【目次】
【「他山の石」とは?「読み方」と「意味」「由来」】
■「読み方」
「他山の石」は「たざんのいし」と読みます。
■「意味」
「他山の石」は、他人のつまらない行動も、自分自身の教養・品格を高める助けとなったり、自分の行動の参考にできることのたとえです。自分にとっての戒めとなる他人の誤った言行を指すこともあり、それを反面教師にして自分を磨こうというニュアンスでも使われます。
■「由来」
「他山の石」は、中国最古の詩集である「詩経」に由来します。「小雅(しょうが)・鶴鳴(かくめい)」の一節に、「他山の石、以(もっ)て玉(たま)を攻(みが)くべし」とあり、直接的には「宝石が採れる山ではない、別の山から採ってきたつまらない石でも、宝石を磨くことはできる」という意味です。しかし、古来より、「つまらない人物の行動でも、そんなことはしないように心掛ければ、自分を向上させるための材料になる」と解釈されてきました。ここからさらに転じて、「自分とは直接の関係がないものごとからも学ぶことができる」という意味でも使われるようになりました。
【「使い方」がわかる「例文」】
■1:「今回の彼の失敗を他山の石と捉え、今後はいっそう自己研鑽に励もう」
■2:「人の失敗を笑ってすまさず、他山の石とできた人こそが次の成功者となるものだ」
■3:「他山の石という言葉を肝に銘じることで、他人の誤った言動にも、余裕をもって対処できるようになった」
■NG:「〇〇部長の仕事に対する取り組み方には感じ入るばかりです。部長を他山の石として頑張っていきたいと思います」
例文1〜3からは、他人の行動を反面教師とし、自分の今後に役立てようとする意図が伝わります。一方でNGの例文では、部長に面と向かって「あなたのやってることはつまらないことだけど……」と言ってしまったも同然。これではあなたが部長をリスペクトする気持ちは到底、伝わりませんね。
【「類語」「言い換え」表現】
■「反面教師」
「反面教師」とは、「悪い見本として反省や戒めの材料となる物事。またそのような人」を意味する言葉で、中国の政治家、毛沢東の言葉が由来。
■「人のふり見て我がふり直せ」
「人のふり見て我がふり直せ」は、「他人の行為を見て、よいものは自分も真似て、悪いものは気を付けよ」「わが身を振り返り、反省せよ」という意味です。「他山の石」には、よいことを見習うという意味はありませんので、ここが大きな違いです。
■「人を以て鑑と為す」
中国の『唐書』を出典とした故事成語です。「ひとをもってかがみとなす」と読みます。「他人の行動を見て、自らの行動を正そうとする」ことを意味する言葉で、「人のふり見て我がふり直せ」と同様、「お手本にすべき言動」を含んでいるところが「他山の石」との違いです。
【ほめ言葉ではりません!使う際の注意点】
「他山の石」は「他人の誤った言動も、自分自身の教養・品格を高める助けとなる」という意味の故事成語ですが、日常ではあまり使われなくなったせいか、文化庁の調査では正しい意味を理解していない人の割合が実に22.6%にも上ることがわかっています。
■「対岸の火事」とはそもそもの意味が違います!
「対岸の火事」と「他山の石」、このふたつは似ているようで大きく異なります。「他山の石」とは、他人の失敗や経験を自分の教訓として活かすことを意味します。一方、「対岸の火事」は、自分には関係のない他人の問題を指し、他人の困難やトラブルに対して無関心であることを表現します。注意すべきは、前者は他人の事例から学びを得ることであり、後者はただ傍観するだけで学びを得ようとしないこと。両者を混同しないようにすることが重要です。
■「他山の石」はほめ言葉ではないことを肝に銘じて!
「他山の石」は、他人の問題や欠点を自分にとっての反面教師として利用することを示しており、他人を批判して学ぶというニュアンスが含まれます。つまり、他山の石を使って自分を成長させることが求められており、その過程で他人の欠点や失敗を指摘することが前提。単に「良いことを学んだ」という意味ではなく、他人の悪い面を見て自分を改善しようという意図が込められているため、ほめ言葉として使うことは少ないのです。
■特に目上の人に向かって「他山の石」を使うのはご法度!
「他山の石」を目上の人に使うと、相手の欠点を暗に指摘しているように受け取られる可能性があります。特に敬意を払うべき相手に対しては、直接的な批判や否定を避けるべき。もし「他山の石」を使う場面がある場合は、相手の失敗を強調するのではなく、その経験から何を学び、どう自分に活かすかに焦点を当て、謙虚な態度で話すことが大切です。また、あくまで自分の成長を示す形で表現するよう心掛けましょう。
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「他山の石」とは、「他人の誤った言動も、自分磨きのヒントになる」という意味の故事成語。「他人のよい行動をお手本に」といったニュアンスで使用するのは誤りです。もしもオフィスで周囲の言動にイラッとする瞬間があったら、この言葉を思い出してみてはいかがでしょう。ただし、あなたのその思いは胸に秘めておくのが、大人の良識というものですよ。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館)/『故事成語を知る辞典』(小学館)/『一生分の教養が身につく! 大人の語彙力強化ノート』(宝島社)) :