長い長いおこもり期間を経て、人々が「家」に求めるものは、確実に変わったのではないでしょうか。本当に必要なものや心躍るものは何なのか、安らぎや豊かさをもたらしてくれるのはどういう空間なのか。

雑誌『Precious』7月号では、自然を身近に感じながら、自然に寄り添い、そのパワーを浴びて暮らす3人のお宅を訪問。—家について考えるということは、自分自身と向き合うということ—。改めてそう実感する、三者三様の素敵な暮らしに迫りました。

今回は、「ホールディング・テーラ・モレッティ」副社長のカルメン・モレッティ・デ・ローザさんのお住まいをご紹介します。

カルメン・モレッティ・デ・ローザさん
「ホールディング・テーラ・モレッティ」副社長 
ミラノの大学でマスターを取得後、フランスやイタリアのラグジュアリーホテルで経験を積む。現在、「ラルべレータ」などのホテルやワイナリー「ベラヴィスタ」など11の会社を所有する「ホールディング・テーラ・モレッティ」副社長であり、コミュニケーションとホスピタリティの戦略責任者。ラグジュアリーなホスピタリティを追求し、精力的にプロモーションを行っている。

「愛着のある場所で、自分の『好き』を追求したら、家族が安らぎ、人が集う安息の家になりました」

ミラノから車で約1時間。北イタリアの名勝・イゼオ湖の南側に広がるフランチャコルタ地域は、湖を背景にアルプスの山々が連なり、なだらかな丘陵にブドウ畑が点在する美しいエリアです。

イタリア随一といわれるスパークリング・ワイン「フランチャコルタ」の故郷ということもあって、エノツーリズム(ワイン観光)が盛んで、多くの観光客で賑わっています。

なかでもセレブたちを魅了しているのが、名門ワイナリー「ベラヴィスタ」のオーナー、ヴィットリオ・モレッティ氏が経営する五つ星リゾートホテル「ラルベレータ ルレ&シャトー」。約65ヘクタールの敷地内にはホテルやレストラン、スパ、バーや美しい庭園を有し、そのままブドウ畑へとつながっていて、宿泊者たちは、好きな場所でワインを片手にくつろぐことができます。

その敷地内にある一軒家に暮らすのが、カルメン・モレッティさん。「ラルべレータ」ほか、一族が保有するホテル部門のコミュニケーションとホスピタリティの戦略責任者です。

IE Precious_1,家_1,家,インタビュー_1,イタリア_1
南向きの家で、大きく開放的なポーチの目の前には、広い庭が広がる。

「この家は、26歳のとき、結婚祝いとして父(ヴィットリオ・モレッティ氏)からプレゼントしてもらいました。1400年代に建てられた農家ですが、贈られた当初はすでに前のオーナーによって改装済みでした。友人や特別なお客様のためのホテル別館にしようと思ったこともありましたが、結局、家族で暮らすことに。子供たちが小さいときは、学校のことも考えて街の家へ引っ越しもしましたが、やはり戻ってきました。この丘で育った私にとってどこよりも愛着のある場所ですし、豊かな自然は、仕事やプライベートに、ポジティブなエナジーを与えてくれます」

IE Precious_2,家_2,家,インタビュー_2,イタリア_2
リビングは、梁を生かして白く塗り、棚も白で統一する一方、随所にビビッドな色を効かせてアクセントに。目を引くのは、カエルが描かれた大きな絵画。シチリア出身の若手アーティスト、フィリッポ・ラ・ヴァッカーラの作品。「カエルは豊穣のシンボルで、幸運を運んできてくれるラッキーチャーム。ポジティブさを感じるこの絵は家の主人公です」。実はカルメンさん、カエルをモチーフとしたアートのコレクター。家中に、カエルの絵画やオブジェなどが飾られている。
IE Precious_3,家_3,家,インタビュー_3,イタリア_3
カルメンさんがいちばん好きだというポーチのベンチで、愛犬のブエナちゃんと一緒にくつろぐ。この日のファッションは、カントリー風で。おろしたての赤い長靴がポイントだとか。

