「他山の石」は「他人の誤った言動も、自分自身の教養・品格を高める助けとなる」という意味の故事成語ですが、文化庁の調査では正しい意味を理解していない人の割合が実に22.6%にも上ることがわかっています。決してほめ言葉ではないことが、この記事を読んでいただければわかるはず! 要注意ワードの「他山の石」を正しく理解しましょう!

【目次】

「他山の石とさせていただきます」は褒め言葉ではありません。
「他山の石とさせていただきます」はほめ言葉ではありません。

【「他山の石」を深く理解するための「基礎知識」】

■「読み方」は?

「他山の石」は「たざんのいし」と読みます。

■「意味」を端的に言うと?

「他人の間違った発言や行動も、自分自身の教養・品格を高める助けとなる」という意味。

■「出典」と「語源」は?

「他山の石」の出典は、中国最古の詩篇(詩を集めた書物)である『詩経』です。「語源」は『詩経』の中の「小雅(しょうが)・鶴鳴(かくめい)」に出てくる「他山の石、以(もっ)て玉(たま)を攻(おさ)むべし」。この漢詩は「よその山から採れたつまらない石であったとしても、自分が玉を研ぐ砥石として使うことができる」という意味で、ここから転じて「他山の石」は「他人の誤った言行でも、自分の修養の助けとなる」という意味になりました。他人の誤った言動を反面教師にして自分を磨こう、とも解釈できますね。

文化庁が発表した平成25年度「国語に関する世論調査」では、「他山の石」を本来の意味で使っている人は全体の30.8パーセント、本来の意味ではない「他人のよい言行は自分の行いの手本となる」で使う人が22.6パーセントという結果が出ています。この連載を読んだ方は、ぜひ、正しい意味を覚えておいてくださいね。

■「他山の石」はことわざではなく「故事成語」です

大昔に起きた出来事やかつて存在したもので、今でも由来がはっきりしている事件、事項、主に中国の古典にある逸話のことを「故事」と言います。そして故事を語源とする慣用語句は「故事成語」または「故事成句」と呼ばれています。従って『詩経』を出典とした「他山の石」は「故事成語」。「教訓や知識、風刺などが時を経て言い伝えられた言葉」である「ことわざ」ではありませんので、区別して覚えておきましょう!


【「他山の石」の「使い方」がわかる「例文」3選】

■1:「今回の彼の失敗を他山の石と捉え、今後はいっそう自己研鑽に励もう」

■2:「人の失敗を笑ってすまさず、他山の石とできた人こそが次の成功者となるものだ」

■3:「他山の石という言葉を肝に銘じることで、他人の誤った言動にも、余裕をもって対処できるようになった」


【「他山の石」の「類語」「言い換え」表現は?】

■「人のふり見て我がふり直せ」

「人のふり見て我がふり直せ」は、「他人の行為を見て、よいものは自分も真似て、悪いものは気を付けよ」「わが身を振り返り、反省せよ」という意味です。「他山の石」には、よいことを見習うという意味はありませんので、ここが大きな違いです。

■「反面教師」

「反面教師」とは、「悪い見本として反省や戒めの材料となる物事。またそのような人」を意味する言葉で、中国の政治家、毛沢東の言葉が由来。

■「人を以て鑑と為す」

中国の『唐書』を出典とした故事成語です。「ひとをもってかがみとなす」と読みます。「他人の行動を見て、自らの行動を正そうとする」ことを意味する言葉で、「人のふり見て我がふり直せ」と同様、「お手本にすべき言動」を含んでいるところが「他山の石」との違いです。


【「他山の石」を使う際の注意点】

■「他山の石」は「よいお手本」の例えとしては使わない

「他山の石」は「よそのくだらない石」という意味です。よいことを見習うという意味はありませんので、「お手本にさせていただきます」の意図で「他山の石とさせていただきます」などと使うのは失礼に当たります。気を付けてくださいね。

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ビジネスシーンでは、敬意を払うべき大人の方から、故事成語を引き合いとした話をうかがう機会があるものです。話の意図を正確に受け止めるためにも、言葉の意味は正しく理解しておきたいものですね。繰り返しになりますが「他山の石」とは、「他人の誤った言動も、自分磨きのヒントになる」という意味の故事成語。もしもオフィスで周囲の言動にイラッとする瞬間があったら、この言葉を思い出してみてはいかがでしょう。

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参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館)/『一生分の教養が身につく! 大人の語彙力強化ノート』(宝島社)) :