「育ててもらった歌舞伎に恩返しをしたい」俳優・中村隼人さん

俳優・中村隼人さん
ジャケット¥290,000・ニット¥195,500・パンツ¥115,000(クリスチャン ディオール〈ディオール〉)
すべての写真を見る >>
中村隼人さん
なかむら・はやと 1993年、東京都出身。二代目中村錦之助の長男として誕生。2002年2月、歌舞伎座『菅原伝授手習鑑 寺子屋』の松王丸一子小太郎で、初代中村隼人として初舞台を踏む。以降、古典歌舞伎の舞台出演を重ねる一方、スーパー歌舞伎II 『ワンピース』や『新版 オグリ』などの新作にも挑戦し、歌舞伎の可能性を広げている。ドラマやCMのほか、料理番組にも出演。2023年には、主演作・BS時代劇『大富豪同心 参』(NHK) 、舞台『巌流島』(明治座ほか)を予定。

「背負うものなき道の険しさ台詞のない役で正座を続けた」

瞳の奥に宿す温かさ、醸し出す品格に魅せられ、ふっと場が和らぐ。周囲を笑顔にする、唯一無二の華のある人だ。

 梨園で女方の家系に生まれた隼人さんが、立役を目指そうと決めたのは16歳のとき。人間国宝・坂東玉三郎さんにその才を見出されて相手役を勤め、「あなたはこの道で進みなさい」と背中を押された。しかしそれは、代々続く役というレールのない道程だった。
「歌舞伎には家ごとに継承すべき演目があるのですが、転向した僕にはないのでお稽古も探り探り。自由という見方もあるかもしれないけれど、重さを“背負っていない”ことが悔しかったですね。舞台に上がっても台詞のない役で、1時間正座しながら先輩方の芝居を眺める日々。『自分は必要とされているのだろうか』という葛藤は長くありました」

俳優・中村倫也さん
俳優・中村隼人さん

転機は23歳。スーパー歌舞伎II『ワンピース』で、サンジ役に抜擢された。スーツを着て、刀を使わずに蹴りで戦うキャラクター。大好きな漫画が原作だったからこそ、一ファンとしては、驚きと迷いがあったという。

「でも、あるものを大切に守るだけでは、新しいお客様には振り向いていただけない。一見、歌舞伎から最も遠く感じる役をどうやって表現しようかと試行錯誤するなかで、時代の流行を取り入れて歴史に残してきた歌舞伎が本来もつ柔軟性に触れたんです。さらに、自分がつくり上げたものに評価をいただき、結果それが次の仕事につながっていく…という変化を肌で感じて。なにより、それまで歌舞伎を知らなかった方も含めて、たくさんの人が楽しんでくださったことが本当にうれしかった。自分にとって大きな糧となり、腐らずに努力していたら報われるはずだと信じられるようになりましたね」

「自分で金字塔をうち立てたら終わり。過去に生きるより、今を更新して成長する」

新作で、まだ見ぬ芸の扉を臆さず開けるのも、古典があってこそだという。追求するのは、先人に磨かれた“型”だ。
「古典の役は江戸時代から上演され続け、そぎ落とされたもの。20代そこそこの役者が何かオリジナリティを入れたとして、400年の歴史に勝てるわけもないんですよね。自分が教えていただくのは、本当に尊敬している先輩方ですから、いい意味で真似をしつつ、なぜそこに行き着いたか、なぜこの型になっているかを考えながら演じています」
 歌舞伎界に限らず、関わる現場で愛されるのは、何事も主体的に学ぶ姿勢に飾らない人柄が表れているからだろう。
「僕、メモ魔なんです。教えていただいたことは台本にもびっちり書き込んで、質問もめちゃくちゃしますね。大前提として基本は事前に勉強し、その“向こう側”を聞けるよう準備していけたらと。もともとは人見知りですし、嫌われたくない願望が強いタイプ。器用ではないので、自分をつくったところで見抜かれてしまいますから、弱い部分もさらけ出すようにしています」

俳優・中村隼人さん
俳優・中村隼人さん
すべての写真を見る >>

心に刻んでいるのは、俳優・浅野和之さんの『自分で金字塔を立てるな』という言葉。
「どれだけお客様が入っても、あれが当たり役だと言われても、過去の作品を自分で評価すると成長が止まる、と。仕事に限らず、人生で今がいちばんいいなと前向きに考えられるようになりましたね」

 2023年には、主演ドラマ『大富豪同心』の続編がスタート。舞台『巌流島』では、佐々木小次郎役でアクションにも挑む。
「今までやってきたことが通用するのか試される12か月。楽しみでもあり不安でもありますが、いい作品にすることで歌舞伎界も盛り上げて、恩返しをしたいです」


Precious.jpでは、さらに本誌未公開カット&未公開インタビュー内容を使った、WEBオリジナル記事も公開(11月18日予定)! 引き続きチェックをお願いします。

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

<問い合わせ先>

クリスチャン ディオール

TEL:0120-02-1947

関連記事

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
PHOTO :
前田 晃(MAETTICO)
STYLIST :
石橋修一
HAIR MAKE :
川又由紀(HAPP'S.)
WRITING :
佐藤久美子
EDIT :
福本絵里香