仕事の依頼や契約、あるいは食事のお誘いなど、何かをお断りする際に使われる「見送らせていただきます」というフレーズ。正しい敬語表現ではありますが、「お断り」するのはあくまでこちらの都合であり、相手の意思に沿ったものではないことが多いのも事実。そのため、「見送らせていただきます」は、使い方次第では相手に不遜な印象を与えかねない言葉です。意味や使い方をしっかりおさらいしておきましょう。

【目次】

相手の期待に反して「お断りします」と伝える言葉。
相手の期待に反して「お断りします」と伝える言葉。

【「見送らせていただきます」の「意味」】

■意味

「見送らせていただきます」を理解するために、まずはこの言葉を構成する「見送る」と「(さ)せていただく」を、それぞれを考察してみましょう。

まず、「見送る」。これは「去って行く人を送る」という意味で使われることの多い言葉ですが、この場合は「やりすごす。差し控える」もしくは「今、ことを行うのは不利と考えて、そのままにしておく」という意味で使われています。

そして何かと批判の的となりやすい「させていただく」について。これまでは連語とされていましたが、『三省堂国語辞典』では8版(2022年)から、ひとつの「謙譲語の助動詞」と認定しています。基本的には(1)相手の許可を得て自分が何かを行う (2)相手からなんらかの恩恵を受けたとき (3)自分の行為を丁寧に言う場合に使われますが、今回のテーマである「見送らせていただきます」の場合は、「相手の意思に関係なく何かをすること」を丁寧に伝える謙譲表現です。例えば、「今日は頭が痛いので、帰らせていただきます」などと使われます。

つまり「見送らせていただきます」は、「(相手の期待に反して)差し控える」ことを丁寧に相手に伝える謙譲表現なのです。


【「使い方」がわかる「例文」4選】

ビジネスシーンで「見送らせていただきます」を使用するのは、仕事の依頼や契約、お誘いなど、何かを「お断りする場面」です。丁寧に伝えてはいますが、お断りすることはすでに決定した事項であり、相手の許可を得ようとしているわけではないことがポイントです。

■1:「ご依頼の件、誠に申し訳ありませんが、今回は見送らせていただきます。あしからずご了承いただけますと幸いです」

■2:「本件につきましては、大変心苦しいのですが、諸事情により見送らせていただきます。どうかご容赦くださいませ」

■3:「お力になりたいのはやまやまですが、日程的に余裕がなく、今回は見送らせていただきます」

■4:「あいにく部内の調整がつかず今回は見送らせていただきますが、これに懲りずにまたお声がけくださいませ」


【目上の方に使える「より丁寧」な言い方】

「見送らさせていただきます」は謙譲の助動詞「させていただく」を使った敬語表現ですので、目上の方に対しても使えます。さらに丁寧な言い方にしようとして「お見送りさせていただきます」とするのは誤りです。

前述の通り、「見送らせていただきます」は敬語表現ではありますが、お断りすることはすでに決定したことであり、相手の許可を得ようとしているわけではありません。そのため、「見送らせていただきます」だけで使うと、相手に不遜な印象を与えかねません。さらに丁寧な印象のフレーズにするためには、例文1、2、3のようにクッション言葉を置いたり、3、4のように「見送りの理由」を述べるなど、相手の期待に沿えず申し訳なく思う気持ちを表しましょう。例文1、2のように「ご了承ください」「ご容赦ください」などの言葉を沿えるのも有効です。


【「言い換え」表現】

では「見送らせていただきます」の「言い換え表現」にはどんなものがあるでしょうか。いくつかご紹介します。

■見合わせとさせていただきます

■お引き受けいたしかねます

■またの機会とさせていただきます

■差し控えさせていただきます

■ご遠慮させていただきます

■お断りせざるを得ません

■ご期待に添いかねます


【「英語」で言うと?】

「見送らせていただきます」をズバリ表現する英語は難しいのですが、[decline]には「丁重に断る」「辞退する」という意味があります。

・He declined the offer of a job very politely.(彼は就職を丁重に断った)

・He declined to sign.(彼はサインするのを断った)

ちなみに、「拒絶する」は[refuse] 、「はねつける」には[reject]が使われますよ。

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仕事であれプライベートであれ、何かをお断りするのは、相手の気持ちを考えると気が重いものですね。とはいえ、曖昧なままにしておくのは、さらに失礼な行為です。期待に添えないことを申し訳なく思う気持ちを表しつつ、断りの意思表示は明確に。これも「大人の語彙力・判断力」というものです。

この記事の執筆者
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参考資料: 『日本国語大辞典』(小学館) /『デジタル大辞泉』(小学館) /『プログレッシブ英和中辞典』(小学館) /『心が通じる 手紙の美しい言葉づかい ひとこと文例集』(池田書店) /『敬語マニュアル』(南雲堂) /『「させていただく」大研究』(くろしお出版) :