暦の上では春を迎え、そろそろ本格的に新しいシーズンのおしゃれが気になる時期。コレクションレポート最終回では、この春ぜひ挑戦していただきたいファッショントレンドをご紹介したいと思います。

■TREND TOPIC1:美しくエレガントに「機能」を纏う

写真左から/ジバンシィ、フェンディ
写真左から/ジバンシィ、フェンディ

このところのリモートワークですっかりお馴染じみになった、動きやすいワークウエアやスポーツウエア。実用性に富んだアイテムが、エレガントな大人の服に昇華し、2023年春夏ファッションの本命アイテムとして注目されています。もうストリートや若者だけのファッションではありません。いかに大人の品格でエレガントに着こなすか?がポイントです。
「フェンディ」のワークパンツは、艶のあるサテンでゆったりと。上に巻きスカートをエプロン状にスタイリングし、見た目はマキシスカートのよう。オリーブ色にサテンというワークとエレガンスの見事な融合です。
ロマンティックな着こなしのお手本は「ジバンシィ」。バミューダ丈のワークパンツはローライズですが、サマーツィードや光沢のある素材使いでクチュール感を漂わせ、シフォンのフリルブラウスを合わせて仕上げます。着丈の短いクロップト丈での肌見せは、今季の特徴ですが、長袖と合わせる絶妙バランスで、洗練された軽やかなロマンティシズムがたまらなく大人の気分。

写真左より/ステラ・マッカートニー、ロエベ、sacai、ミュウミュウ
写真左より/ステラ・マッカートニー、ロエベ、sacai、ミュウミュウ

大きめのフライトジャケットに、ワークテイストのショートパンツを合わせ、カラフルにスポーティにアレンジした「ステラ・マッカートニー」を始め、ワークウエアのアイコニックなデザインであるフラップポケット(蓋付きの箱ポケット)はどのブランドでも大人気です。シンプルなジャケットやスリムなパンツのアクセントに用いた「ロエベ」や「sacai」、さらにジッパーやベルトなど「機能」にデザインを特化した「ミュウミュウ」など大胆なアプローチも見られ、ワークやスポーツは、様々な解釈を施され、フレッシュな魅力を放っています。

■TREND TOPIC2:進化した「フラワー」モチーフ

写真左から/グッチ、ロエベ
写真左から/グッチ、ロエベ

パンデミック明けを祝う気分が盛り上がった今季。華やぐ開放感を象徴するファッションも多く登場しました。なかでも、愛されモチーフの「花」はプリントにアップリケ、シュールに、伝統柄にと不変の人気です。リバティプリントという英国の伝統柄をマキシ丈のシャツドレスに仕立てながら、アクセサリーで非日常感を盛り込んだ「グッチ」。深紅のアンセリウムがショー会場にそびえたった「ロエベ」では、アンセリウムをモチーフにしたドレスがこれもまたシュールに登場。

写真左から/シモーネ・ロシャ、ドリスヴァンノッテン、??????
写真左から/シモーネ ロシャ、ドリス ヴァン ノッテン、ボッテガ・ヴェネタ

アート感覚のフラワーモチーフが多い中で、古典的な可憐な小花で、ほっと心和ませた「シモーネ ロシャ」。多様なフローラルでこれからの希望に満ちた明るさを表現した「ドリス ヴァン ノッテン」。コサージュをドレスに散りばめ、シアー素材でくるんだファンタジーな「ボッテガ・ヴェネタ」のドレスなど、プリントから立体使いまで、フローラルモチーフは、幾通りにも解釈され愛され続ける女性の化身のようです。

■TREND TOPIC3:アートからのインスパイア

写真左から/ディオール、シャネル
写真左から/ディオール、シャネル

非日常から新たな日常へと移行する、まだら模様の不思議な時代の気分を反映するように、アートからのインスピレーション、またポップアートのモチーフが増加しているのも特徴です。
「ディオール」では、創成期の服の裏地に用いられたという、精巧なパリの地図プリントがアーカイブより再現されスポーティなパーカに。「シャネル」では、ココ シャネルが担当した劇中衣装のリトルブラックドレスが大ヒットしたという、1961年に公開されベネチア映画祭で金獅子賞を取った映画「去年マリエンバートで」がショー会場でも流れ、印象に残る場面をコラージュした服がシフォンのケープとともに登場し、優美でありながらショートパンツと合わせるという若々しさが印象的でした。

