目上の方に何かお願いごとをするのは、いつも緊張するものです。「ご教示いただけますと幸いです」は、「教えてください」の敬意を高めた言い回しですが、その場の状況や「教え示す内容」次第では、少々大仰に聞こえる表現です。「教示」の意味や少々カジュアルな言い換え表現など、「ご教示いただけますと幸いです」を適切に使いこなすためのポイントを解説します。

【目次】

目上の方に教えを乞う言葉です。
目上の方に教えを乞う言葉です。

【「意味」は?「基礎知識」】

■意味

「教示」は「きょうじ」または「きょうし」と読みます。意味は知識や方法などを教え示すこと」。「教示」という言葉自体は敬語ではありませんが、「ご教示」とすることで、「教え示してくれる人」を高める敬語表現となっています。

「幸いです」は「ありがたいことです」の意。ビジネスメールなどでは、「~してくれるとうれしいです」「~してください」というお願いの意味で使われていますね。「幸い」というふんわりとした言葉で、依頼の文章から強制的なニュアンスを排除しているのです。

つまり「ご教示いただけますと幸いです」は、「教えてもらえるとうれしい」、もっと端的にいえば「教えてください」をやんわり丁寧にした敬語表現です。目上の方にものを頼むとき、特にメールなど書面では、対面とは違って相手から返事をすぐにもらえるわけではないので、疑問形で「ご教示いただけますでしょうか」と問いかけるよりも「〜していただけると幸い(うれしい・ありがたい)です」という表現が使われます。


【より丁寧な「敬語」表現するには?】

「ご教示いただけますと幸いです」は取引先や目上の人に対して使える敬語表現ですが、さらに丁重度を増した表現も覚えておきましょう。

■「ご教示いただけますと幸いに存じます」

■「ご教示賜りますようお願い申し上げます」

■「ご教示いただけますと幸甚に存じます」

「幸いです」にさらに格式をもたせると「幸甚に存じます」となります。「幸せであることが甚(はなは)だしい」ということを熟語で表現した言い回しです。

実は敬語には、その敬意の度合いにいくつかの段階があります。例えば、「行く」という動詞の敬語表現には「行かれる」と「いらっしゃる」などがありますが、動詞に尊敬の助動詞「れる」を付け加えたかたちよりも、別の動詞(この場合は「いらっしゃる」)に言い換えたほうが、敬意は高くなるという原則があります。さらに現代語では、「ご足労」といった名詞(特に漢語名詞)を使ったほうが、丁重度は上がるのがルール。そのため、「教える」よりも「教示」が、「幸い」よりも「幸甚」のほうが丁重度の高い表現となるのです。

ただし、かなり改まった表現ですので、日常的に使うものではありませんし、親しい間柄では大げさです。役職がかなり上の方、著名な方にお願いごとをするといった、相応に気を遣う場面でこそ生きてくる表現です。気軽に、あるいは口頭で使うのなら「〜幸いです」のほうが向いています。


【上司に対してビジネスで使える「例文」3選】

「ご教示いただけますと幸いです」は、上司や目上の人に何かを教えてもらいたいときに用います。厚かましい印象にならないよう気を遣う相手であれば、「差し支えなければ」「お忙しいところ恐縮ですが」「ご面倒をおかけいたしますが」など、クッション言葉をつけて使うといいですね。

■1:「企画書を作成しました。不備がございましたら、ご教示いただけますと幸いです」

■2:「ご多忙のところ恐縮ですが、新しいシステムの使用法をご教示いただけますと幸いです」

■3:「お差し支えなければ、先方の担当者様への具体的な対処法をご教示いただけますと幸いです」

前述の通り、「教示」の意味は「知識や方法などを教え示すこと」。簡単な知識や方法、手順などに対して使われる言葉です。言い換えれば、単に名称や数量などの確認に使うのは、大げさに感じられてしまいます。この場合は「いくつご入り用かお教えください」くらいの言い回しが適切です。


【少しカジュアルに。「類語」「言い換え」表現】

「教示」は一般的には「書き言葉」です。たとえ相手が敬意を示すべき方であっても、口頭で使うのは少々仰々しい言葉です。相手との関係性やその場の雰囲気を考慮すると、むしろ「お教えください」のほうが、自分の意図も誠意も相手に伝わりやすいことがあるかもしれません。

■「ご教示くださいませ」

■「お教えいただけますでしょうか」 

■「ご指導のほど、よろしくお願いいたします」

■「ご助言いただけますと幸いです」 

「教示」と似たニュアンスの言葉に「教授(きょうじゅ)」があります。「教授」は、「学問や技芸を教え授けること」。茶道や陶芸を習うときなど、継続的に教えを受けるときに使われます。一方、「教示」は長々と教えるのではなく「示す」という感じの、比較的コンパクトなイメージです。ちなみに「指南(しなん)」は、囲碁や将棋、剣道などの武術、日本舞踊や琴といった芸能などを、その指導者の理論や見識に基づいて教えることを指します。「学問・宗教・芸道などの奥義(おうぎ)や秘事を伝え授けること」という意味をもつ「伝授」同様、意味合いとしては「教授」に近いのでご注意を。


【「ご教示いただけますと幸いです」と言われたら?】

「ご教示いただけますと幸いです」と改まった表現で依頼を受けたら、こちらも誠意ある対応をするのがマナー。「ご期待に沿えるかどうかわかりませんが」「私では力不足かもしれませんが」など、謙虚な姿勢を示すクッション言葉で前置きしたうえで、自分の意見や質問の答えを述べましょう。最後に「お役に立てれば幸いです」などと締めてはいかがでしょうか。

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「ご教示いただけますと幸いです」は、「教えてください」をやんわりと丁寧にした敬語表現です。敬語表現は相手との関係性やその場の状況により、その敬意の度合いを微調整しながら使うことが大切です。この判断力こそが「大人の語彙力」といえそうです。

この記事の執筆者
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館)/『これ1冊であとはいらない! 大人の語彙力大全』(中経の文庫) /『ひと言で知性があふれ出す 大人の語彙力が身につく本』(かんき出版) /『とっさに使える敬語手帳』(新星出版社) /『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書) :