この連載をお読みの方なら、丁寧語は敬語表現のひとつであることはご存じですよね? 今回のテーマの「構いません」も、「気にしません」「差し支えありません」という意味の正しい敬語表現です。ただし、正しい敬語表現であるからといって、それが目上の方にも使える言葉であるとは限りません! 今回はその理由を詳しく説明します。

【目次】

敬語なら誰に使ってもOK…ではありません!
敬語なら誰に使ってもOK…ではありません!

【「意味」は?「構いません」を深く理解するための「基礎知識」】

■「意味」

「構いません」は動詞「構う」の否定形「構わない」を丁寧にした表現です。「構う」には「世話を焼く」「からかう」などの意味がありますが、多くの場合、打消しの表現を伴って用いられ、「気にする。気を遣う」「ほかのことに関わって、差し支えが生じる」という意味をもちます。つまり、「構いません」は「気にしません」「差し支えありません」という意味のフレーズです。

■「構いません」は「敬語」といえる?

「構いません」は「構わない」を丁寧に表した敬語表現です。


【さらに丁寧度を高めた「敬語」表現は?】

「構いません」は敬語表現ですが、尊敬語や謙譲語は使われていないため、敬意の度合いは高くありません。しかも、「(私は)気にしません」という主観的な「許容」や「許可」のニュアンスを伴う言葉です。「上から目線」な印象を与えてしまうので、取引先や目上の方に対して使うのは控えましょう。

■「差し支えありません」 ■「差し支えございません」

「差し支え」は「支障」「都合の悪い事情」という意味。「差し支えありません」は「問題ありません」「支障ありません」という意味であり、「私は気にしない」といった「許容」のニュアンスは含みませんので、上司など、目上の方に使ってOKです!取引先など、さらに丁重度を高めたい相手に対しては、「差し支えございません」が正解!


【ビジネスでそのまま使える「例文」7選】

■シーン1:許可を求められたとき

例文を読んでも、会話する両者の間に上下関係があるのがわかります。

・「企画書の提出ですが、金曜日でもよろしいですか?」「週明けでも構いませんよ」
・「企画書に記載したA案とB案、どちらがよいでしょうか」「どちらでも構いませんので任せます」

■シーン2:相手からの謝罪を受け入れるとき

相手からの謝罪に対し、「私は大丈夫ですよ」「気にしていませんよ」という意味で「構いません」が使われることがあります。深刻な状況ではなく、あくまで軽いミスに対するやり取りです。

・「うっかりしておりました。申し訳ございません」「構いませんよ。お気になさらず」
・「(待ち合わせに)遅れまして申し訳ございません」「電車の時間には余裕で間に合いますから、構いませんよ」

■シーン3:相手の許可を求めるとき

自分から許可を願い出るときにも「構いません」は使われます。「大丈夫ですか?」より丁寧な印象です。

・「先方の希望を優先すると経費がかさみますが、構いませんか?」

■応用編:何かをすすめられたとき

「構いません」の応用編は「お構いなく」です。直訳すれば「気にしないで」。例えば訪問先で「何かお飲み物を召し上がりますか?」と勧められたときに、「お気遣いなく」という意味で「お構いなく」という言葉が使われます。

・「恐れ入ります。どうぞお構いなく」
・「ありがとうございます。どうぞお構いくださいませんように」


【同じような意味で使える「言い換え」表現】

■問題ありません ■差し支えありません ■支障ありません ■大丈夫です 

■結構です

「結構」は「申し分ない」という意味の言葉です。「結構です」には「(私はそれで)満足です」といったニュアンスが伴うため、「構いません」同様、目上の方には避けたほうがよい言葉です。

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例えば長いお付き合いの取引先から「大丈夫?」と聞かれたら、とっさに「構いません!」と答えてしまうこと、ありますよね。丁寧な表現なのでつい使ってしまいがちですが、正しい意味を理解すれば、「構いません」が要注意ワードであることがわかります。言葉の使い方は相手との関係次第ではありますが、まずは基本を頭に入れて、状況次第では言い換える…こんな応用力こそが、大人の語彙力です!

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館)/『敬語マニュアル』(南雲堂) :