長い長いおこもり期間を経て、人々が「家」に求めるものは、確実に変わったのではないでしょうか。本当に必要なものや心躍るものは何なのか、安らぎや豊かさをもたらしてくれるのはどういう空間なのか。

雑誌『Precious』7月号では、自然を身近に感じながら、自然に寄り添い、そのパワーを浴びて暮らす3人のお宅を訪問。−−家について考えるということは、自分自身と向き合うということ−−。改めてそう実感する、三者三様の素敵な暮らしに迫りました。

今回は、デザイナー、ファウンダーのマリー・ダージュさんのお住まいをご紹介します。

マリー・ダージュさん
デザイナー、ファウンダー
1990年、テーブルウエアのブランド「マリー・ダージュ」を立ち上げる。1点ずつフリーハンドで描かれる自然モチーフが話題となり、68色からなるオリジナルのカラーパレットで90コレクションを発表。メゾンや有名ホテルとのコラボレーションも多数。

「別荘に着いたら、冷蔵庫が空っぽでもまず庭に出てブーケづくりを。家中に飾って、やっとひと息つくんです」

フランス中部、古城で知られるヴァンドームは、ロワール川が街を縫うように流れ、歴代フランス王が住んだ城を中心に城下町として栄えた地。宮廷がパリに移ってからも、王家の人々や貴族が狩猟に訪れる、由緒ある高級別荘地です。

12年前、夫がこの地の別荘の7代目当主となったマリー・ダージュさん。彼女は、花や鳥などのモチーフが人気のリモージュ焼「マリー・ダージュ」のデザイナーです。

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敷地面積は約8ha。広大な敷地ゆえガーデニングは専門家に依頼。できるだけ自然のままをキープするよう、いわゆるフランス庭園ではなく、ソバージュ(ワイルド)な庭づくりを心がけている。この日はお孫さんと敷地内の森を散歩しながら花摘みを。

「引き継いでからずいぶん経ちますが、大々的なリノベーションをしていて今も工事中。半分しか終わっていません。16世紀に建てられた建物は代々受け継がれてきたもので、家具や伝統は大切にしながら、現代のライフスタイルに合うよう水回りやゲストルームを整えています」

「この家は、自分にとってどれほど自然が大切なのかを実感する場所なんです」

パリのアパルトマンは日常の暮らしと仕事の場。一方、こちらの別荘は、リラックスの場だと話します。

「自分にとって、どれほど自然が大切なのか、インスピレーションの源なのかを、この家にいると実感します。久しぶりに来ると、冷蔵庫が空っぽでも、まずは庭に出てブーケをつくる。それを家中にセッティングしてやっと落ち着くんです」

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ゲストルーム。インテリアファブリックのメゾン「シャール・ブルジェ」のコロニアル風の植物が描かれた布を壁全面に配している。「窓から見える森の景色と部屋が溶け込むように工夫しました」とマリーさん。家具はすべて代々受け継がれてきたもの。

「ファブリックや家具、アート、食器や花器。どの部屋も、どこをどう切り取っても自然の延長線上にあるよう、心がけています」

広い森に囲まれた自然豊かな地。週末や長期のバカンスに、家族やお孫さんたちと訪れるこの家では、音楽好きな長男のミニ音楽祭を開催したり、友人を招いてガーデンパーティやバーベキューをしたり。夫とふたりのときも、朝食、ランチ、ティータイム、アペロと、シチュエーションごとにお気に入りの場所にセッティングをして楽しむとか。

「朝食は風が心地いいパテオで、ランチは森の小道沿いのテーブルにクロスをかけて。大きな木の下にラグを敷き、摘みたてのハーブティーでピクニックすることも。季節ごとに表情を変える森の姿からは生命力を感じます。パリの喧騒や文化的な暮らしとはまた違う、ゆったりと流れるリラックスした時間からも、新たな気づきやひらめきを得ています」

