2023「進化する美容」総論|ついに老化は怖くない時代に!?老化コントロールを目指すスキンケアの最前線をキーワードで読み解きます

今、スキンケアがすごい勢いで進化を遂げています。特に、盛り上がっているのが、老化を防ぐスキンケア。医療の分野の新情報は、すぐさまアンチエイジングコスメの新製品に。この調子なら老け感をコントロールできる日も近いかも!? 知りたいアンチエイジング系スキンケアの最前線を探ります。

今回は、資生堂 みらい開発研究所 シーズ開発センター センター長の加治屋健太朗さんに、老けないスキンケアの “今” について、お話をうかがいました。


最前線のスキンケア研究者に聞きました|老けないスキンケアの「今」

お話をうかがったのは…加治屋健太朗さん
資生堂 みらい開発研究所 シーズ開発センター センター長
膚の老化と血管やリンパの関係を研究している。

◇やがて不老肌が現実に!?テクノロジーの進歩が、スキンケアを進化させる

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―今、アンチエイジング系スキンケアの進化が加速しています。ここまでブームとなっている理由は何なのでしょう?

「なぜ老化するのか? 老化を止めるにはどうすればいいのか? 人類がここまで長寿になったからには、それは必然のテーマです。加えて、健康寿命を延ばす研究は、各国が自国の研究に予算をつけ、世界的な規模で推進されています。本来は癌など加齢による疾患の予防及び治療が目的ですが、スキンケアに応用できる理論も多数あります」

―Precious読者が肌のお手入れを始めた1980年代は、スキンケアはまだまだ保湿の時代で、2000年代になってアンチエイジングがメインに、そこから一気に進化したように感じます。

「かつて肌の老化の原因は紫外線といわれ、紫外線の害を防ぐのが第一でした。実際、老化といえば日焼けによるシミやシワでしたよね。しかし、現在は、シミやシワになっているところでは、肌の奥の細胞や遺伝子で何が起きているのかわかっています。そうならないために働きかけるべき細胞や遺伝子もわかっています。研究の対象も大きく進化していますね」

◇「老化細胞」「オートファジー」「長寿遺伝子」老化キーワード続々…

―今、美容界で大きな注目を集めているのが、老化細胞とその悪影響です。老化した細胞は、周囲の細胞に悪影響を及ぼし、肌全体を老化させる。この悪影響への対策こそが急務とされていますね。

「老化細胞そのものに着目してみると、それを除去してくれるのは免疫細胞です。免疫と聞くと、コロナウイルスなどの外敵と戦うイメージがあるかもしれませんが、老化細胞とその悪影響からも肌を守ってくれているのです。実は、免疫力を上げることは健やかな体のために大切ですが、肌においても若々しさを保つためにとても大切です。『資生堂』では30年以上にわたり免疫の力を研究し、現在ではその知見をさまざまな製品に応用しています」

―老化細胞による悪影響のほかにも、細胞内の部品ともいえるたんぱく質をリサイクルするオートファジーや、老化した遺伝子をクリーニングする長寿遺伝子サーチュインなど、さまざまなキーワードが注目されています。

「スキンケアのトレンドは、サイエンスのトレンドと常に連動しています。世界レベルで老化の研究が進み、新たな知見が発表されるので、スキンケアのほうもトピックスが絶えないというわけです」

◇肌から筋肉、皮下脂肪へ?深く、浅く、スキンケアは進化していく

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―さらに具体的な肌悩みの解決法としてもスキンケアは進化しています。例えば、この秋注目されている、立毛筋に着目したたるみ対策。スキンケアによる筋肉へのアプローチなど、より深い方向へも進化しているようです。

「コロナ禍のマスク生活を経て、ニーズが高まったたるみ対策。たるみは、肌だけで解決できる問題ではなく、筋肉や脂肪といった、より深い層へのアプローチが不可欠です。それならば、スキンケアのほうもより深い層にアプローチできるよう、進化するしかありません。立毛筋は、肌の中にある筋肉で比較的アプローチしやすい筋肉として、注目されています」

― 一方で、肌の最も浅い層である表皮を、いかに潤し厚みを出させるか、表皮の研究も進化していますね。

「表皮は細胞とその周りの細胞間脂質からなっていますが、今その脂質を詳しく調べるリピドーム解析がトレンドになっています。肌のバリア機能に関わる細胞間脂質は昔から研究されていましたが、解析技術の進歩によって精度が飛躍的に上がっています。ここから、スキンケアの成分を肌に送り届ける浸透テクノロジーなどが、今大きく進化しています」

◇ゲノム解析やiPS細胞、血流やリンパなどの可視化。進化の裏に技術革新あり

―美容の進化の背景には、ノーベル賞受賞のテクノロジーの応用などもあるようですね。

「なんといってもヒトゲノム解析完了が大きいです。『資生堂』でもすべての遺伝子を解析する体制を整えて活用しています。例えば、今ではシミやシワに関係するのはどの遺伝子かわかりますし、どの成分が遺伝子を活性化するかも検証できます。もうひとつ、iPS細胞の恩恵も大きいです。これまで困難とされていた神経細胞をiPS細胞でつくることができ、神経が肌にとっていかに大切で、真皮の構造と密接に連携しているかがわかりました」

―テクノロジーの進歩によって、スキンケアは進化するわけですね。

「例えば、顔の内部を3次元で360度可視化できるようになったことで、リンパとコラーゲンの変性の関わりを発見することができました。さらに、現在では動きまで見ることができる4次元の可視化も可能です。そこから、免疫と血流の関係など、新たな知見が得られています。老化はそもそも肌だけでなく全身の問題です。若々しい顔のためには若々しい体である必要があるのです。これからはアンチエイジングも全身でとらえる発想が大切です」

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PHOTO :
Getty Images
EDIT&WRITING :
木更容子、佐藤友貴絵(Precious)