あなたは「させていただいております」という言い回しに違和感を覚えますか? 例えば、駅やショッピングセンターのトイレの入り口に「定期的に警備員が巡回させていただいております」というような張り紙がされていたらどうでしょう。「防犯のための巡回告知」や「犯罪やいたずら抑制のため」だと理解はできても、「利用者に向かってへりくだっている?」「二重敬語なのでは?」など、スッキリしない人もいるようです。今回は、そんなモヤモヤを解決します。
【目次】
【「させていただいております」は「敬語」として正しい?】
■フレーズの構成を確認
「させていただいております」は、「させてもらう」の謙譲語である「させていただく」と、「いる」の丁重語の「おる」、柔らかい印象になる丁寧語の敬体「ます」を組み合わせたフレーズです。
■二重敬語なのでは?
「二重敬語」は文法的に間違っているだけでなく、まわりくどくて意味が伝わりにくかったり、場合によっては馬鹿にされたように受け取られてしまう、特にビジネスでは注意したいNG敬語です。「二重敬語」はひとつの語に同じ種類の敬語を重ねること。上記で説明したように、「させていただいております」は謙譲語、丁重語、丁寧語からなり立っているので二重敬語ではありません。とはいえ、少しまわりくどい感じもしますので、ビジネスシーンでは、例えば「すでにいただきました資料は拝見させていただいております」と言いたいときなら、「~拝見いたしております」くらいがちょうどいいでしょう。
【「させていただく」の正しい「言い方」「使い方」】
この連載でも「させていただく」の用法についてはたびたび触れていますが、ここでおさらいします。
■「させていただく」は相手の許可が必要なシーンで
「させていただきます」は、相手の許可が必要なシーンで、そのことによってなんらかの恩恵を受けることを前提に使用するフレーズです。例えば約束したスケジュールを変更したい場合、「来週のミーティングを変更させていただくことは可能ですか?」などとうかがいますよね。この場合は「予定を変更すること」への許可を求めており、「予定変更は自分にとって都合のいいこと」なので適切な使用例です。
間違い例として「感動させていただきました」を挙げておきましょう。この場合は「感動しました」や「感動いたしました」が正解です。
■「させていただく」の多用は逆効果!
正しいシーンで正しく使用するにしても、「させていただく」の多用はNGと心得て。意味が伝わりにくくなり、うわべだけへりくだっているようだったり、わざとらしく聞こえてしまうことも。
【ビジネスで頻出する「間違い例文」で「言い換え」をチェック! 】
■1:×「弊社もキャンペーンに参加させていただいております」
〇「弊社もキャンペーンに参加しております」
■2:×「画像の解像度は350dpi以上を推奨させていただいております」
〇「画像の解像度は350dpi以上を推奨しています」
■3:×「昨年より御社を担当させていただいております」
〇「昨年より御社の担当を務めております」
■4:×「企画書を拝見させていただいております」
〇「企画書を拝見いたしました」
■5:×「御社の新製品を愛用させていただいております」
〇「御社の新製品を愛用しております」
■4の例のように、「拝見」「拝読」「拝聴」「拝受」など「拝」か付く単語は、自分の行動をへりくだることで相手を立てる謙譲語です。そして「させていただく」も謙譲語なので、「拝見させていただく」となると、トゥーマッチな印象に。“「拝〇」という言葉に繋げるのは「しました」がベター”と覚えておきましょう。
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「させていただきます」は、使用ケースやシーンを選ぶ、本来は使い方が難しいフレーズです。今回はその難しさに加え、敬語として間違っていると思われがちな、より使い方が難しい「させていただいております」について確認しました。敬語は簡素にストレートに、これが“大人の語彙力”というものです。
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- Precious.jp編集部
- 参考資料:『デジタル大辞泉』(小学館)/『「させていただく」の使い方 日本語と敬語のゆくえ』(角川新書)/『敬語マニュアル』南雲社/『とっさに使える 敬語手帖』(新星出版社) :