「かしずく」という言葉をご存じですか? 「彼女は大勢の家政婦さんにかしずかれて育ったお嬢様だ」のように使われますが、現代では主従関係が際立つ表現はあまり用いられないため、「かしずく」という言葉自体、使われる機会が少なくなっています。今回は「かしずく」の詳しい意味や使い方がわかる例文、言い換え表現を解説します。
【目次】
【「かしずく」を正しく理解するための「基礎知識」】
■意味
「かしずく」には3つの意味があります。
1)人に仕え、主人として大事に世話をする。
2)親や大人が子供などを大切に養い、守り育てる。
3)後見する。
3つの意味に共通しているのは、「相手のために動く」ことです。
海外のプロポーズのシーンで、男性が花束や指輪を持ち片膝を立て、女性に向かってひざまずくポーズをご存じですよね? あれは「かしずく」気持ちを表していますね。「かしずく」が1の意味で使われる場合、対象となるのは、自分より身分や立場が上の人。主従関係や上下関係が明確な時代に、単に相手に従うだけでなく「真心や忠誠心、尊敬の念をもって仕える」気持ちを示すために、かしずく対して、ひざまずくポーズが取られるようになったのです。
■「漢字」にすると?
「かしずく」は、漢字では「傅く」、あるいはあまり一般的ではありませんが、「侍く」とも書きます。「傅」は音読みで「フ」。「人を助ける」「人をお守(も)りする」といった意味をもっています。間違えやすい漢字ですが、「跪(ひざまず)く」ではないので、注意してくださいね。
■「古語」なの?「かしづく」と書くのはNG?
「かしずく」は古語の「かしづく」が由来。基本的には「幼い人を大切に守り育てる」という意味で使われていましたが、「主人や愛人を大事に世話をする、後見をする」といった意味にも用いられていました。そのため、「かしずく」を「かしづく」と書いても間違いとはいえません。
【「例文」で使い方をチェック!】
「かしずく」をさらに理解するために、1〜3の意味で使われた例文を、それぞれご紹介しましょう。
■1の意味で:「母の人生は、嫁として姑(しゅうとめ)にかしずく毎日だった」
■1の意味で:「○○さんは、大勢の家政婦さんにかしずかれて育ったお嬢様なんだって!」
■1の意味で:「ブラック企業と噂のA社では、社員はさながら社長にかしずく家来のようだった」
現代社会における主従関係といえば、「師匠と弟子」「社長(上司)と部下」でしょうか。「人に仕える」意味で使われる「かしずく」の場合、対象となるのは「自分よりもはるかに身分の高い人」。単なる「先輩」や、介護など、仕事で対価を得る関係においては使われません。
■2の意味で:「年を重ねた末に授かった子供だけに、夫婦は生まれてきた娘にこのうえなくかしずいた」
古語としての「かしずく」は「親たちかしづきたまふことかぎりなし(出典『堤中納言物語』虫めづる姫君)」のように使われました。「親たちが大事に育てなさる様子はひと通りでない」という意味になります。
【「跪く」との違いは?】
■「跪く」の読み方
上でも少し触れていますが、「跪く」は「ひざまずく」と読みます。
■意味は?
「膝を地面や床などにつけ、かがむ姿勢」を指して「跪く」と言います。多くは、敬意を表す動作について用いられます。
■「かしずく」との違いは?
「跪く」姿勢には対象への敬意や屈服の気持ちが込められてはいますが、言葉自体はあくまで動作や姿勢そのものを示しています。「かしずく」がもつ「仕える」や「大事に育てる」などの意味はありません。
【「類語」「言い換え」表現】
「かしずく」の類語をいくつか上げてみましょう。現代では言い換えた表現のほうが、しっくりくるケースが多いですね。
■仕える
■尽くす
■奉仕する
■献身する
■愛情いっぱいに育てる
■愛育をする
■補佐する
■サポートする
■保護する
【「英語表現」は?】
■「仕える」「世話をする」なら[take care of]
・The couple took good care of their sick parents.(夫婦は病気の両親によく仕えた)
■「大切に育てる」なら[raise 〜 ]
・The couple raised their daughter with love.(夫婦は娘を愛情一杯に育てた)
***
「かしずく」という言葉には、あまり馴染みがない人も多いかもしれません。今後、使われる機会が増えるとも考えにくいので、ますます縁遠い言葉になってしまいそうです。とはいえ、大人の語彙力は「実用性がない言葉」にこそ発揮されるもの。正しい知識でさり気なく、使いこなしてくださいね。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- 参考資料:『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『角川類語新辞典』(角川書店) /『プログレッシブ英和中辞典』(小学館) :