば、遺品整理のときにも躊躇なくそれ以外の服を処分できるんです。判断に迷いが生じないので、後々後悔することも少なくなるでしょう。」

モノにまつわる思い出話を聞くことが整理の鍵になる

——どんな風に親とコミュニケーションをとっていけばいいでしょうか?

「モノを視点にしたコミュニケーションをとりましょう。具体的には、昔話を聞くだけで構いません。例えば、『このワンピースはどうしたの?』と聞けば、『このワンピースは姉に譲ってもらったけれど、サイズが合わなくて、捨てるのももったいないから保管していたんだよ』などと、自然に答えてくれ、親の思い入れの程も伺えます。

こういった会話をしておけば、子供に残しておきたいモノがどれなのかわかり、亡くなった後も迷いなく不用品を処分できるのです。なんでもないことのようですが、親と生前のコミュニケーションをとっておくだけで、その後の遺品整理で残すモノが変わってきます。重要なのは、モノに対する親の思いを理解すること。捨てるかどうかの最終判断は子どもの心の中ですればいいのです。」

何気ない会話を通じて、親にとって思い出の1着はどれなのか把握して置くのが鍵(img : Forewer / shutterstock)

——子どもとして気になるのが親の財産についての情報です。しかし、親とはいえ、急に尋ねるのも違和感があります。どんなコミュニケーションをとれば良いでしょう?

「まず自分自身のことを相談する形でコミュニケーションをとりましょう。 『自分はこうしているんだけどお母さんはどうしているの?』と聞いてみるのが一番です。具体的には、『我が家では、通帳は書斎の引き出しの中に置いてるんだけど、大丈夫かな? お母さんはどうしてるの?』と助言を求めます。子供に相談されれば、親も気分を害さずに「うちはこうしてるよ」などとアドバイスをしてくれます。

さらには、財産管理について、相談し合ううちに、忘れていた財産を親が思い出すきっかけにもなるかもしれません。例えば、銀行口座の確認。本人が忘れてしまえば家族でも確認しようがありませんから。

もちろん、あまり実家に帰ってこない子どもがいきなり『通帳はどこに置いてるの?』などと聞けば、親だって警戒しますし、機嫌を損ねることになってしまいます。日ごろからコミュニケーションをとることが大切です。

ちなみに、金融機関に死亡の事実が伝わると、口座が凍結されます。凍結して困るのは、公共料金の引き落としが止められており、死後にいざ片づけようと家に入った際、暗い部屋のなかで電気がつけられなくなってしまうことです。私たち遺品整理業者も、現場に入ってみたら電気がつかない状態で、止むを得ず電力会社に事情を話して復旧してもらうときもあります」

生前から親の希望を聞いておくだけでも不安や後悔が少なくなる

——最後にアドバイスをお願いします。

「親が亡くなった後、今まで実家にあったモノが遺品になると、途端に見える光景も変わります。親の死後はお葬式の手配や相続の手続きなどに忙殺され、休む暇もありません。問題は、その忙しさから解放されたとき。さまざまな不安や後悔、そして悲しみの感情が遅れてやってきます。気持ちを切り替えることがなかなかできず、遺品整理を先延ばしにしてしまうという方も非常に多いです。

もちろん、親の死をドライに割り切りなさいという意味ではありません。親自身から死後の希望を聞いておくだけでも、不安や後悔がいくらか少なくなるということです。ふと会話のなかで親が何を大切にしているのかを聞いておく。それが片づけをするうえで大いに助けになってくれます」

「生前整理」と聞くと、肩の力が入ってしまいますが、今回内藤さんにお話いただいた「実家の引き継ぎ」という観点で考えると、やるべきことの優先順位もハッキリしてくるかもしれません。また、日ごろの親とのコミュニケーションを改めて見直すキッカケにもなるのではないでしょうか。ぜひご自身でも実践していただければ幸いです。

 
内藤 久さん
(ないとう ひさし)1960年生まれ、東京都出身。京王プラザホテル、シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル勤務を経て現職。遺品整理の作業累計はこれまで約1875件。主な著書に『もしものときに迷わない遺品整理の話』(SB新書)、『親が死んだとき後悔する人、しない人の実家の片づけ』(経済界)など。
「図解 親ともめずにできる これがリアルな実家の片づけです。」内藤 久・著 ディスカヴァー・トゥエンティワン刊
この記事の執筆者
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EDIT&WRITING :
青山 梓(東京通信社)
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