「四季折々の植物、光、匂い、音。自然のすべてが私のエナジーになっています」

IE Precious_4,家_4,家,インタビュー_4,イタリア_4
あまりつくり込まず、のびやかな自然を生かした庭。こちらの木の上にあるツリーハウスは、長男ヴィットリオさんの8歳の誕生日に、カルメンさんのお父様からプレゼントされたもの。
IE Precious_5,家_5,家,インタビュー_5,イタリア_5
緑豊かな庭を見渡せる広いポーチ。春から夏にかけては、ポーチのソファで愛犬と過ごすことが多いとか。ダイニングと直結したポーチでは、家族や友人が集ってバーベキューを。

ホテル「ラルベレータ」や、そのオフィスまでは歩いて10分ほど。この通勤時間も、リフレッシュできるとカルメンさんは言います。

「ミラノやN.Y.など街も好きですが、ここでの暮らしは、静かな時間をもつことの大切さを教えてくれました。ロックダウン中は、夫の出身地・ジェノバの海沿いの家で過ごし、目の前に広がる静かな海に助けられました。植物、光、匂い、音。自然のすべてが私のエナジーになっています。車で身軽にジェノバやフランチャコルタを行き来していますが、本当の家はこの家だと思います。子供時代の記憶が詰まった、家族の象徴であり、心から守られていると感じる場所ですから」

IE Precious_6,家_6,家,インタビュー_6,イタリア_6
キッチンにあるダイニングテーブルのセッティング。器も自然モチーフ柄が多いそう。
IE Precious_7,家_7,家,インタビュー_7,イタリア_7
ダイニング奥の暖炉コーナー。サイドテーブルに生けられた花は、庭から摘んだもの。

また、もうひとつ、カルメンさんを元気にするものがあります。それは「カエル」。家のいたるところにカエルの絵やオブジェ、カエルモチーフのアイテムが置かれています。

「リビングの大きなカエルの絵は、父からは大不評でしたけど(笑)。もともと、私がとても落ち込んでいたとき、母がカエルのオブジェをプレゼントしてくれたのがきっかけです。丸くて、かわいくて、とても癒やされました。その後、カエルは豊穣と幸運のシンボルだと知って、集めるように。プレゼントでいただくことも多く、数えきれないほどの『カエルコレクション』がありますが、蚤の市などでカエルを見かけると、ついつい手にしてしまいます」

IE Precious_8,家_8,家,インタビュー_8,イタリア_8
ポーチのカエルたち。サイドテーブルには愛らしいカエルのオブジェが。
IE Precious_9,家_9,家,インタビュー_9,イタリア_9
靴の泥を落とすタワシもカエル形!
IE Precious_10,家_10,家,インタビュー_10,イタリア_10
ポーチの目の前にある、木陰が気持ちいい大きな木。ここのテーブルにも、カエルの置き物がひょっこり顔を出している。

「インテリアは、自分のスタイルを探し、自分の『好き』を見つけ、楽しむことが大切です」

南向きで家全体に光が溢れる温かいムードが好き、とカルメンさん。1階はリビングと暖炉があるダイニング、キッチンとパントリー、書斎。2階には寝室が3つとゲストルームがひとつと、日の出や日の入り、庭の木々が見られるバルコニーという間取りです。

「もともと、建築家になりたかったんです。ところが弁護士にさせられそうになったため、それを振り切って、ミラノでジェネラルマネージメントのマスターを取りました。今でも、インテリアや建築への興味は色あせることはありません。結果的に、ホテルの空間づくりなど、今の仕事にもその情熱は生かされています」