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外壁は建てられた当時のフランボワーズ色を再現し塗り替えた。「お菓子の家みたいな感じを残したくて」。
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大きな窓から見える鮮やかな木々のグリーンに、赤いフローラル柄のファブリックが映えるメインのサロン。家具は古くルイ16世の時代から受け継がれてきたもの。ソファにかけられたイカット柄の赤い布がアクセント。柄×柄の大胆な組み合わせはマリーさんの得意とするところ。
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ギャラリーと呼ばれる、サロンへと続く廊下。「庭に面しているから明るくて開放的。1800年代の石床が愛らしく、お気に入りの場所です」

また、パリのアパルトマン同様、この別荘でも、色や柄の大胆な組み合わせでインテリアを楽しむのがマリー流。サロン、ダイニング、キッチンはそれぞれふたつずつ、寝室はゲストルームを含めて15部屋(!)、バスルームは5つ。工事中につき、今後増える予定もあるそうですが、部屋ごとに壁布やファブリックの色や柄を変えることで、テーマ性をもたせ、印象を変えています。

「インテリアの大きなテーマは『家族の思い出』です。使用している壁布やカーテンは、ボタニカルや鳥など自然モチーフの柄ばかり。自然の美しさにかなう美しさはないと思っていますから。また、それらはすべて、子供時代から母と一緒にパリのアトリエに通っていたインテリアファブリックの老舗『シャール・ブルジェ』のもの。今では手に入りにくいヴィンテージの布など、長い間コレクションしてきたものです」

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ゲストルームのひとつは「赤の部屋」。ファブリックや器も赤で統一。飾っているのは、マリーさん自身が描いた湖の絵。湖畔に所有する別の家を描いたものだとか。
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バスルームは現代の仕様に全面改装。小さな青い小花柄を使って涼やかな印象に。
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こちらのゲストルームは、白×ピンク×グリーンの春めいたイメージ。エレガントな雰囲気のなかに、ピリッと効かせたヒョウ柄のベッドカバーが全体を引き締めている。また、この部屋の絵もマリーさんが描いた、船が浮かぶ海の絵。絵画は、田園風景や海、湖、草花、家族の肖像画など、各部屋のイメージに合わせてマリーさんが厳選している。
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庭で摘んだ花や、合わせた花器も、ピンク色で統一。

なにより、マリーさんが大切にしているのは、窓から見える美しい自然の景色との調和です。

「ファブリックや家具、アートなど、どの部屋も、どこを切り取っても豊かな自然の延長線上にあるよう、心がけています。『マリー・ダージュ』の食器や花器は、どれも自然がモチーフです。庭に咲く花やハーブを摘みながら、花の色や形によって、部屋ごとに器を選ぶ時間は最高に幸せ。同時に、デザイン心も刺激される、貴重な時間なのです」

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暮らしやすく機能的にと、大きく改装したのはふたつのキッチン。こちらのキッチンは、オリジナルの床タイルはそのまま使用し、それに合わせて水回りに細かいタイルを貼ってモダンに。シャンデリアは蚤の市で見つけたアンティーク。
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サロンの奥にあるメインダイニング。ずらりと並んだ鳥の絵が印象的。マリーさんが趣味でコレクションしたというこれらの絵が際立つよう、額装はゴールドに、壁は若草色に塗ったとか。
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この日のテーブルセッティング、器は「Oiseaux d’Orient (オワゾー・ドリエン)」というシリーズ。その名のとおり、オリエンタルな鳥が描かれた美しい器。

マリーさんのHouse DATA

場所…パリから車で約2時間30分、TGV(フランス版新幹線)なら40分ほどの別荘地、ヴァンドーム。
建物…16世紀に別荘として建てられたもの。現当主で7代目。
間取り…敷地面積は約8ha。建物面積は不明。サロン×2、ダイニング×2、キッチン×2、寝室×15、バスルーム×5。
家族構成…夫とふたり、ときどき子供たちと孫たちも。
訪れる頻度…月に1度か2か月に1度。
ここに決めたいちばんの理由…結婚前から頻繁に訪れていた思い出の詰まった地。広い森に囲まれた豊かな自然に癒やされる。

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PHOTO :
川上輝明(bean)、篠あゆみ、Marco Bertoli
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)
取材 :
鈴木ひろこ