2023年2月7日に発売された、Precious3月号には、2022W杯日本代表選手の田中 碧選手が初登場しています。美容家でエッセイストである斎藤 薫さんの美しい文章で語られる、田中 碧選手の魅力とは?
「田中碧選手は、言葉を操る稀有なアスリート」斎藤 薫さん(美容ジャーナリスト・エッセイスト)
「目標は「化け物になること」。この発言が物議をかもした。洗練された美しい物腰とのギャップが激しかったから。しかし語るほどに、その言葉は説得力を増していく。W杯には化け物しかいないから、自分も4年後には化け物になってここへ戻ってくる……なるほど“彼ら”を天才と捉えないのは、たとえ天才にはなれなくても化け物にはなれる。彼らを悠々超えることもできるからなのだろう。
田中碧選手は、言葉を操る稀有なアスリート。読書家であり、自らも言葉をとても大切にしていると語る。どんなインタビューのどんな質問にも、瞬時に予想を超える的確な言葉を返してくるから、トークのオファーが集中するのだ。
そこで改めて気付かされるのは、“考えを生むのは言葉。言葉を知らないと考えは組み立てられない”という決定的な事実。つまり、言葉が操れるから思慮深くなれる。語彙が豊かだから、発想も思考も豊かになる。夢を語っても、極めて具体的で理論的。すべて格言になるような、見事に構築された提言となっていく。黙って競技で答えを出すのが優れた選手であるという従来のイメージを、完全に覆してしまう人なのだ。だから、奇をてらうためではなく、自分を鼓舞するビックマウスの表現のためでもなく、核心をつくために「化け物」という言葉を使ったのだろう。
そもそもが驚くほど冷静に自らを分析している人。“結果を出すのに時間がかかるタイプ”を自覚し、だから慌てず混乱せずに結果を粛々と出していける。選手として人として、いかに生きるべきかを日々自らに問いながら目標を更新していくから、不安もなく諦めることもない。その絶対の安定感が、到底24歳とは思えない落ち着きを生み、この人の佇まいをなおさら端正に見せているのだ。もちろんビジュアル的にも自分が抜きん出ていることをよく知っているのに、そこに甘える気配は1%もなく、だから大人たちの心を掴むのだろう。かといって達観しすぎの扱いにくい種類の選手とは違う。むしろ会う人すべてを心地よくする。そもそもこの人が誰の目にもキラキラ煌めくような生命感を放っているのも、打てば響くような“心の運動神経”がもたらすもの。全てのことにまっすぐ心臓を向け真摯に向かい合うから、見ていてドキドキするほどの眩しさと清潔感が生まれるのだ。
こう見ていくと、ワールドカップで感動のゴールを決めたのも、PKを外した仲間に駆け寄ったのも、必然にさえ思えてくる。それは、暗いニュースが席巻する中、淀んだ物を取り払い、波動のようにエネルギーを与えてくれた。将来、選手を引退した後、時間を置かずに監督になりたいこと、その理由も簡潔に語るほど、明快な青写真を持つ人には、必然のドラマだったと思えるのだ。
すべてのことに意味があり、結果には必ず根拠がある、そう考える人は失敗や挫折さえ結果として自分のオーラに変えていく。何も無駄にしない生き方が、常に輝きを絶やさない目の力となるのだ。この若き寵児を素直に見習いたい、そんな気持ちにさせられた。
田中 碧選手の2022FIFAワールドカップの活躍を振り返って―――
4度の優勝経験を誇る強豪ドイツを相手に、歴史的な逆転勝利を収めて歓喜に沸く日本代表チーム。森保一監督の采配が的中し、途中交代の選手たちが躍動。選手とスタッフが積極的に意見を交わすチームワークのよさも注目を浴びた。
田中選手と三笘薫選手は、小学生時代から切磋琢磨してきた幼なじみ。スペイン戦では、三笘選手のゴールライン際ギリギリからの折り返しを田中選手が押し込んだ執念のゴールが決勝点に。日本はグループEを首位で通過し、世界を驚かせた。
決勝トーナメント1回戦では本大会3位のクロアチアと120分に及ぶ激闘、そしてPK戦の末、敗退。シュートを阻まれて肩を落とす三笘選手に真っ先に駆け寄り、迎え入れた田中選手の涙が物語る、ふたりの絆の深さも人々の胸を熱くさせた。
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- Precious.jp編集部
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- WRITING :
- 佐藤久美子