愛すべき「シャツ」に出合って、秋が始まる
秋の気配を感じつつも、残暑が気になる微妙な季節に、私たちの味方になってくれるのは、たった一枚で、知的なクールさも、華やぎも叶える「シャツ」ではないでしょうか?
今季はベーシックを極めた上質シャツに留まらず、シルエットやディテールに遊び心やモードなニュアンスを加えてアップデートされた新顔シャツが豊富に登場。多様な時代だからこそ、自分らしさが表現できる一枚で、おしゃれの可能性を広げましょう。
今回は、俳人の小津夜景さんにとっての【白いシャツの魅力】について、寄稿いただいたコラムをご紹介します。
【Colum】だから私は、シャツを着る|「寡黙でいて、雄弁な白いシャツの魅力」俳人・小津夜景さん
誰しも誰かの着こなしをお手本にしたことがあると思う。
わたしにも、そういう人が何人かいる。
一番古いところではジョージア・オキーフがそうだ。白いシャツを、心の奥の淵からすっくと立ち上がった白い花のように身にまとい、黒のカーディガンからのぞかせている一枚の写真に衝撃を受けたとき、わたしは高校生だった。
じっくり観察すると、まずもって際立つのが凛としたシンプルさだ。またモノトーンの生地のあちこちから魅力的な細部が垣間見える。知性と瞑想が心地よく共存し、日常生活に根付いた美意識も感じられた。
つまりそれはただの服ではなく、魂の表現だった。
わたしもこんなふうに服を着てみたい。でも、そのためにはどうしたらいいのだろう?
その解答としてわたしが選んだのはイレギュラーヘムの、シンプルな白いシャツだ。前後で長さが違う裾には単純さと複雑さとの両極が備わり、しかもモダニズムの香りがある。生地はたしかヘリンボーン織りの綿麻だったと思う。柔らかく、でもしゃんとした風合いの生地だった。それで近所の川べりを歩いてみると、風が吹くたびふわりと広がり、寄せ返す白い波となって、わたしにじゃれついてきた。
嬉しくなったわたしは、シャツの細部にこだわりたくなった。そこで母の部屋に行き、古いボタンがいっぱい入ったガラス壜の中から貝殻のボタンをさがし、それにつけかえてみた。すると、それまで寡黙だったシャツから物語が紡ぎ出されていくのがわかった。
とてもささやかな、しかし忘れられない思い出だ。
ところで、オキーフの白いシャツとその着こなしには俳句のエッセンスがある。俳句は十七音というミニマリズムの極致にある定型詩で、余計な装飾がない。またそれでいて細部にこだわる。そして静寂と運動との間のバランスを捉えることによって美や瞑想を呼び起こす。当時は気づかなかったが、オキーフの存在は、わたしにとってファッションのお手本以上の意味をもっていたらしい。
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- PHOTO :
- 浅井佳代子
- STYLIST :
- 犬走比佐乃
- EDIT :
- 本庄真穂、喜多容子(Precious)