IE Precious_11,家_11,家,インタビュー_11,イタリア_11
大きな窓から陽光が降り注ぐダイニング。ポーチに直結しているため、自然に囲まれた外の世界と室内が一体化した雰囲気。コンテンポラリーなデザインの照明は「モーイ」。テーブルはミラノ発「ポリフォーム」。卓上にもカエルたちが。
IE Precious_12,家_12,家,インタビュー_12,イタリア_12
寝室。グレー×オレンジのカーテンは、カルメンさんのお気に入り。「バクスター」のソファ、ライトスタンドや花器などにもオレンジを効かせている。
IE Precious_13,家_13,家,インタビュー_13,イタリア_13
書斎の本棚はミラノの家具ブランド「デパトヴァ」の名作。デスクは義父から受け継いだもの。ミラーはフランスの骨董商から購入したアンティーク。「仕事部屋なので、あえて色は効かせず、落ち着いた雰囲気にしました」。

そんなカルメンさんらしく、各部屋のインテリアやアートは、彼女の個性と「好き」が詰まっています。

「テクニカルな面は父にサポートしてもらいましたが、インテリアはすべて自分で考えました。スタイルとしては、デザイン&コンテンポラリーな家具(ダイニングやキッチンの照明など)と、家族の歴史を受け継いだアンティーク家具のミックス。それと、色使いにこだわっています。田舎の家なので、オレンジやグリーンなど、温かみのある色を家具やファブリックなどで取り入れ、アクセントにしています」

IE Precious_14,家_14,家,インタビュー_14,イタリア_14
赤×ブルーが目を引くキッチン。内側のレリーフデザインがエレガントな「フロス」のペンダントライト「スカイガーデン」と義母から贈られたアンティークテーブルが好相性。
IE Precious_15,家_15,家,インタビュー_15,イタリア_15
キッチンの戸棚は、母からのプレゼント。赤、黄色、グリーンの色使いが印象的。テーブル、棚ともにイタリア北部、トレンティーノ・アルト・アデイジェ州の伝統的な家具で、1700〜1800年代のもの。「イタリアでは家具を受け継ぐのは一般的なことです」。パントリーと勝手口に抜ける廊下へ続く水色のドア枠も素敵。
IE Precious_16,家_16,家,インタビュー_16,イタリア_16
ダイニングの一角にある暖炉コーナー。ひとりがけソファは「バクスター」。暖炉上の棚に飾られた陶器は、日本を訪れた際に購入した中国のアンティーク。壁側の白い額縁は、フルーツや葉のレリーフが気に入ってブレーシャの骨董商で購入し、自分で白く塗ったとか。

面白いのは、季節ごとに、インテリアを変えるという点。

「夏は家具やモノを減らしてすっきりさせて空間をつくり、秋は温かみのある色を増やします。春は花をテーマに色や柄をチョイスし、冬はキャンドルを灯して、思い切りデコレーションを楽しむ。暖炉前のソファは、夏はオフホワイト×麻のクッションなど、シーズンごとにファブリックの素材や色にもこだわっています。誕生日やクリスマスなど、イベントに合わせてチェンジするのも楽しいですね」

家づくりは、自分のスタイルを探し、カエルコレクションのように自分の「好き」を見つけ、楽しむことが大切。ホスピタリティを追求する仕事に就くカルメンさんのこだわりは、温かく楽しい空間と、人が集い、家族が安らぐ、安息の場としての家を育ててきたといえます。

カルメンさんのHouse DATA

場所…スパークリングワインの銘醸地、フランチャコルタにある五つ星ホテル「ラルべレータ ルレ&シャトー」の敷地内。
建物…1400年代に建てられた農家。
間取り…総床面積800平方メートル。1階はリビング、ダイニング、書斎、キッチン、パントリー、ポーチ。2階には寝室×3、ゲストルーム×1、テラス。
家族構成…夫とふたり、愛犬(ラブラドールレトリバー)。娘と息子は独立。
ここに決めたいちばんの理由…生まれ育った愛着のある場所。自然豊かで心落ち着く、家族の歴史と思い出が刻まれた場所。

関連記事

PHOTO :
川上輝明(bean)、篠あゆみ、Marco Bertoli
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)
取材 :
高橋 恵