1月のピッティ期間中、大いに話題となったのが「グッチ・ムゼオ」あらため「グッチ・ガーデン」のリニューアル・オープンと、併設されていた「グッチ・カフェ」もリニューアルして「グッチ・オステリア」となるというニュースだった。しかも「グッチ・オステリア」を手がけるのは「2016年度世界ベストレストラン50」で第1位に輝いた「オステリア・フランチェスカーナ」なのだからファッション界のみならず、フード・ジャーナリストたちの間でも新生「グッチ・オステリア」は注目されていた。
オープニング・パーティ当日はシェフのマッシモ・ボットゥーラはじめ、その右腕である日本人スーシェフ(副料理長)、タカこと紺藤敬彦、もうひとりのスーシェフ、ダヴィデ・デ・ファビオら「オステリア・フランチェスカーナ」のメイン・スタッフが勢揃い。「オステリア・フランチェスカーナ」史上初めてのコラボレーションは、グッチ社長兼CEOマルコ・ビッザーリとマッシモ・ボットゥーラが同郷モデナ出身同士であることから生まれた。2017年にもボットゥーラはグッチとGQがコラボ製作したビデオ「The Performers」に登場するなど、グッチとの接近が噂されていた。かつてはボットゥーラの代名詞だった足下のニューバランスが最近はグッチになっている、という目撃情報も多く聞こえて来たほどだったからだ。
「オステリア・フランチェスカーナ」と「グッチ」が史上初めてのコラボレーション
世界最高のシェフ、マッシモ・ボットゥーラ
シェフに選ばれたのは「オステリア・フランチェスカーナ」スーシェフ紺藤さんの奥方でもあるメキシコ人女性カリメ・ロペス。まだ35歳ながらリマの「セントラル」や東京の「龍吟」そして「オステリア・フランチェスカーナ」と大陸を越えた世界のトップ・レストランで経験を積み「グッチ・オステリア」初代シェフとなったのだ。「グッチ・オステリア」では「オステリア・フランチェスカーナ」の世界観を凝縮、一部シグネチャー・ディッシュが本店よりもリーズナブルな値段で食べられる他、カリメが展開する南米、和食、イタリア料理と、現在世界で最も注目される3つの料理の境界線を越えた独自の料理を打ち出している。
例えば濃厚なパルミジャーノを使った「パルミジャーノ・クリームのトルテッリーニ」は本来ならば元祖「オステリア・フランチェスカーナ」でしか食べられない代表作。低温調理した子牛肉を包むパスタ生地には生命力あふれる有精卵を使い、去勢雄鶏のブロードとあわせたパルミジャーノ・クリームは旨味が数倍にも感じられる。本来世界一予約がとれないレストランでしか味わえない定番料理がフィレンツェでも楽しめるのだから、これはまず外せない。
「エミリア風シーザーサラダ」も「オステリア・フランチェスカーナ」ファンには心ひかれる料理。10年以上前からシーザーサラダをさまざまなパターンに作り替えて来たボットゥーラはアメリカ生まれのイタリア料理を、イタリア移民の象徴と位置づけている。「オステリア・グッチ」バージョンのシーザーサラダはパルミジャーノとニンニクのチップス、アンチョビとケイパーのクリーム、葉緑素パウダー、パルミジャーノ・クリームがレタスの下に隠されている。これらの分解した要素を口に含めば確かにあのシーザーサラダになるから面白い。しかも「パルメザン・チーズ」ではなく「パルミジャーノ・レッジャーノ」など本家イタリアの素材を使ってアメリカ生まれのシーザーサラダを超えるシーザーサラダとなった。
「エミリア・バーガー」は、本来モデナにある姉妹店「フランチェスケッタ58」でしか味わえない料理だが近年ではこれもまたボットゥーラの代表作となりつつある。これもまたアメリカのファーストフードに対しスローフード的解釈で挑んだアンチテーゼ的料理である。ハンバーガーはトスカーナ産キアナ牛100%、ケチャップの代わりにアチェート・バルサミコとマヨネーズを加えた特製ソースとサルサ・ヴェルデの酸味が味を引き締めている。モデナのあるエミリア地方はアチェート・バルサミコに代表される甘酸っぱい味、アグロドルチェが伝統の味なのだ。
カリメ・オリジナルの料理ならば、「カツオのトスターダ」はカツオのセビチェにワカモレソースとトルティージャをトッピングしたメキシコ・タッチの前菜だし、「サバのポン酢ソース」は「龍吟」はじめ日本での経験を活かしたオリエンタルな味付けだ。カリメはドルチェも優秀で「アマレーナのチーズケーキ」はチーズと生地を分解して再構築、苦みと酸味が心地よいアマレーナのソルベが全体をまとめる役割を果たしている。
本来イタリア語で「オステリア」とはホスト=もてなし、を語源とする家庭的な食堂、居酒屋の意味。その「オステリア」の名を冠したレストランがミシュラン3つ星を獲得したのも世界一になったのも「オステリア・フランチェスカーナ」が世界で初めてだった。その精神が注入された「グッチ・オステリア」が新たなオステリアの世界を切り開くか、どうか。カリメの仕事ぶりからはしばらく目が離せないはずだ。
■グッチ・オステリア
www.gucci.com/it/it/store/osteria-bottura
Piazza della Signoria 10 Firenze
TEL:+39-055-75927038
12:00〜23:00 無休
- TEXT :
- 池田匡克 フォトジャーナリスト