写真左から/ステラ・マッカートニー、?????
写真左から/ステラ・マッカートニー、GCDS

ポップアートでは、「奈良美智」との二回目の協業となる「ステラ・マッカートニー」らしいクルエルフリー(動物への犠牲を伴わない)のコレクションが、愛らしくも挑発的な眼差しの少女の顔で表現されました。ポンピドゥセンターの中庭で開催ということもあって、アート気分に溢れています。また、ミラノで若者には絶大な人気の「GCDS」ではアニメ「スポンジボブ」を服のパーツに使ったり、「漢字」のグラフィック性に着目した「スポーツマックス」など、アーティスティックなアプローチも、様々です。

■TREND TOPIC4:「ロング&リーン」シルエット

写真左から/バリー、バレンシアガ、フェンディ
写真左から/バリー、バレンシアガ、フェンディ

90年代の官能的なミニマリズムも台頭。90年代といえば、「グッチ」のルネッサンス期を築いた「トム・フォード」抜きには考えられません。ミニマルなほっそりとしたシルエットに、カットアウトや長いスリットなど、大袈裟ではないのに、漂う官能美。女性だからこそ発揮できる美しさやエロチシズムに気品と力強さを合わせ、モダンに仕立てた伝説的なデザイナーです。
今季は「バリー」「バレンシアガ 」などの若手を始め、本家「グッチ」でもトム・フォードに捧げたドレスを提案したりと、ヘルシーなボディが放つ魅惑的なラインが再注目されています。程良いボディコンシャスのロング丈ドレスは、女っぷりを上げるアイテム。ぜひ着こなしてみたい1着です。

■TREND TOPIC5:パワーアップした「Y2K」の華やぎ

写真ともに/トム・フォード
写真ともに/トム・フォード

最後に、パンデミック明けにふさわしい希望に満ちた華やかさにぜひチャレンジしませんか?
コレクションで見る90年代の官能的なミニマリズムとY2Kのゴージャスさの台頭は、私たちが実は、心の中で求めている開放感や遊び心を凝縮させたもの。全身では難しくても、輝きや肌見せといったデザインがヘルシーな表現になっているので着こなしやすく、パーツで取り入れても、雰囲気が出ます。
ニューヨークでは、「トム・フォード」ブランドが提案する、さらにパワーアップした眩しいほどのY2Kスタイルがパークアヴェニューのマダムたちに大人気です。日本人の私たちは、実際は身につけるのは難しいかもしれませんが、暗いトンネルを抜けた今の心模様を映し出すものとして、このくらいパワフルな多幸感こそ、もっとも欲しいものかもしれませんね。

 

この記事の執筆者
1987年、ザ・ウールマーク・カンパニー婦人服ディレクターとしてジャパンウールコレクションをプロデュース。退任後パリ、ミラノ、ロンドン、マドリードなど世界のコレクションを取材開始。朝日、毎日、日経など新聞でコレクション情報を掲載。女性誌にもソーシャライツやブランドストーリーなどを連載。毎シーズン2回開催するコレクショントレンドセミナーは、日本最大の来場者数を誇る。好きなもの:ワンピースドレス、タイトスカート、映画『男と女』のアナーク・エーメ、映画『ワイルドバンチ』のウォーレン・オーツ、村上春樹、須賀敦子、山田詠美、トム・フォード、沢木耕太郎の映画評論、アーネスト・ヘミングウエイの『エデンの園』、フランソワーズ ・サガン、キース・リチャーズ、ミウッチャ・プラダ、シャンパン、ワインは“ジンファンデル”、福島屋、自転車、海沿いの家、犬、パリ、ロンドンのウェイトローズ(スーパー)
WRITING :
藤岡篤子